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古き理篇 一

 北都国に来て、一週間。王様に謁見してからは大体六日前後経った。

 相変わらず雪は止む気配はない。この国の春は私の世界の北国よりもずっと短く、一年の八割は雪で覆われているらしい。

 軍師として軍事会議に呼ばれるようになった辰巳は、色々と忙しそうだった。私も辰巳と契約している関係上、一緒に連れて行ってはもらえるものの、何を言っているのかはちんぷんかんぷんだった。

 それでも分かった言葉だけを拾って並べてみると、やっぱりこのまま戦争を始めるとなったら停戦のために建てた万里の長城をまずは崩さないと駄目らしい。いきなりこれを全部壊すとなったら、住んでいる人達が巻き添えになってしまうし、長い間続いた紛争のせいで国が消滅してしまい、そもそも戸籍が滅茶苦茶になってしまった人もいる訳だから、宣戦布告をした後にすぐに避難勧告って事になるらしい。


「意外と言うか、何と言うか」

「何だ?」


 辰巳が広げられた竹簡の地図を睨みながら、時折筆を滑らせるのを眺めながら、私は手持ち無沙汰にしていた。

 軍師様の僕と言う設定のせいか、ご飯に困らないのはいいけれど、服に関しては私は何とか逃げ回って学校の制服のままでいさせてもらっている。締め付けられる上に苦しい格好しても、機敏に動けるとは思えなかったし。流石に南都国側ではこちらに散々追撃してきて、北都国に入るまでも追い打ちをかけてきた丁も、北都国の、それも王城内にまで嫌がらせをしてくるとは思えなかったけれど、あれだけ散々好き勝手にされたのだから、怖くなったって仕方がないと思うんだ。

 私は思いついた事を辰巳が筆を少しだけ止めてこちらに顔を上げたので言ってみる。


「うん。宣戦布告はするんだなって。いきなり奇襲とかはなしで」

「ああ……それが小国同士の小競り合いや、邑と大国位の格差があるんだったら、いきなりの奇襲はあっただろうが、大国同士になったらそうも言ってられないからな」

「そうなんだ?」

「戦争をして、互いに略奪が目的だったらそれもあるんだろうが……元々戦争って言うのは外交の一つだ。元々北都国と南都国も互いに国交はあったんだ。仲がいい悪いはともかく。その外交に亀裂が生じたのが、先の戦争だ。そして停戦として、互いが互いを攻めないようにと万里の長城を建設した」

「そこまでは分かるけど」

「万里の長城を建設するのに出資したのは両国共にだ。通告なしで破壊する訳にはいかない」

「あー……」


 少しだけ納得したような気がする。

 いきなり万里の長城を抜けて攻め滅ぼすって事ができないのは、万里の長城の利権が絡んでたって事か。中立国家状態のあそこも、相当な綱渡りで平和を維持してたって事だ。

 辰巳が先に書いていたのは、どうやって南都国を攻めるかって言う指示書だけでなく、どこから先に避難誘導するかって言う事も書かれていた。壊すって事がはっきりしている以上は、宣戦布告してから避難誘導してたら遅いからと、既に避難勧告用の指示を出していた。


「難民受け入れで上層だったら北都国で受け入れられるが、下層を受け入れるには時間がかかりすぎるから、邑や小国に頼まないといけない。そして早期終結の戦場もまた用意しないといけない……やる事が多いな」

「本当、戦争って大変なんだね」

「だから戦争は最終手段なんだ。好きで略奪するのは盗賊の仕事だ」

「ふうん……」

「それに、この戦争で丁はようやく本性を剥きだすだろう」

「ああ……言ってたよね、それ」

「宣戦布告の日時がまとまり次第、一度は仙人郷に戻らないといけないからな。それまでにやるべき事は終えないと」

「ん……」


 辰巳はきびきびと仕事をしているのを見ながら、私は頬杖をついた。女官さんが用意してくれたお茶はすごく美味しくて、そう言えば甲さんが出してくれた茶粥はすごく美味しかったなと言う事を思い出した。

 何だか辰巳が無心で仕事をしているのは、ずっとピリピリしていた辰巳を見ていたせいかな。すっごく生き生きとして見えた。辰巳は力があるのに、それを発揮する場所がなくって、尻尾がないって言うたったそれだけの理由でずっと難癖つけられていて。それを抜いて自分の力を必要としてもらえると言う事が嬉しいんじゃないかなって私には思えた。

 何だか、すごく嬉しいなあ。

 戦う事も仙術も、この世界の家事全般だって満足にできないけど。辰巳と一緒にいるって事で辰巳の力になれるのなら、私はそれがすごく嬉しい。

 私は一体辰巳の事をどう思ってるんだろう? 久々にやる事が何もないって状態に放り込まれたせいか、唐突にそんな疑問が沸いてきたけど、それには首を振って蓋をする事にした。

 だって、野暮じゃない。今、辰巳がすごく仕事頑張ってて、皆のために頑張ってるのに、そこに私の感情を差し込むなんて、何かおかしいじゃない。

 そう思って茶器を持ち上げた所で、既に茶器にお湯が入っていない事に気が付いた。お茶、おかわりもらってこよう。


「ちょっと女官さんに頼んでお茶もらってくるよ」

「そんなの、その内来ると思うぞ」

「いいの! 私がもらいに行きたいだけだから」

「寒いからな」


 鈍感。内心舌を出したい気分を堪えつつ、私は外に出てお茶をもらいに行く事にした。

 相変わらず、中庭には真新しい雪が降り積もっていた。

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