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逋逃篇 十二

 耳にびょうびょうと凍てつくような夜風がぶつかる。耳が取れそうな程に痛く、鼻をかみたくともかめない状態に、私と子子ちゃんは必死に筋斗雲の切れ端に捕まる事しかできなかった。

 空は暗く高く、上から見ると闇を伸ばしたような森の中で火の玉みたいな灯りがちらりちらりと見えるだけで、光源らしいものは見つからない。

 それでも、筋斗雲は真っ直ぐに向かってくれていた。

 やがて。


「あ……」


 初めて見た時と同じく、この大きな山を割るようにして伸びている長い長い万里の長城の端が、確かにそこに見えてきた。


「あのさ、あそこって誰もがすぐに通れないから、最下層まで行かないと駄目だったんだよね。確か辰巳が言っていたような気がする」

「はい。そう簡単に南都国と北都国が行き来できるようになったら戦争が始まってしまいますから」

「そこまで緊迫してるんだ……」

「私も詳しい事まではよく知りませんが、思想が合わない。のだそうです。戌亥様から伺いました」


 徐々に近づいてきた長い長い城を見る。上の方にはゆらゆらと光の粒が見えるのに、下に近付けば近付く程に、その光の粒は小さくなって、やがて真っ暗闇に溶け込んでいく。


「関門は大国の近くになればなる程に厳しくなるんですが、そんな関門を通れるのは大商家みたいな人達だけです。軍属の人達は国の勅令がなければそもそも関門を通過する事すら叶いませんから」

「そっか。でも誰がそんな大国と大国の間の関門を審査してるの?」

「一応、万里の長城にも上層には自衛軍が存在していますから。それぞれの国のやり方がおかしいと思った人達が亡命のために万里の長城に移り住む場合もありますから」

「なるほど……」


 じゃあここだったら本当に他国の指名手配とかも考えなくっていいんだ。そう考えたら少しほっとしたのと同時に、また心配になってくる。辰巳達は本当にここまで降りて来られるんだろうか。

 不安にならないと言えば嘘になるけど、私は頭を振った。大丈夫、大丈夫。辰巳は頭だけはすごくいいから。戌亥さんだっているし。やがて、少しずつ筋斗雲の高度が下がる。筋斗雲はようやく私達を万里の長城の近くに降ろしてくれた。


「ありがとう」


 私は子子ちゃんと一緒に降りてから、筋斗雲を竹簡を広げてしまおうとして……やめた。


「あのさ、辰巳達の所に行く事ってできる?」


 筋斗雲は小動物のように首を傾げるような仕草をした後、コクリと頷くように雲の端っこを曲げる。それに子子ちゃんはびっくりしたような顔をした。


「えっと、この雲は……」

「辰巳のお師匠さんの貸してくれた僕らしいから、もしかしてと思ったけど。意思疎通は普通にできるんだねえ」


 そう言いながら私は雲を撫でると、竹簡を渡した。その竹簡を片付けるように筋斗雲は雲の中に埋めると、そのまま飛び去って行った。

 これで、辰巳達も行けるはずだけど。

 さて。私と子子ちゃんは万里の長城を見上げた。この辺りは本当に灯りすらついてなくって、かろうじて土の濃い匂いのする大きな建物がここにあると言う事しか分からない。


「どうやってこの中に入ろう?」

「いつも最下層より手前から中に入る人が多いですし、この辺りはそもそも土が荒れていて、邑すらないんですよ。だからここには見張りがいません」

「なるほど……」

「でもそこをすぐ通られる訳にも行きませんから、隠し扉で出入り口を隠しているんです。先程の雲でも、この辺りには城内に人がいるように見えなかったでしょう?」

「え、この辺り、人がいるの?」

「もちろんいますよ。皆隠れていますから。隠し扉の場所まで案内しますから、着いて来て下さい」

「うん」


 子子ちゃんの歩みはすごく身軽だ。そっか。この子は普段この城が彼女の庭だもんなあ。何だか小さな背中を頼もしく思いながら、着いて行く事にした。

 辰巳達……大丈夫かな。

 信じているはずなのに、それでも心配は付きまとっていた。

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