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崩落篇 七

 散々刃を避け、食事が終わってから下がってきていた体温が上がってくるのが分かる。それでもこの極寒の地だ。汗がぽたぽたと浮かんでくる事はない。

 ただ吐き出す息は空気を濁らせ、真っ白なこの地をより一層白へと塗り変えるのだ。

 男は俺の言葉を拾っても、尚の事笑った。


「何を戯れ言を言ったかと思えば……主上の宝貝のからくりが解けたからと言って、私を倒せるとは」

「あの女の事はどうでもいいんだ」


 刃はまた地面に突き刺さると浮き上がって、俺の方へと襲ってくる。さっきまでは地面へと剣で打ち落としていたが今度は避けなかった。その刃は俺の外套に深く突き刺さると、白い雪に赤い斑点ができた。


「ぐっ……」

「からくりが分かったと言っておきながら、あなたは……ははははははは……」


 俺の喉からくぐもった声が漏れ出て、男は哄笑を浮かべる。

 まずいな……。さっさと終わらせて治療しないと、体温を奪われる。痺れる痛みを感じながら、俺は眉を寄せた。それでも。


「……からくりが解けたからこそ、刺さったんだよ。わざとな」


 俺は刃を引き抜いた。身体から血と共に体温が急に抜け落ちたような気がした。だが、刃は散々俺を刺すまで飛び交っていた癖して、もうぴくりとも浮かんではこなかった。やっぱりだ。これは雪に触れ……俺の地面に落とした影を刺す手順を踏まなくては、俺を刺す対象と認識して襲う事はできない。そして、一度刺さった所ですぐに抜いてしまえば……もう襲う事ができない。

 俺が刃を引き抜いたのを、男は眉を持ち上げて見守り、また刃を俺に向けてきた。また、影で俺を覚えさせる気か、そうはいかない。男は再び薄い外套を翻して、刃を音を立てて投げてきたが、今度は俺の影に突き刺すなんて真似はさせてやる義理はない。俺は刃を落とす事はせず、逆にわざと外套を広げて全部を外套に突き刺した。刺さったまま、刃は沈黙をすると、流石に男は分かりやすく舌打ちをしてきた。


「本当にからくりを解くとは」

「あんたは、沈黙は金多弁が銀って言葉を知らないのか」

「存じませんな」

「あんたは……おしゃべりが過ぎたんだよ」


 男はなおも刃を取り出してこちらに投げようとしてくるが、もう影を穿つのを放置しておく気なんてさらさらない。俺はそれを剣で打ち返して男の影へと送り返した。男は影に刃が届くのを避けるように後ろに退くのに、あれは敵味方を認識しないんだなと目を細めた。

 既にからくりを見破られて使えない宝貝はただのおもちゃだ。男は小手先をやめると、俺に剣を抜いて襲いかかってきた。俺はただ、それを受け止める。


「それで……俺達に何をさせたいんだ。いきなり襲撃してきて。そんなに俺達に北都国に入って欲しくないのか……いや、違うか。逆か。俺達にそんなに北都国に入って欲しいのか? 一体狙いは何だ」


 あの女は、即物的な事はしない。もっとからめ手で物事を動かそうとする。こんな所で襲撃をかけてきたのなら、北都国に入ろうとするのを阻止するのではなく、逆にさっさと北都国に入れようと考えた方が自然だ。俺の問いに口の軽い相手はとぼけたように笑った。


「さあ……何の事でしょう? それよりいいのですか? あなたの……ひとでなしのお嬢さんを放置しておいて」


 卯月をまだ狙ってると言う事か……。それに返事をする気にはなれず、黙って一閃するが、男はそれを避けた。白い髪がぱらりぱらりと落ちたが、それは雪に混ざってよく見えなくなっていた。

 あいつは大丈夫かと言ったら、あんまり問題はない気がする。あいつは自分が弱いと言う事を分かっている。弱いと分かっているからこそ、弱いなりに振る舞えるのが、あいつの強さだ。俺はふんと笑った。


「知った風にあいつの事を言うのをやめてもらおうか」

「ひとでなしのお嬢さんに、宝貝で襲撃されても対処できると?」

「あいつ一人ならともかく、他の連中もいる。なのに、あいつ一人だけでいるから弱いと勘違いしない事だな」


 男の剣がまたも俺に襲いかかったが、今度は懐に入って一突きした。今度は避けられる間もなく、剣は肉の味を覚えた。人が落ちる重さを感じる前に押し出すと、男は目を開けたまま倒れていた。

 俺は剣を大きく振って血を落とした。刃は……悪いが回収させてもらう。俺は名前も知らない宝貝の刃を黙って外套から引っこ抜いて納めると、布を張った方角へと視線を送った。

 戌亥もいて、子子もいる。あの馬鹿もあれだけひどい目にばかりあってたのだ、勝手に一人で突っ走って無茶な事はしないと信じている。

 と、背後から音が聞こえた。一瞬雪崩の前兆に聞こえたが、それはそんな大きなものではない。途端に白い雪煙が向こうから上がるのが見えた。

 敵か、味方か。分からないが、急いだ方がよさそうか。俺は鞘に剣を納めると、急いで走っていった。

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