表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
13/58

11.

 夕焼け色に染まる茶屋町を累は歩く。

 石畳の道の両側には、目の細かい出格子が特徴的な茶屋が並ぶ。日中は観光客で賑わっているが、この時間帯は静かだった。

 どこからか響く三味線の音を聞きつつ、累は片手の地図を確認しながら歩いた。

「……意外と、近くにあるんだよね」

 赤匣屋敷の場所は、めぐると累の住む町屋の徒歩圏内にあった。

 裏山へと続く坂道を登っていく。辺りの景色は古い木造家屋の並ぶ街並みから、うっそうと木々が生い茂る山道へと変わっていった。

 静かな神社を通り過ぎてしばらくしたところで、目の前に野原が広がった。

「……ここか」

 ぼうぼうに草が伸びた野原には、なんの建物も残っていない。だが明治の半ばまで、ここにはたしかに夜真の邸宅があったという。

 寂しい草原を見回しつつ、累はコルセットベストのポケットに手を伸ばす。

 取り出したのは、繊細な銀の紋様の入った黒い万年筆。めぐるからもらった箱の中身だ。


「それはマギペンという。貴女がいつも使っているペンよりずっと上等なまじない道具」

 箱から取り出した万年筆を観察する累に、めぐるは言った。

「万年筆自体はまじないの補正具、インクはまじないの触媒となる。それで陣を書き込めば、より効率よくまじないを発動させられる」

「これを使えば赤匣屋敷に入れるの?」

「そう。それを使って、はざまをこじ開ける術を使えば良い。その術も教えよう」

「……いつにもまして甘いよね。なに企んでる?」

「ひどいな。頑張っている弟子に褒美をあげただけだよ」

 めぐるはわざとらしく肩をすくめた後で、僅かに唇を吊り上げた。

「……まぁ、少し過激に縛らせてほしいなって」


「――あぁっ、もう!」

 累は思い切り顔をしかめつつ、くるりとマギペンを手の中で一回転させた。

 恐る恐る手を伸ばし、空中にマギペンを滑らせる。

「わぁ……」

 累は思わず感嘆の声を上げた。

 マギペンのペン先からぼうっとした光がにじみ出し、空中に淡い輝きを放つ線を描いた。光の線はしばらくの間空中に留まり、やがて端から消えていく。

「……インクを媒介にして、使い手の力を発現させてるんだ」

 呟きながら、累は再び空中にマギペンを走らせる。

 今度は迷いのない筆致で、虚空に淡い光の線が描き出された。累はさらに複数の曲線を描き、細かな紋様を描き出そうとする。

「――あらぁ、先客?」

「ひっ……!」

 突如背後から響いた声に、累は危うくマギペンを取り落としそうになった。

 振り返ると、黒いチャイナドレスに身を包んだ若い女性が立っている。金に染めた髪を結い上げ、派手なトンボ玉の簪を挿していた。

 チャイナドレスの女は扇子をひらつかせつつ、物珍しそうに累を見ていた。

「それ、マギペンでしょ? もしかして蒐集師なの?」

「い、いちおうそうですけど――」

「へぇええ、すごい! こんなに若い子も蒐集やってたりするんだぁ。――ちょっと空太くうた! こっちに来なさいよ!」

「な、なんですかぁ……!?」

 チャイナドレスの女が誰かを呼ぶと、甲高い声が帰ってきた。

 近くの茂みががさごそと揺れ、白いシャツを着た青年が現れた。眼鏡をかけた大人しそうな見た目で、手にはなにやら小さな箱形の機械を持っている。

 青年は汗を拭いながら、息も絶え絶えといった様子で累達の方に歩いてきた。

「人使いが荒いですよ、梨沙さんったら! ボクじゃなかったら怒ってるとこです! やっとはざまが見つかりそうだったのに、今度は一体何のようで――」

「いいからいいから。あとあたしの事は梨沙って呼べって行ったでしょ――あ、あたし岡崎梨沙おかざきりさっていうの。梨沙って呼んでね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ