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崩落篇 十一

「アンタ何言ってるのかマジで分かってるの!? と言うかそんな「今日は酒があるから宴会」みたいな感じで決めちゃってもいいのかな!?」


 辰巳の言葉に、私が思わず悲鳴を上げても仕方がないと思うんだ。だって、私だっていくら社会科見学で国会見れるからって、そこで即総理大臣に会おうなんて発想は出てこないもん。そもそも女子高生が「会いたいです」と言ってすぐ会える訳ないでしょ。

 辰巳も何考えてるんだと頭を抱えていたら、辰巳は少しだけ目尻を釣り上げる。


「お前の世界では、国王と会うのが大変かもしれないが」

「そりゃ大変だっつうの。一般人がほいほい会えるもんじゃないっつう事位分かってるよ」

「俺が誰だか分かってないのか?」

「分かってないのかって、アンタは辰巳で、道士で、仙人郷所属……ん?」

「仙人郷の事を盾にするって考えはあんまり好きじゃないが、今回ばかりは仕方がない、かな」


 そう言えば、一応仙人郷自体は本当だったら一般人立入禁止で、私がイレギュラーだったんだったっけ。だから蓬莱の枝の人達が無断で入って来たのに辰巳が死ぬほど怒っていた訳で。

 南都国と北都国。どっちも山で一番上にある大国で、それより上にあるのは仙人郷だけで、それはつまり仙人郷が一番物事の権限があるって事で。でも丁が例外なだけで、本当だったら他の国の情勢に口出しとかは仙道は基本しないんだったっけ。どこまで説明受けたか覚えてないな。ややこしい。

 私があれこれ頭をうんうん悩ませている間に、辰巳はゆったりとした歩みで歩き出したのに、私は慌てて着いて行く。


「でも、戌亥さんや子子ちゃんは待たなくって大丈夫な訳? ほら。雪に埋まってるかも分かんないのにさ……」

「それはもう問題ないだろ」

「問題ないって……」


 んな滅茶苦茶な。そう思っていたけど。


「おっ、着いたか。悪かったな」

「ああ」


 こちらに声をかけてきた大柄な男性と、引っ付くように寄り添う小柄な少女は、紛れもなく戌亥さんと子子ちゃんだった。


「子子ちゃん! よかった、無事だった!!」


 私は思わず駆け寄って行く。さっきの術式のおかげで、足も軽やかだ。子子ちゃんは冷え切ってすっかりと鼻を赤くしているけど、元気そうだった。よかった。本当に……。

 でも、あれでよく助かったなあと思い、私は辰巳と戌亥さんを見比べると、戌亥さんはひょいとマントの下から巻物を取り出した。って、これ。


「筋斗雲、もしかして戌亥さん達に貸してたの?」

「……嫌な話だが、あいつの狙いは術式を知っている俺と、術式で召喚されたお前だ。戌亥と子子を人質にして俺達をおびき寄せると言うのはあいつらの趣味に合わないと判断した。俺達が派手に動けば、その分二人は先に北都国に行けるだろうからな」

「えー……じゃあ私がさっき聞いた時に最初から言えばよかったのにぃ」

「あの女の趣味はともかく、さっきの奴等二人がそうとは限らないだろうが」

「あー……」


 あの仙人の人達を思い出して、思わず私はぐんにゃりとする。思い返しても、悪趣味な人達だったような気がする。一体丁の何がそこまで仙人集めてるのかはいまいち分からなかったけど。しかしあの人達の持ってた宝貝は、やっぱり祭具用じゃなかったのかなあ……。


「ねえ、辰巳、さっきの人達の宝貝だけど」

「悪いが、これは祭具用じゃないぞ」

「ですよねー……。でも、北都国の王様に会うって、一体何すんのよ」


 私がさらりと聞くと、戌亥さんが意外そうな顔で眉を少しだけ持ち上げた。子子ちゃんは驚いたように両手で口元を抑えてしまったけど、辰巳は気にせずに私に返事をする。


「まずは一点。祭具用宝貝をこちらに譲渡してもらえないかと言う事だ。仙人郷から祭具用宝貝が流出した事を伝えた上でだったら、北都国も文句は言えないはずだ。その宝貝の回収をしている事にすればいい」

「随分とお前さんもあれな事を言い出すなあ。普段権威を笠に着るのを嫌がる癖して。でもそれだったら対価はどうする」

「それだが」


 辰巳は心底眉間に皺を寄せている。

 ん、何だこの反応。私は思わず辰巳をじっと凝視した時、辰巳が言い出した事は、本当に意外な事だった。


「譲渡条件として、俺が仕官する。いずれ戦乱が起こるだろうからな」

「……え、ちょっと待ってよ。どうして辰巳が仕官する事になるかな!?」

「宝貝を手に入れるためにはそうする位仕方がないだろ」

「ばっかじゃないの!? 私が北都国行きたいって言ってから、ずっと勝手に決めてた訳!?」

「……だったら、大国とどうやって取引すればいい? 仙人郷の仙道が仕官するって言うのが一番、支払える対価だろうが。まさか強奪しろと言うのか? それこそ仙人郷の権威を笠に着て」

「そうは言ってないけど! でも、こんなのおかしいじゃん!」


 私が思わず言うけれど、子子ちゃんは少し困った顔のまま黙り込んでしまい、対して戌亥さんは心底面白そうな顔で辰巳の意見を聞いていた。


「なるほどなあ……宝貝入手のために、仕官。かあ……。しかしお前のお師匠さんはそれを認めてくれるのか? 基本的に仙道が知識を与える以外は禁止のはずだろう?」

「俺が戦の助言をする。それなら古き理に反さない」

「なるほど。あくまで古き理から外れる事はしないと言う訳か」


 仙人郷の考えに反しない程度で、仕官するって事か……。

 分かっちゃいるけど。でも……。私が上手く言葉にできずに思わずギリギリと歯ぎしりをしていると、子子ちゃんがくいくいと私の服の裾を引っ張ってきた。


「ん、なあに?」

「卯月さん。それならこれならどうですか? 辰巳さんと卯月さんはその、契約をしているのでしょう?」

「うん。そうだけど」

「なら簡単です。主が大変なのに帰れないとごねましょう」

「えっ……そんなのありな訳?」

「ありですよ、そんなの決まってるじゃないですか。大事な人が勝手に身体を張って、これがお前のためだからって押し付けられたら、怒るのは当然です」


 戌亥さん追いかけて万里の長城から出て来た子子ちゃんが言うと、説得力がひどい。私は思わずじっと辰巳を見ると、辰巳は心底嫌な顔をした。


「……本気でごねる気が?」

「もち。アンタはちょっとは心配してるこっちの身にもなってみろっての」


 ああ、言いたかった事はこれだったんだ。

 私は何もできないけれど、でも心配する権利位は主張してもいいんだと。

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