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火桶の火も
確実に彼と会える術があるのなら、誰も彼を探して校内を彷徨ったりしないというものだけれどね。私だって、彼と会える偶然を願い、彼を探し歩いた日々を忘れた訳ではない。清少納言さんを信じ、協力し合っていた日々を、忘れたりする訳がない。
彼と会うだけの為に、私達は春から夏を過ごした。そして夏も終わった秋の日、やっと彼と出会ったのだ。初めて彼と会話をしたのだ。それからいくらもしないうちに、私自身の手で初恋に幕を下ろしてしまうことになるとはね。
彼と共に過ごした日よりも、彼を追い掛けた日の方が長かった。そして彼を追い掛けたその日々の方が、今の私には輝く思い出に見える。夢を語ったあの日々が懐かしく、もどかしさを感じながらも、楽しかったと記憶に刻まれている。
だけど私は道長様との思い出を汚す事は決してしたくない。清少納言さんとの思い出も大切にしたい。もしどちらか片方を選べというのなら、私は私を犠牲にしてでも両方の思い出を選ぶわ。
道長様は私にとって大切な人。これは変わらない。清少納言さんが私の友達であることもね。