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仙人郷篇 四

「さーむーいー、つーらーいー、あーしーいーたーいー」


 愚痴がぐちぐちと続く。

 と言うか、何かしゃべって気を紛らわせないと、このままへたり込んでしまいそうで辛かった。

 辰巳のお師匠さんはこの山頂に住んでいるらしいんだけど。

 見渡す限り、山。山。山。それ以外に何も見えないし、登山客みたいな人もいない。

 歩いている道は全然舗装されていない踏むとかたーい岩肌だから、正直革靴の底は今まで歩いてきただけですり減ってるんじゃないかって思う。きっと靴脱いだら私の足もまめだらけになってるんだろうなあ。

 てっきり崖登りとかさせられるんじゃないかなって最初は思ったけど、「お前みたいな腰布で崖登りなんかさせられるか!!」と怒られた。何よー、勝手に呼び出しのはそっちじゃないのー。

 辰巳の住んでいた洞窟からもう2時間近く歩き続けてるんじゃないかなあ。特に私と辰巳の間に話題なんかないから、ただひたすら黙って歩き続けるだけで、流石に私も辛くなってきた。

 だからこうしてぐちぐち言っている訳だ。


「うるさい、馬鹿女」


 私よりちょっと前を歩く辰巳は、振り返って私を睨んだ。

 何よ、そもそも誰のせいでこんな山道登り続けていると思っているのよ。眉間に皺寄せて睨んできても怖くないんだから。


「何よ、って言うか他の道なかった訳? お師匠さん所に直通の道とか!」

「そんなものある訳ないだろ。歩くのも修行の一環なんだから。って言うより、お前のその格好が悪いんだろ! その格好じゃなかったらこんな長い道歩かない!」

「何よ、やっぱりあるんじゃない」

「俺の洞から登っていけたのに」

「ちょっ……私に崖登れって!? 死んじゃうじゃない!」


 冗談じゃないわよ! そんな断崖絶壁登ったら……。

 ただでさえこの道だって細くって、油断したらこのまま落ちそうなのに……。下なんて全く見えないから、落ちたら木っ端微塵じゃない。そんなのイヤ。

 辰巳はイラッとしたのか眉間の皺をますます深くする。


「だからこうしてわざわざ道使ってやってるんだろうが。感謝こそされど恨まれる覚えなんからな」

「うー……じゃあ」

「何だよ」

「せめて休憩!! 足パンパンに張っちゃって痛いんだもの」

「……まだ二刻程しか歩いてないぞ? もう疲れたのか?」

「アンタの体力が有り余り過ぎだってのよ。私はか弱いの! 体力馬鹿じゃないの!」

「…………」


 辰巳の眉間の皺が少しだけ取れた。

 あれ? 何その反応。

 もしかして……私が疲れてるって思ってもいなかったの……?


「……分かった。ちょっとそこに座れ」

「やたー!!」


 私はそのまま座れそうな場所を探した。どこも座ったら硬そうだなあ……。ただでさえ足痛いのに、お尻まで痛くなったらやだなあ。でもマフラーを下敷きにしたくないしなあ。どうしよう。そう思ってふと見たら、辰巳は自分のふかっとした尻尾を下敷きに座っているのに気が付いた。

 ……あっ、あれっ?


「あのさ、アンタ……」

「何だ?」

「あのさ、痛く……ないの?」

「俺はここで修行して長いから。だから本当はそんなに疲れてない」

「いや、そうじゃなくって……」


 尻尾なんて下敷きにして、痛くないの? 私は自分に尻尾なんかないから分かんないんだけど。

 そう言おうとした時、いきなり辰巳に肩をひっ掴まれてそのまま地面に押し倒される。頭を思いっきり地面で打って目がチカチカする。星が出るって言うのはこの事を言うんだ……。


「いった……! ちょっと何!?」

「……静かに」


 静かにって……、誰のせいで叫んだと思ってるのよ……!!

 辰巳は私が身体を起こさないように、そのまま腕で押さえ込む。

 なっ、何っ?

 私は重くって身じろぎしようとするけれど、じゃりじゃりと小石を蹴るような音がするのに気が付いた。あれ、もしかしてこの道の先に人がいるの? 見ようとしてみても、この辺りは特に霞がかっていて、道の先は確認できない。

 辰巳の顔を眺めてみれば、辰巳は厳しい顔で音のする方向を見ている。


「人?」

「おかしい」

「おかしいって……確かにさっきからこの道、人なんて歩いていなかったけど……」

「そもそもここには仙道以外いないはずなんだ。……お前はともかく」

「せんどう?」

「仙人と道士」

「あー……」


 だから登山の人もいなかったんだ……。

 耳を澄ませば、その先にいる人の話し声が聴こえてきた。話し声が聴こえてくるって事は、いるのは数人……よね?

 でも……。地面に押し倒されつつ耳を地面に傾けてみると、地面が揺れる。足音、かなり多くないかな?


「団体旅行?」

「そんな訳あるか。……こんな所に盗賊か」

「はあ……? 盗賊? 盗まれるようなもんなんてあったっけ?」


 辰巳の住んでた洞窟を思い返してみても、蜘蛛いるし、巻物しかないし、宝貝割っちゃうしで、特に盗まれるようなものなんてなかったと思うんだけど……。


「俺達が今行こうとしているのは?」

「辰巳のお師匠さんの所」

「何をしに行く?」

「私を元の場所に帰してもらうために宝貝もらいに……あ」

「……そうだよ。あいつらは宝貝を盗りに来たんだよ。ちょっと行ってくる。お前はここで待ってろ」


 そのまま辰巳は、腰に提げていた剣を持って走って行ってしまった。

 って、え――――!! こんな霞と道しかない所で寝転がってろって言われても!! そもそも辰巳がいたから普通に道歩いてたのに、辰巳いなかったら地面に真っ逆さまじゃない! そんなのイヤ!!


「ちょっと! 置いてかないでってば!!」


 私は慌てて立ち上がってスカートの折れ目を直すと、霞の中に消えた辰巳を追いかけて走った。

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