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閑話 北の大国

 北都国は先祖代々この山の北部を治めている国である。鉄の採掘と薬草栽培が主産業であり、温故知新を重んじる考え方の国であり、一見古い物に縛られているようにも見えるが、意外と物事に関しては非常に柔軟な姿勢を示す事で有名であった。

 先代、先々代の王からこの考え方は顕著に出て、そのおかげで新しく商売を始めるものや、植物栽培を生業とする者、鍛冶師などが多くこの国に移住してきて栄えていた。

 逆に古い伝統を重んじる考え方の者達はこの国の特色に合わず住みづらく、他国に移住すると言うのが一般的であった。

 かつて南都国と山を二分化する程の激しい戦争を行った国なので、戦後に生まれた者達は好戦的な国なのかと怖れる事もあるがそんな事はなく、むしろこの山に数ある国の中でも倫理観をもっとも重んじる国が北都国である。

 その特色の一つとしては、他国では「ひとでなし」と言う蔑称で呼ばれる尾なしの者達に、普通の尾のある者達と同じ権限を与え、取り立てて差別するなと言う事はないが、差別を推奨するような行いをしない所があった。

 これにより、一部の国からは「ひとでなしの国」と心無く呼ばれる事も多々あったが、質素、堅実をもっとうとするこの国で尾なしの者達は様々な知恵を出して商売に精を出して成長していくので、北都国をよりよく栄えさせるので、この国内では特に何の問題も起こってはいなかった。

 また、この国はこの山有数の学問を重んじる国でもあり、幼少期の頃から学問所で読み書きから始まり、倫理教育の徹底が行われていた。他国では有権者や王族、貴族、富豪でなければ文字の読み書きができない者が多かったのだが、この国の識字率は九割を超えている。故に他国に移住しても職に就く事もできれば学問所の師範になる事もでき、ますます持って住みよい国として知られる事となっている。

 さて、北都国の城内では、今日も国王による執務が行われている。様々な案件がやってくる中、国王が取り立てて注目するのは、他国の情勢であった。


「万里の長城の境はどうなっている?」


 北都国の現国王がゆったりと書簡に目を通しながら側近に尋ねた。この数年、南都国には不審な動きが多く、南都国側に存在する小国や町、邑が委縮していると言う。仙道でもない宝貝使いの動きが活発化していると言うのは、倫理的におかしい仙人郷の秘薬を導入したと思う他あるまい。


「今の所は小競り合いもなく、沈黙は続いています」

「続いている……だといいのだがな」

「と、おっしゃいますと?」


 側近は若い国王に顔を上げる。

 北都国の現国王は、南都国の現国王よりも幾分若い。それこそ、戦後と言われる時代に戴冠式を執り行って王になったのだ。まだ経験も知識も、何もかもが不足しているが、この国特有の学んだ上でそれを生かそうとする活力に溢れていた。それでいて、無茶や無謀な政策を行わない、堅実な政策で物事を固めていく様は、北都国側の他国から徐々に信頼を勝ち取っていた。

 国王は顔に険しい色を浮かべていた。


「南都国のこの数年のおかしな動きは、理解ができるものではない」

「確かに……戦力を拡張する理由が、自国防衛の域を超えています。これは明らかに」

「戦争のための準備、と考えたがいいだろうな。しかし……狙うのはこの山の統一とは考えられないのだ」

「え?」


 側近は国王の言葉に、眉を寄せる。国王は尚も険しい顔のまま、書簡にもう一度目を通す。


「狙いは……恐らく理の崩壊であろうな」

「……は?」


 側近は国王の言葉に、信じられない物を見るような目で見た。国王は重々しく頷く。

 理とは、他でもなく、古き理と呼ばれるものである。本来はこの山を創造した八仙が定めもうた理ではあるが、既に戦乱などでほとんどが失われ、大国である北都国と南都国、そして八仙の教えを全て保管される神域である仙人郷にのみ残されているのみである。

 重厚な柱の向こう。そこには庭が広がっていた。質素、堅実をもっとうとしたこの国では城も質素に堅実にを重んじて、常葉樹に囲まれ、それが降り続く雪を遮っていた。枝からは時折みちみちと言う音を立てて雪を振り落とすものの、真っ白なはずの中庭に緑の色を落としていた。

 今年も訪れた厳しい冬の中、国王は次の句を口にする。


「南都国は、この数年で一体何度理に反する事をしてきた?」

「……秘薬の解放、宝貝使いの多用、尾なしの者達の虐待……それ以上の物がまだあると?」

「ある。これ以上をせき止めるがためにこの山を二つに割ったが。あの国をいずれ平らに帰す日が来るのかもしれない」

「また、戦争。ですか?」

「悲しい物だな……」


 南都国で一体何があったのかは、外交が途絶えた今となっては想像する事しかできない。しかしこれ以上かの国をのさばらせておけば、これは北都国と南都国の対極な考え方だけでは済まなくなるような気がする。

 強硬な手が、いずれ必要になる事だろう。

 本当にそれ以外に方法がないものなのか。苦々しい思いで、国王は歯を噛みしめた。

 国王の案じた通り、戦争の足音は一つ、また一つと確実に近付きつつあるのであった。

 それは、この山全てを巻き込む事となる──。

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