万里の長城篇 三
南都国は元々は大国と言われる部類の国ではなかったんだ。
産業は布製品や装飾品。これだと大国って言われる国にはなりえない。分からないか? 装飾品って言うものが売れるのは大国間。確かに輸出の材料にはなりえるけれど、小国や邑でそんな高級品を土産物以外で売れるのかと言う話だ。
でも南都国は政治改革をして、売れないはずのものを売れるようにした。どうしたと思う? 多分お前さんの国でもやってた事だと思うんだ。
売れない物を売れる方法。売るのを断れない輸出国を作り出す事にした。それこそ、戦争による軍事改革と言う訳だ。
難しい顔をしているな。戦争で売れない物を売れる国を作るって、それ以外に方法はなかったのかって? 大国のごり押しって言うものは、どこでも結構まかり通るものだよ。世の中富力強兵が国を大きくするために必要だって言われているのは、軍事力が強ければ、国を制圧させられない。それどころか、他国を制圧して自分達が余ってしょうがないものを押し付けると言う事ができるんだからな。
ああ、ここで軍事力増強ってそんな簡単にできるものなのかって質問が出てくる訳だな。
普通に考えて、軍事力って言うのはよっぽど無茶な方法でなければできない。お前の国は一体どうなっているのかは知らないが、うちだと軍事力は人や馬が資本だ。人も馬も、そう簡単には育てる事はできないし、徴兵制度を導入しても、たった一月足らずの訓練で育てた兵士なんて、戦場に出しても矢避けに使えればいい方だ。
あー、すまない。お前さんの国は平和だったな。こちらだったら、戦争ってものは身近に感じていたものだから、大国の商家の息子や息女でもないと、戦争の気配を知らない者なんていないんだよ。
あの辰巳だったか? うちの棟梁のお気に入り。あいつだってあれだけ神経が張り詰めているのは、戦争の経験者だからだろうさ。戦争に参加した側って意味じゃなく、戦争で故郷やられてる側だろうな。仙道だって仙人郷に篭もる前は故郷で暮らしてるんだ。あいつだって戦争位知ってるだろう。
じゃあ話を戻すな。軍事力の増強だが、その前に南都国で一つ騒動があったんだよ。南都国の王が后をもらった。それだけだったらよくある結婚譚なんだが、問題なのはそのもらった相手なんだよ。
商家の娘を、どこかに養子にした上でもらうとかではなく、直接もらったんだよ。
意味が分からないか? そうか、お前さんの所だと、王族の結婚話自体あまりぴんと来ないのか。民主主義? 皆で集まって政治を決めている? へー……俺達の知ってる国だと、その民主主義ってのがまかり通ってる国は、あー、うーん……まあ、いいや。今はそんな事より南都国の話だな。
国が王政を行うのには理由がある。一人代表を決めて、そこに意見を集結させる事だ。そしてその代表が道を外れないように周りで見張るためだ。民主主義って奴は要は多数決なんだろう? それで意見をまとめるのってなかなか難しいんじゃないか? それでお前の国がまとまっているのなら別に構わないんだがなあ。
どうして王政の話と后の出自とが関係があるとすると、王の道が外れてないか否かは、政治以外の部分でも左右されるからだ。例えば女と宦官。これらは長い歴史を見ていても、それに政治を任せて滅んだ国はない。だから后は王の手綱を握れるような、そして他国や邑に面目を守れるような家柄じゃなきゃいけないんだよ。王の道ってのを外させないために、皆で王を監視する。それが、本来のやり方。王はそこできちんと面目を守らないといけない。愛に生きるって言うのは、物語としては美しいが、その前に面目を守らなければ、国はまとまらないんだよ。
だけど結婚は決行された。大臣達皆に反対されても尚な。愛は激しい。そんな美談で済めばよかった話なんだが、問題はその後。その軍事力増強の手段だったんだがな。
徴兵制度って奴の問題はさっき話したな。そしてうちの国の軍事力についても話した。それでどうやって軍事力を増やしたかと言うと。
その女は、八仙の秘術って物を引っ張り出してきた。元々は辺境の邑や小国では細々と麻薬の一種として作られてきたものだったが、あの女はそれをより精度の強いものを作る方法があった。
八仙の話はお前さんも聞いてたか? この山を作ったのは、その八仙だってされている、この世で一番最初に生まれた仙人八人の事をまとめて八仙と呼ばれている。で、その八仙の秘術と言うのは、お前さん達が探している祭具用宝貝と同じ位の価値のものだ。今だと複製なんてものはできない。その複製品が、武具用宝貝だしな。
その八仙の秘術の一つに、人の力を極限にまで強くするものが存在する。それは通称は育毛剤と呼ばれているな。それの精製法を、あの女は引っ張り出してきたんだ。
ああ……お前さん達、その育毛剤の騒動にも巻き込まれてたのか。随分とこう、いろんな事に巻き込まれていたんだな? で、その育毛剤を使った男は死んだか。別にあれは育毛剤を使えば死ぬってもんじゃないぞ。多分口止めの術は施されていたんだろうがな。
で、これで急ごしらえで宝貝使い達を大量に作り、それで軍事力を強化し、これで他国の制圧を始めたと言う訳だ。さっきも言った通り、八仙の残した宝貝を複製する事で、それを武器としたんだ。
……一見するとこれで大国である北都国とそのまま互いを潰し合う戦争にはならないんだがな、問題があったとしたら、その育毛剤だ。尻尾を大量に増やす八仙の秘術を、辰巳はいつもどう言ってた?
忌み嫌ってた……か。妥当だろうな。
あの材料は、人道的にも認められないし、北都国が南都国を滅ぼす大義名分を与えるには充分だった。
あれはな……。
一回使う分で、千人の人間の命を使うんだよ。




