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崩落篇 二

「ん……」


 目が覚めた時に最初に鼻をくすぐったのは、燃えカスになってしまった薪だった炭の跡。毛皮を被って皆眠り込んでいる。いや、皆ではないか。辰巳は既に起き上がって、窓の外を眺めていた。窓の外からは遠くには南都国の派手で煌びやかな建物群が、反対側の北都国からは南都国の煌びやかな建物群とは打って変わり真っ白な建物群が並んでいるのが見える。どちらからも朝餉の準備らしい白い煙が立ち昇っている。

 辰巳は私が起き上がって毛皮を落とした音に気付いたのか、振り返ってこちらを見下ろした。振り返ると子子ちゃんはまだ眠っているみたいだけど、蓬莱の枝の人達は戌亥さんや丑寅さんも含めていなくなっているみたい。今日、北都国出発だからかしら。


「おはよ……」

「ん、もう起きたか、珍しい」

「珍しいって……もう日が昇ってるじゃん」

「お前、割と起きるのどこで寝てても遅いぞ。お前の国は平和だったんだなって、本当に羨ましくなる位」

「うー……」


 時折辰巳から言われる「私の国は平和」って言うのは嫌みかって思う時もあるけど、流石にずっと旅を続けていたら別に嫌みでも何でもなく、本気で言っているんだって嫌でも思い知らされる。

 私は完全に起き上がると、首をぐるぐる、肩も腕もぐるぐると回した。寒くって寒くって仕方がない。


「……ん、変な夢見たの。すっごく怖かった」

「ん?」


 辰巳がぴくんと眉を跳ね上げる。あー、私と辰巳の主僕契約に勝手に割り込まれかけたの思い出してか。私は思わずぶんぶんと手と首を一緒に振る。


「あー、大丈夫だって。大丈夫大丈夫。単純にこの山が真っ二つに割れちゃう夢ってだけだったから」

「真っ二つ?」


 辰巳はなおも訝しげに眉に眉間の皺を寄せたまま聞くのに、私は思わず辰巳の眉間の皺に指を突っ込む。


「だーかーらー、どうして辰巳はこうも心配性なのかなあ。本当にそれだけだって」

「いや……ありえない事でもないって思っただけだ」

「へえ?」


 辰巳の返事に、私はきょとんとする。だって、山を上から下までを真っ二つにするって言うのは万里の長城──今、私達がずっと歩き続けたここが崩れるって事に他ならない。

 そもそもここは中立地帯なはずだし、南都国と北都国がむやみに戦争しないためにできた第三の国……だったはずなのに。

 辰巳は眉間に皺を寄せたまま、顎をしゃくって俯く。


「どういう事よ?」

「戦争の口実ができた場合、北都と南都、どちらも万里の長城を崩す理由ができるからな」

「そういうもんなの……? だって、顔も見たくないからここを作ったんじゃ」

「そりゃそうだけどな。でも、戦争を行う際、わざわざ山の下まで下るのか?」

「そりゃそうだけど……」


 でも、ここには人、たくさん住んでるわよね? その人達の事は?

 ここを行軍している間も、ここに住んでる商人さん達や人達にはたくさん会った。その人達の事無視してまで戦争して、何がどう得するのよ。でも……丁の事を思い出す。

 あの人がどうして私をわざわざ指名手配して捕まえようとしていたのかと言うと、辰巳曰く術式を奪うため、だったらしいけど。でもどうして辰巳じゃなくって私だったんだろう。


「ねえ……あのさ。この山って崩れたらどうなるの? 私の世界だったら、そもそも一つの山に人がたくさん住むって言うのがまずないんだけどさ」


 山があって、平地があって、その向こうに海があって。それが当たり前なのが私の世界だけど、この世界は違う。そもそも山が一つの世界なんだもの。海だって空の上にあるし、平地って言うのは山の一部一部を人が住みやすいように切り開いているだけで、結局山に住んでいる事は変わりない。

 辰巳は少しだけ驚いたように目を見開くと、少しだけ溜息をついた。


「理がやっぱりお前の国とここは違うのか……」

「うん、そうみたいなんだけどさ。で、山が崩れちゃった場合って、この世界ってどうなるの?」

「何もない」

「へ?」

「山が崩れたその下は奈落だ。何もない」

「え……それって、本当に?」


 確かうちの世界も最初は平らで、その世界を象が支えているって言ってたけど。でも宇宙からの衛星で確認したら、世界は丸かったってはっきりと証明されてる。だから山一つがまるまる一つの世界って言われても、いまいちピンと来なかった。

 辰巳は辰巳で、私の世界の理って言うかルールが信じられないみたいで、困ったように眉を潜める。


「元々この山は八仙に作られた山だ。その先には何もない。それは仙人郷でもそう師匠に教えられ、理にもそう書かれているらしい」

「そう……なんだ。じゃあ、山が崩れるって言うのは」

「この国そのものが崩壊する」

「え……?」


 夢の内容を思い出す。

 最初崩れたのは万里の長城で、でも……。どんどん山肌から土が流れていく様が、バキバキって音を立てて木が落ちていく様が、はっきりと見えた。あれって、この世界が滅びるって言う夢だったって事?

 ますます私が青くなる。辰巳は辰巳で考え込むように腕を組んだ。


「ちょっとお前の額出せ」

「え? うん」


 辰巳はいつか私と辰巳の主僕契約が切れていないか確かめていた時のように、私と額をこつんと合わせる。目を瞑った辰巳はしばらく確認した後、私から離れて、軽く首を振った。


「今の所、お前と俺の術式に割り込まれた形跡はない」

「そっか……ただの悪夢、でいいのかな」

「いや。おかしい」

「え? ちょっと……何でそんな怖い事言うかな」


 思わず最後の方は悲鳴になりつつ私が言うと、辰巳は腕を組んだまま更に続ける。


「そもそもお前はこの国の理を知らないのに、国の崩落をはっきりと正しい形で見られたと言うのがおかしい。もしかしたら」

「もしかしたら……?」

「……一度丁に術式を割り込まれた際も、確かお前は丁の事をはっきりと夢で見たな?」

「うん」

「丁の思考を割り込まれた際に、読めるようになったとしたら?」

「ちょ! ストップ……いや待って!? そもそも丁がこの山崩して何のメリット……得があるの!」

「……俺も流石にそこまでは分からんが」


 辰巳は未だに眠ったままの子子ちゃんをちらりと見つつ、溜息をつく。


「その事は覚えていた方がいいかもしれない」

「そ……そこまで重要なのかな」

「お前が思ってるよりもな」


 どうしてそんな脅すような言い方しかできないかな、辰巳も。

 でも。丁に一度割り込まれた際に見た夢も、随分と怖いものだった上に割と重要な事だった。あの人が何を考えてるのかなんて分かんないし、そもそも世界を滅ぼすって言う意味なんてあの人にも何のメリットがあるのかなんて分からないけど。

 覚えてないよりはいいんだろうと思う事にした。

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