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崩落篇 三

「おーい、話は済んだか?」

「あ、はーい」


 私と辰巳の話が終わったのを待っていたように、戌亥さんがこちらに声をかけてくれた。子子ちゃんはようやく丸めていた身体を起こすと、慌てて身だしなみを整え始めていた。ひゅるり……と隙間風が滑り込んできて、その思いの外の冷たさに思わず全身をぶるりと震わせた。それでも、多分日が出ている分だけ、夜中の行軍よりは大分マシだと信じたい。信じたい。

 子子ちゃんが起きて作ってくれたのは、寒い場所に出るためなのか、いつもよりもうんと香辛料の効いている辛いスープだった。干し肉に干しきのこ、干し野菜を戻して炊いたスープは、飲むと喉はひりひりと痛む位に辛く、思わず一口飲んでゲホゲホとむせてしまった。


「あっ……すみません。辛過ぎましたか?」

「うー……ごめん。そうみたい」

「すみません。ただ、北都国は寒い国ですから、着くまでに身体を壊してはいけませんし」

「うん」


 何とかむせないよう、今度はそろそろと飲んだけれど、いつもは美味しい子子ちゃんのご飯も、辛過ぎて美味しいのか不味いのかはよく分からなかった。飲み終わった時には全身が発火でもしてんじゃないかって言う位熱くなって、その上にマントを羽織ったら、もう暑いのか寒いのかが分からなくなっていた。たださっきから感じる隙間風もそこまで寒くは感じなくなっていた。

 さっきからあれこれと用意をしていた戌亥さんと丑寅さんを見る。丑寅さんはまた万里の長城に残って、蓬莱の枝の人達の指揮を執るから、ここでお別れらしい。


「えっと、お世話になりました」

「いえ。それではご無事で」

「はいっ」


 丑寅さんに頭を下げた後、ぎゅっとマントを掴んだ。地下街から出て、門の外に出ようとしたら、まぶしくって思わずぎゅっと目をつむった。そして恐る恐る開いた先に、思わず私は口を開けた。

 辺り一面、真っ白な雪原が広がっていたのだ。そして真っ白な雪原の遥か先に、もうもうと煙が上がっているのが見える。あちらに大国が、北都国があるのだろう。


「さっぶ……! と言うか、何でこんなに万里の長城で区切ってるだけなのに、こんなに季節が違うの!? それとも南都国もこんなに雪が降ってるの?」

「いや? 八仙の加護のせいだろう」

「また、古き理って奴なの?」


 何度も聞いた、どうもこの山に住んでいる人全員がおとぎ話として知ってるらしい話も、私はさっぱりと分からない。小さい子に混じって聞くべきなのかしら。恥も外聞も特にないし。

 そんな事を悶々と考えていたら、辰巳が少しだけ溜息をついてから、口を開いた。


「八仙はこの山を作った際に、宝貝を埋めた。その宝貝がこの山に季節を生んだ。東は春、南は夏、西は秋、北は冬。だから南都国は夏に近い国で、北都国は冬に近い国なんだ」

「あ……そうだったんだ。って、この山にそんな宝貝が埋められてたんだね」

「流石にこれ以上になったら国造りの話になってきて、仙人郷位にしか古き理の原文は残ってないだろうけどな。まだ南都国と北都国だったら近い物が残ってるかもしれないが」

「ふーん……」


 武器になったり人を他の世界に飛ばせたと思ったら、季節まで左右するって。一体その宝貝ってどんなもんなんだろう。

 そんな事を思いながら、雪に足を取られないよう、そろそろと歩き始めた。雪は初雪みたいに柔らかくもなければ、溶けて固まってアイスバーンになっている事もない。強いて言うなら、粗いかき氷の上を歩いているような気分だった。ざくり、ざくりと音を立てる度に、ずっとやってた行軍の方がよっぽどましな気がする。確かに夜の行軍の方が足元も分からない中、必死で歩いてたのに対して、こっちは足元が分かってるだけまだマシなのかもしれないけど、どっちもどっちだ。


「これ、一体どこまで歩くの」

「万里の長城から北都国までは、歩きで三日だ」

「三日!? 寝るとこどうするの!」

「野営する以外ないだろ。雪崩が起きないよう祈るんだな」

「うー……」


 どうして南都国と北都国が、互いに万里の長城を作って戦争回避したのか、何となく分かった気がした。北都国が本気出したら、雪崩起こして雪攻めとかされたら、南都国は絶対簡単に滅びる。いくら宝貝使いが何人もいても、自然災害にだけは絶対勝てないと思うの。

 白い煙は見えているのに、それに全然近付く気配がないのに、私はげんなりとしつつ、辰巳の頭を見ながら歩いて行く。雪原とは言っても全部が完全に平らな訳ではなくて、雪を被っているとは言ってもしっかりと森は存在した。時折その森に入りつつ、ひたすら歩いて行く。

 しばらく歩いていたら、辰巳と戌亥さんが止まった。


「そろそろ夜が来るな。野営の準備をしないと」

「え? もう?」

「今から数刻位で夜になる。夜の雪原を歩いたら間違いなく遭難する」

「げぇー……」


 辰巳にあっさりと言われて、そう言えば陽の光が随分と穏やかになっている事にようやく気が付いた。

 本当に、これが三日で終わるといいんだけどな。そう思った所で、簡単にそれは裏切られると言う事を私はきっとどこかで知っている。

 きっとあの夢を見たのはその予兆だったのだと、今は思う。

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