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仙人郷篇 六

 辰巳と頭領さんは間合いを取って睨み合っていた。

 互いに得物を持って、距離を測っているみたい。

 辰巳の得物は剣。宝貝って言うのは聞いてないわよ。って言うか、それ使って私を帰すってのはできなかったのかしら……。

 対して頭領さんが持っているのは大剣。頭領さんの身長は多分180cmは超えていると思うけど、その身長と同じ位ある大剣を平然と片手で構えるなんて……。そう言えば崖から落ちた私を片手で引き上げられる位だから、力はあるんだ、この人。

 時代劇位の知識しかないけど……辰巳の細っこい剣じゃお頭さんの大剣なんて受け止められるのかしら。

 うう、どっちを応援したらいいの。

 ここで結婚するのなんて絶対嫌だけど、頭領さんは言わば私の恩人なんだし……。


「お前」


 あっ、辰巳が頭領さんに話しかけ始めた。


「仙人郷は仙道以外は立入禁止だ。何でここに来た?」

「宝があるのにそれをみすみす逃す手はないだろう?」


 頭領さんは口笛でも吹きそうな軽いノリで辰巳の質問に答える。辰巳の眉間の皺が深くなる。それと同時にジャリッと土を踏む音が鳴る。


「下郎が。ここに盗賊風情にくれてやるものなんてない」

「言うねえ」


 辰巳が剣を構える。

 対して頭領さんは、肩にとんって大剣の柄を乗せていて、余裕そうな感じ。

 冷たい風が吹き抜け、少しだけ砂も一緒に舞う。

 ジャリッて土を踏む音と同時に、2人が動いた。

 そのままカンッて大きな金属音が、火花と一緒に飛んだ。そのまま互いに剣を交えると、ギリギリと押し合う。

 ぱっと互いに離れたと思ったら、また剣と剣をぶつけ合う。それが何度も何度も繰り返された。


「あの坊主、ひょろっこい割にはやるな」


 私を捕まえていた盗賊の人がヒューッて口笛と一緒にそうつぶやく。


「えっ、そうなの?」

「嬢ちゃんは分からねえのか? 大剣の戦い方を」

「……戦いって言うか、武器の扱い方なんて分かんない」

「そうか」


 盗賊の人達は「頭領やれー!!」「坊主簡単には負けるなよー!!」とか、好き勝手に野次を飛ばす中、私を捕まえていた人は2人がカンカンと剣をぶつけ合うのを面白そうに見ていた。


「大剣は本来、相手を刺すために使うんじゃねえ。薙ぎ払う使い方をするんだ」

「えっ……? でも辰巳、吹っ飛ばされたりしてないみたいですけど……」

「それはあの坊主のせいだな? どうやったと思う」

「……頭領さんみたいに、力強い、とか……?」

「それはない。頭領みたいな馬鹿力、そうそういないから」

「だったら……どうして力を……?」

「あの坊主、動き回って重点をずらしている。でなけりゃ何度も切り結ぶ訳がねえ。頭領、あの坊主とは剣だとやりにくそうだなあ……」

「なるほど……」


 辰巳がずっと頭領さん睨んでたのは不法侵入者だからだけじゃなくって、大剣でそのまま押し潰されない距離を測ってた訳ね。

 ん……? でも剣だとやりにくいってどう言う意味なんだろう……?

 何度も何度もカンカンッて音がするけど、どちらも力負けする素振りは見せない。辰巳が的確に動き回っているから、押し切られないんだ。


「これじゃあ埒明かねえと思わないか?」

「戦っている最中に無駄口叩く余裕があるんだな」


 頭領さんは心底楽しそうに大剣を振り回すのに対して、辰巳は神経質な感じ。

 大剣だったら辰巳を吹き飛ばしたらいいんだろうけど、剣の場合は

どうなんだろう。中国の剣だからかな。刀みたいに横に刃がついてないから、斬ったはったにはならないんだろうけど、刺したりはできるのよね……。

 と、いきなり頭領さんは大きく大剣を振った。

 辰巳はそれを受け止めず、身体を大きく反らして後ろへ跳んだ。

 そのまま、頭領さんは大剣を地面へ突き刺した。そのまま手を腰に当てる。

 って、えー?


「まあ、埒が明かねえし、そろそろ女を口説かないといけないからな。手早く終わらせてもらう」

「……何のつもりだ?」


 辰巳はそのまま距離を取ったまま、頭領さんを警戒して見る。

 が、いきなり何かが飛んできた。

 辰巳が後ろへ跳ぶより早く、それが辰巳の腕に絡みつく。


「うっ……!?」


 辰巳は腕を絡め取られたまま、大きく空へと吹き飛ばされ、地面に大きく叩きつけられたーー!!

 辺りは盗賊達の歓声に包まれた。


「ちょっ……アレ何っ!?」

「あの坊主やるなあ」

「やるなあって、やられてるの辰巳の方じゃない!!」


 この人他の盗賊さん達と雰囲気違うけど、もしかして副官ポジションの人なのかしらん……。

 一瞬私はそう思うけど、今は辰巳の方が心配。

 土煙が消えなくって、今辰巳がどうなっているのかがこちらからだと見えないんだから。

 副官さんは面白そうな顔で辰巳が叩きつけられた方を見ていた。


「あの坊主、頭領に宝貝を使わせたんだからなあ」

「ほっ、宝貝って、あれ……?」

「そうだ」


 ようやく土煙が晴れた。

 辰巳は地面に叩きつけられたけど、土でちょっと汚れただけで、怪我はしてないみたい。

 よかった……。

 私は思わずほっと胸を撫で下ろした。

 辰巳はキッと睨み付ける先にいる頭領さんは、ニヤリとした笑いを口元に浮かべ、新しい得物を手にしていた。

 手に持っているのは、腰紐だとばかり思っていた帯状の得物だった。それはまるで意志でも持っているみたいに、うねうねと頭領さんの手元で動く。


「俺にこれを使わせるとは、やるなあ、坊主。名前は?」

「……人に物を訊く場合は、それ相応の礼儀があるんじゃないのか?」

「この状態でそれを言えるとは、いい度胸だなあ。まあいいや」


 帯は辰巳からしゅるりと解けると、そのまま辰巳の腕へと戻ってきた。


「「蓬莱の枝」頭領、戌亥だ。これは俺の宝貝、金鞭」


 帯はうねうねと頭領さん改め戌亥さんの手から浮き上がり、そのまま伸びる。


「さあ、次で決めようじゃねえか」

「…………」


 辰巳は無言で、戌亥さんを睨んでいた。

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