崩落篇 十六
結局の所。
辰巳は北都国に仕官すると言う事となった。職業は軍師。軍師って言うと、諸葛孔明って名前が出てくるけれど、何をするのかって言うのは詳しくは知らない。辰巳に聞いてみたら、「戦の計略を考える立場だ」と言われた。計略って言うと、結局は作戦を立てるって言う事になるのよね。
戌亥さんと子子ちゃんは客人と言う立場で、私はそのまま辰巳の僕と言う立場で、こうして部屋に通される事となった。
戌亥さんと子子ちゃんは客人としての部屋に送られ、私と辰巳が軍師の部屋へと連れて行かれる。
「しばらくしたら食事を用意致しますので、しばしお待ち下さいませ」
そう女官さんに頭を下げられてしまうと、思わず私まで「いや、お構いなく!」と言ってしまい、辰巳にはたかれてしまう。
通された部屋は広間と同じく真っ白で、中にあるベッドも椅子も天蓋も、今まで泊まったどの宿の部屋よりも豪華だって言う事は分かったけれど、辰巳曰く「質素なものだな……」と言う事らしい。
全体が真っ白って言うと、病院とか思い出すけど、でも多分病院もこんなに豪華なんじゃないかなあって思うけど、一体これが質素だったら、辰巳が認定する豪華って一体どういう場所を言うんだろうって思わず勘ぐってしまう。
「北都国は大国だが、年中雪に囲まれているために諸外国が攻めにくいと言う形なのが大きい。だからこうして国を大きくすると言う事に集中できたんだが、それで質素な生活を送ると言う事に抵抗がないのは……あの王は相当覚悟があるんだろう」
「そう言うものなの?」
「あの王は……恐らくはいい王だ」
まあ、南都国がどういう理由で丁を追い出さないのかは分からないけれど、仙道が入り込んでいるのに気付かない位におかしくなってしまっているって言う事は理解できた。
それにしても、私は首を傾げる。
「ねえ、辰巳。よくアンタも言ってるさ、古き理って結局何? 私もここに来て、皆常識みたいに言ってるけど、それがいまいち分からないのよ。あの王様が南都国は古き理を壊すから、敵とみなしたと言っているけどさ……」
そりゃ私の世界だって、宗教観の違いでそれにたてつくから敵だって言う考え方、ない訳じゃない。日本は幸い宗教戦争らしいものは起こっちゃいないけど、他の国だったらそれが立派な戦争の動機になるって言うのは世界史の時間で習ったと思う。
辰巳はしばらく黙った後、私に椅子に指を差した。ここもやっぱり真っ白で、そこに黙って私は座る。ふかっとしているのは、以前甲さんが寝かせてくれた寝所のベッドを思い出させた。あれも原因不明で妙にふかふかしていたような気がする。
私が椅子に気を取られつつ、座っている中辰巳は少しだけ面白い顔で眺めた後、一言言った。
「俺も知らん」
「え、知らんって……どゆこと?」
「本来、古き理の原文は国の王と仙人郷の管理下で、それを読めるのは仙人資格の者と王だけだ。今は戦争が原因で南都と北都、この二国の王位しか読めないだろうし、仙人郷でだって道士資格では読む事は許されていない。今俺達が知っているのだって、本当に親が子供に語る昔話ののりで語れているものばかりだ」
「そうだったんだ……」
そう言えば八仙がどうのこうのって言うのは言ってたな……で、南都国はそこからわざと外れるような行動ばかりが目立つから、もう我慢ならないと言う事で戦争が始まると言う事か。ん?
「あれ、じゃあ丁は?」
「あいつがどうかしたか?」
「あの人は、古き理知ってるの? あの人は辰巳の姉弟子で、甲さんがお師匠さん……だったんだよね?」
途端に辰巳の眉間に鋭く皺が入り、私は思わず肩を跳ねさせる。
「だから! 何でいきなり怖い顔するかなあ!」
「……そもそも、あいつは戦を起こそうとしていた。少なくとも俺はそう取っている。でも、そうなったらあいつが戦を起こす理由があるはずなんだ。……俺だと、古き理は閲覧できない。せめて誰かに……」
「それこそさ、甲さんに許可をもらう事はできないの? それを読ませてって」
「無理だ、俺は道士で閲覧資格が……」
「でも、今はそれもそうだけどさ、肩書きそれだけじゃないじゃん」
私が思わずそう言うと、辰巳が眉間の皺を消す程に意外な物を見る目で私に対して目を大きく開いた。って、何でそんな顔するんだ、私だって考える事はあるって言うのに。
私は自然とポンと辰巳の肩を叩いた。
本当に頼ってばっかりで、私は辰巳に何ができてるのか分からないけれど。ただ全部を辰巳に任せるのだけは、絶対に嫌だったから。私ができる事をやるの。辰巳は私が嫌な事を嫌だと言う所が一番いい所だと言ってくれた。だとしたら、多分私は考えて出した答えを言えばいいんじゃないかなって思う。
相変わらず、政治とか戦争の事は頼りきってしまっているのは否めないけど。
「辰巳の肩には、私も含めていっぱい色んな人の命が乗るの。それこそ、万里の長城を壊すとなったら、絶対大変な事になる。もし壊れないなら、それに越した事はないし、王様も皆を助けたいって言ってくれた。南都国の王様が悪い人かもしれないけれど、人が皆悪い人な訳じゃないじゃない。
ねえ、軍師やるんでしょ? もし丁の目的が分かったら、先の行動が読めるかもしれない。もし、古き理を知る事ができるなら」
「……はは」
辰巳は何故か笑い出していた。私は思わず目をぱしぱしとさせる。何だかデジャブ。前にも辰巳に大笑いされた事があったような気がする。私は思わずむくれて唇を尖らせると、辰巳がばしばしと私の背中を叩いてきた。
「……まさか、お前から言われるとはな。決意は固まった」
「え、何よ」
「……宣戦布告までにはまだ時間がある。それまでに丁の目的を割る」
「じゃあ」
「師匠に、古き理の閲覧を頼む」




