古き理篇 二
女官さんに軍師にお茶を持って行きたいと言ったら、私の服装も相まって珍しいものを見る目で見られてしまった。でも見世物小屋の時の下品なおっさんとか、あからさまに違う生き物を見る目とは違い、何だか好意的な感じなのに、私は思わずどぎまぎとする。
「それでは、この茶葉をお使い下さいませ」
「あの、ありがとうございます! ……これって、どうやって淹れればいいんですか?」
出してくれた茶葉は、茶葉と言うよりも植物の塊みたいなもので、これにそのままお湯を注げばいいのかが分からない。それを見て、女官さんが手招きして見せてくれた。
茶瓶にあの塊みたいな茶葉を入れてお湯を細く素早くそそぐと、それに蓋をする。
「これで後は持って行って下さい。持って行けば、そのまま飲み頃になりますから」
「これだけでいいんですか? ありがとうございます」
「いえいえ。中身も開けてお楽しみ下さいませ」
「へあ? ありがとうございます」
私は首を捻りつつ、それを持って行く事にした。
「辰巳、お待たせ。お茶もらったよ」
「……花茶か」
「え?」
「蓋取ってみろ」
「え? わ、すごい」
持って行く頃には飲み頃になってると女官さんが言った通り、確かにふくよかないい匂いが漂い始めたと思ったら、蓋を開ければ茶瓶いっぱいに花が咲いていたのだ。さっきの植物の塊は、つぼみを乾燥させたものだったんだね……。
二人でお茶を飲み始めた時、ずっと辰巳が言っていた事を思う。
「そう言えばさ、辰巳の仕事が終わったら、仙人郷に行くんだよね。日付って決まったの?」
「遊びに行く訳じゃないが……あまり長居はできないからな。今晩中にでも発つ」
「って、早っ」
「だから言っただろ。戦争が始まるのに、長い事空ける訳にはいかないって」
「そりゃそうだけど……戌亥さんと子子ちゃんはどうすんのさ」
「二人は留守番だ。そもそも、戌亥は無断で仙人郷に入ったんだろ。普通は仙道以外入るのは禁止だ。主僕契約しているならともかく」
「さいですか……」
まあ、確かにそれが原因で戌亥さんとやり合ったんだし、それが普通よねえ。
しかしいきなり押しかけて大丈夫なのかしら、甲さんだって色々あるだろうに。私が言いたい事が分かったのか、辰巳は相変わらず眉間に深く皺を刻んだまま、私の方に目を細めた。
「師匠の方には特に何も言わないぞ」
「そうなの?」
「師弟であっても、互いに過度の干渉は行わないからな」
「ふーん……割と勝手だよね、そう言うの」
「そう言うしきたりなんだ」
本当、仙人郷も不思議なとこだよなあと思ったりする。
古き理って言うのに沿った生活を行ってると言ったり、かと思えばそれに逆らった方針執ったらそれだけで戦争の材料になり得たり。私も古き理の事を勉強すればもっと違う見方ができるのかしら?
外は相変わらず真っ白で、時折廊下を慌ただしく女官さんが通り過ぎたり、庭では雪を物ともせずに訓練している軍人さんが見えたり。
もっと戦争が近いとピリピリする空気なのかなとも思ったけど、北都国に入った時に感じた綺麗って言う感想と、どこか皆が寄り添い合って生活していると言う極寒の地にも関わらず温和な雰囲気と言うような言葉がぴったりな感じだ。
もうすぐ戦場になるのかと思うと、それが不思議で、同時にざわざわとする。もう何度も何度も辰巳から説明は受けているけれど、それでも不安で、怖くて。
と、頭がぱすぱすと言う音を立てた。
辰巳が私の頭を撫でたのだ。
「……何よ」
「不安な顔してたみたいだからな」
「えー、アンタそう言うキャラ……人だったっけ?」
「うるさい。したいからそうしただけだ」
「えー……まあ、いいや。あんがと」
「とりあえず荷物はまとめておけ」
「ういーっす」
そう言いながら辰巳が再び地図と睨めっこ始めた。
また仕事始めちゃったけど、私、少しは休憩させる事ができたのかしらん。自分でも自信はなかった。
私の荷物なんて、ここに来てからずっと肌身離さず持っている学校の制定鞄位だ。靴だって壊れちゃったし、私の向こうから持って来たもので無事なのって、もうこれと制服位だもの(動けなくなりそうな位ごちゃごちゃしてるから、私は未だにこの世界の服を勧められても断っている。動けなくなったら意味がない)。
甲さんは聞いたら教えてくれるのかな。古き理を知ったら、ちゃんと丁を止める事ができるのかな。戦争する以上は、できれば皆が生きていて欲しいけど……。
考える事がごちゃごちゃになり過ぎて、私には上手くさばききる事ができなくって、私はただ花の匂いのするお茶を飲む事で誤魔化すしかできなかった。そう言えば遊びに行く訳じゃないけど、命がかかってないお出掛けってここに来てから初めてで、そこだけは何とか気持ちを上向きにする事ができた。




