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崩落篇 十五

 私の言葉に、王様は少しだけ面白そうに顔を持ち上げてきた。腕かけに身体を預けてこちらを見る様は、話を聞いてくれる気あるって事でいいんだよね?

 私は王様を真っ直ぐ見る。身体が感じるプレッシャーは、きっと王様が放っているものだろうな。本当に偉い人となんてしゃべった事ないから、失礼な事言ってるかもしれないけど、ここは翻訳機能が頑張ってくれる事を祈ろう。


「……私は、格好で分かると思いますけど、この世界の人間ではありません」

「異界の民か……」

「……私が来たのは手違いだと、術者の辰巳から聞きました。だから私を元の世界に返すために、こうして辰巳は苦労をしてくれているんです。私のためだから、だから、辰巳は悪くありません」

「子供のような主張だな。主の手違いなら、それは主の過ち。それを正すのは普通の事。それを僕が庇うとは……」


 うう……。これじゃあ論破なんてできない。私は唇を噛みつつ、それでも言葉を続ける。言葉は足りないかもしれない。それでも、全部を辰巳のせいになんてしたくない。


「私の世界と、この世界は、しきたりも文化も、生活水準も全然違います。……私が全くそういう常識に慣れなくって、失敗したり、間違ったり、突っ走ったり、すんごく迷惑かけても……そこでいらないって思ったら、私を捨てたり、私を元の世界に返すの放棄したり、売っちゃったりしてもよかったと思うんです。けど、辰巳はそういう事しなかった。そりゃ私は超能力者……通じるかな……じゃないですから、辰巳が色々わざと言わずにいてくれたり、黙っていてくれた事の意図を100%……全部……分からなかったり察しが悪かったりしますけど、今だったら分かります。辰巳は本気で私の事を心配した上で取った行動だって。本気でおかしいって思ってる事、理不尽だって思ってるものから私を守ってくれていたって。

 だから……。この人だけに全部を押し付けて、ただ泣いて、私を元の世界に返してとか、私は不幸だって言う事なんて、できないんです。

 もし持ってるなら、お願いです。宝貝を私達に下さい。さっきも言いましたように、私は本気でこの世界の常識に疎いですし、色々と察しが悪いですし、でも五体満足だから多分教えられた事はできると思うんです。料理や洗濯は教えてもらわないと駄目かもですけど、掃除だったら何とか」


 考えて、言える事だけを一気にまくし立てて、最終的に頭を下げていた。土下座……の方がもしかしたら正しいのかもしれないけれど、この世界のしきたりなんて分からず、ただのパフォーマンスに取られたらやだなと思って、つむじを見せるまで頭を下げる事に留めた。

 しばらくの間、沈黙が降りた。それはやがて、くつくつと言う笑い声で破られた。


「ふふ……僕のお前が、そこまで言うとはな。しきたりが分からない、文化が分からない、そこでなお泣かない、不幸だと言えない、か。

 時折、お前みたいにこの山に誤って落ちる者達もいる。もちろん、頻繁にある訳ではない。仙術を駆使してみたいと言う仙道や宝貝使いが術式を誤った末に起こるのだ。その時、大半はこの山の不条理に飲まれ、理不尽に嘆き、世も人も恨んで壊れ果てる事はたびたびある。

 確かにお前は運がいい。女で、尾なし。それだけで落ちた場所によればひどい事になる事が多いが、そうはならなかった。それでも人は自分より幸多い者を見たら羨むあまりに恨むものだ。

 それがお前にはないのは、美徳だな」

「あ、の……それじゃあ」


 この感じは……割と、好感触?

 でも、また宝貝がないって言う事もある訳で。私は頭を上げていいのかこのままでいいのか分からないまま、固まっていた。

 やがて、辰巳がぺちんと私の頭を叩いた。


「馬鹿、何好き勝手言ってる」

「何よぉ……。だって、これ全部私のせいじゃん」

「好き勝手言うな、そんなんじゃない」

「アンタがそれを言うかなあ……」


 ようやく頭を上げると、王様と目が合う。王様は満足そうに笑って、肘をついてこちらを見ていた。


「……祭具用宝貝は、確かにこちらにも存在はする。ただし、それを引き渡す条件は一つ。古き理を守る手伝いをしてくれたら、だ」

「あ、れ……?」

「貴殿は知らないか、古き理を」


 王様がふっと笑うのに、私は周りを見回した。辰巳は軽く口にする。


「……古き理は大国の王なら知ってるはずだ。今は大国や仙人郷位にしか残ってないはずだ。俺も、道士だからそこまで詳しくは知らない」

「ああ、そう、なんだ……」


 前からぽつぽつと聞いてはいたけど、それが何なのかはいまいちよく分からない。そのまま私は、王様に「だ、そうです。ごめんなさい、言葉の並びだけは知ってますけど、中身までは知らないです」と伝えると、王様は「知っていればそれでいい」とだけ答えた。


「貴殿達は万里の長城から北都国に来たと聞いている。南都国がおかしいと言う事は、既に知ってはいるな?」

「……冤罪で南都国を追われた身です」


 辰巳が短くそう言うと、王様は短く唸り声を上げる。


「……近い内に山は割れるであろう。被害は最小限に抑えた。できれば全ての山に住まう民を助けたいとは思うが、私の力にも限度がある」

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