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火など
これで、清少納言さんのこと、裏切っていない事になるのだろうか。それともこれは、私の恋を終わらせただけ。ただの、自己満足に過ぎないのだろうか。裏切りの罪は償えないものだと、私だって理解はしているのだけれど……。ああ。
「ねえ、恋文なんだけど、調子はどうかしら? 最近は彼との接点が増えたから、あたしったら筆が進んで困るのよ」
一人で傷付いて涙を流していた私に、清少納言さんの声が聞こえた。どうして、彼女がこんなところにいるのだろうか。今の私がいるのは、校舎裏の階段の下。影になっていて、人なんか現れないし現れたとしても見つからない場所。かくれんぼをしていても、見つかりにくい場所だろう。
それなのに、どうして清少納言さんはこんなところに? まさか、私を追って来たとでも言うのだろうか。いつから私を見ていたのだろうか。抑々、どうしてそんな事を彼女がするのだろうか。道長様とのやり取りを見ていたんだとしたら、どうしてこんなにも優しい声を掛けてくれるのだろうか。様々な疑問が、私を狂わすように頭の中で渦巻き続けていた。