白い絵本
あるところに白い本がありました
白い本は自分に物語がない事を不思議に思いました
そして、本は、物語を探しに行きました。
一つ目のドアを潜ると、そこは青い海の底でした
とても美しい海の中にもっと美しい人魚がいました。
本は人魚に、自分の物語になってくれと頼みました。
人魚は首を横に振りました。
「私は泡になる運命なの。あなたの世界へは行けないわ」
本はがっくりと肩を落とし、次のドアへ向かいました。
二つ目のドアを潜ると、そこは赤いバラの庭でした。
赤いバラのしたで、のんびりと昼寝をしている少女がいました。
本は少女に、自分の物語になってくれと頼みました。
少女は目をこすりました。
「ここは私の夢だもの。あなたの世界へは行けないよ」
本はがっくりと肩を落とし、次のドアへ向かいました。
三つ目のドアを潜ると、そこは緑のイバラの城でした。
城の一番上の部屋、美しい女性が眠っていました。
本は女性に、自分の物語になってくれと頼みました。
女性は小さく言いました。
「王子が私を起こさなきゃこの国は目覚めない、あなたの世界へは行けないの」
本はがっくりと肩を落とし、次のドアへ向かいました。
四つ目のドアを潜ると、そこは金の髪の塔でした。
塔の上には、金の髪の持ち主が歌っていました。
本は持ち主に、自分の物語になってくれと頼みました。
持ち主は微笑みました。
「この塔から出られないのにどうやって?あなたの世界へは行けないね」
本はがっくりと肩を落とし、次のドアへ向かいました。
五つ目のドアは、真っ黒でした。
「うわあ!」足を滑らせた本は、黒へどんどん沈みました。
白い本は、黒い本になりました。
「どうしよう。このままじゃ、物語になんてなれない」
本は泣きました、大きな声で泣きました。
真っ黒の中、一人で泣きました。
すると黒の向こうから、死神がやってきました。
「どうしたの?」死神は本に聞きました。
「物語がないの、僕は本なのに!」泣きながら本は言います。
「物語ならあるじゃないか!自分の体を見て御覧!」
本は、自分の体を見ました。
黒く染まった所が、自分の涙で取れて、色がついていました。
青、赤、緑、金、白、黒。本は驚いて目を見開きました。
「ほら、君の、君だけの物語さ!」
死神は笑って、本に言いました。
こうして、世界でたった一つの物語が、生まれました。
学校での課題で友人へ送った物です。
掲載許可は頂いております。