白き灰がちに
『ごめんなさい。やはり私は、藤原先輩が仰るほどの者ではありません。期待をさせてしまったのならば謝ります。だから、だからもう、私のことは忘れて下さい。そしていつかまた、新たな出会いを致しましょう? 私と貴方ではない、紫式部と藤原道長で』
これは、私自身の言葉。つい最近、道長様に告げた言葉。私の弱さも気持ちも全部、全部、この言葉の中に詰まっていると思う。だからそれを改めて、文章に認めて道長様へと送るのだ。今度はきちんと伝えられるようにと。
不慣れな言葉ではなく、私の友達とも呼べる、文字で伝える。そうして完全に、”藤原先輩”への初恋は過去のものへと変えるのだ。またどこかで、彼と出会う事が出来たのなら、今度こそきっと、私は強くなれるのだろう。そんな奇跡が本当に存在しているのなら、私も彼に相応しい人になれるのだろう。
なんだか、清々しい気持ちだった。とても失恋をしたような気持ちではないわ。そもそも、告白も失恋もしていないような気もするけれど……。何にしても、初恋を諦めた直後だと言うのに、悲しさはあっても未練らしきものはない。
これから、なりたい私に変わっていくんだ。
抜け駆けになってしまうかしら。ごめんなさいね、清少納言さん。あなたに相談すらしないで、私は裏切り者だ。
だけれど、これが最後のチャンスだから。
翌日、彼の教室に押し掛けた。
「藤原先輩、これを受け取って下さい。今度こそ本当にさようならです」