12.
チャイナドレスの女――梨沙は言いながら、ずいずいと累に近づいてきた。
累は思わず後ずさる。
「お、岡崎さん……ですか」
「梨沙って呼んで。あと敬語はやめてよ。――そんで、こっちが葵空太。あたし達と同じく蒐集師で、良いとこの坊ちゃん」
「同じくって――この子も蒐集師なんですか!?」
空太が目を見開いた。
その視線にややたじろぎつつ、累は梨沙と空太とを交互に見る。
「……梨沙さんは、私になにか用なの?」
「『さん』付けもいらない」
言いながら、梨沙はパチンと扇子を閉じた。
「貴女、赤匣屋敷に入るんでしょ? だったらあたし達もご一緒しちゃおうかなーって」
「え、それは」
「あたしさ、まじないニガテなんだよね。空太もどっちかというと機械の方が得意だし。その機械もほとんど役に立たないし……」
「や、役に立たないとか言わないで下さい!」
顔を真っ赤にして空太が首を振る。
「我が葵一族の功績により、キラ蒐集の技術は日々進歩しています! ボ、ボクのこの道具も、かならず梨沙さんのお役に立ちま――」
「はいはい。ま、いいよ」
梨沙はしれっとした様子で空太の手を払いのける。
そして身を屈めると、子供がおねだりをするときのような声音でたずねた。
「だから、さ……貴女について行っちゃダメ?」
「な――」
なんだ、この馴れ馴れしい女は。
絶句する累をよそに、梨沙は困ったように小首をかしげた。
「ダメ? 邪魔しないからさぁ。あたしはそんな大した物蒐集しないし。貴女と蒐集対象が被ったときにはちゃんと話し合うよ」
「ボクはどうすればいいんですか!」
「空太も同じように話し合えばいいじゃない」
梨沙は苛立ったように扇子をぱちぱちと鳴らす。
すると空太は大きく首を振った。
「さっき言ったじゃないですか! ボクはあの屋敷に手に入れなければならないモノがあるんです! それが、彼女の蒐集対象と被ってしまった場合はどうすれば――!」
「その時はその時でしょ。というか……あたしの言うことが聞けないの?」
ぱちん、と梨沙が一際大きな音を立てて扇子を閉じた。
すると空太はハッとした顔で首を振る。
「ち、違います! ごめんなさい!」
「空太はあたしの事、嫌い?」
唇に扇子を当て、梨沙は悲しげな瞳で空太を見る。
空太は真っ赤な顔になって、よりいっそう激しく首と手を横に振った。
「き、嫌いじゃないです! ボクは梨沙さんのためなら――!」
「そう。なら、黙っててよ」
梨沙が素っ気なく言うと、空太はぐっと言葉を呑み込んだ。




