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蒐集少女の拾遺譚  作者: 伏見 七尾
Ⅰ.綺羅と累囚
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8.

「この本は……?」

「これが、夜真の画集。これ一冊で五十万した」

「こんなに薄い本なのにそんなに高いの……!? つまりそれだけ絵がすごいって事だよね」

「……あぁ、確かにすごいよ」

 やや言葉を濁すめぐるをよそに、累は本を開いた。

 直後、閉じた。

「ッ……!」

 累はきつく眼を閉じ、頭をゆるゆると振った。

 絵を見たのは、ほんの一瞬だった。なのに、その見開きいっぱいに描かれていた絵は累の網膜に焼き付いてしまった。

 累の開いたページには少女が描かれていた。

 ほの暗い闇に横たわる、黒髪を長く伸ばした美しい少女。

 乱れた襦袢の紅色がその肌の白さを際立たせていた。しなやかな四肢には錆色の杭が打ち付けられ、裂けた肉のぬめりが克明に描かれている。

 そしてまるで熟れきった柘榴のように体から弾けた赤い――赤黒い――。

「う……」

「夜真は幕末期の浮世絵師、月岡芳年の無惨画にかなりの影響を受けたと言われている」

 顔を覆い、累は深く深呼吸をする。

 それをよそに、めぐるは淡々とその残酷な絵画の出自を語った。

「あまりにも凄惨な絵を描くものだから、明治政府が発禁処分にしたんだ。そして夜真の死後、その一族のものは彼の作品のほとんど焼却処分した」

「つまりこれはその残りと言うこと……先生は、これをどうやって?」

 落ち着いた累は、今度は心の準備をした上で画集をゆっくりと開いた。

 画集に収録されていたのは、六枚の絵画だった。

 どの絵でも黒髪の少女が画題として選ばれている。そしてその全てで少女はあらゆる方法で痛めつけられ、引き裂かれていた。

「何年か前に、マニアのオークションで出たの。興味本位で競り落とした……まぁ、私の好みではなかったけれど。欲しければあげるよ」

「……いらない」

 累は画集を閉じ、首を振る。

 どの絵も酸鼻を極める絵面だが、累はそれよりも少女の目に痛みを感じていた。

 画題の少女は、まるで淀みきった沼のような瞳をしていた。

 どのページでも少女のまなざしは変わらない。そのせいか、確実に殺されているような構図でも、画題の少女には奇妙な生命力を感じられた。

「……この絵は嫌だ。この子が、なんだか本当に生きているような感じがして……」

「そう。私もあまり好きじゃない。この画集――というか、夜真の画風そのものが芸術と言うよりは観察日記みたいだ。面白みがない」

 めぐるは肩をすくめると、累の手から画集を取った。


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