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いと寒きに
「ごめんなさい。やはり私は、藤原先輩が仰るほどの者ではありません。期待をさせてしまったのならば謝ります。だから、だからもう、私のことは忘れて下さい。そしていつかまた、新たな出会いを致しましょう? 私と貴方ではない、紫式部と藤原道長で」
逃げたんじゃない。私の中では頑張った方だと思う。道長様にそうはっきりと言って、私は歩き出したんだ。大好きな彼に背中を向けて、私は歩き出せたんだ。視界は歪んでよく見えていなかったけれど、早く彼から離れたくて、私は早歩きに校舎の影に隠れた。
彼とは反対の方向へと、私は歩き出した。その事により、私は未来へと歩き出せているような気がした。それは彼と一緒に過ごす未来ではなく、彼とは反対の方向の、彼に背を向けた未来。だけど私は、立ち止まってばかりではなく、やっと歩き出せたような気がしたんだ。その事を示してくれているような、気がしたんだ。
「さよなら。私の初恋」
小さく呟いたその言葉は、私の耳にすら届いていないだろう。だけど私にとって、恋を終わらせてくれる、ものだった。何度でも。