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仙人郷篇 三

 私が愕然とはしてしまえども、座り込んでいてもしょうがない。

 ひとまず私は立ち上がった。


「で、アンタの名前は?」

「俺? 辰巳」

「ふうん……でも何ソレ。出前みたいに私を呼びだしたの?」

「……でまえ?」


 あれ?

 私は困ったように眉を潜める辰巳を見て訝しがる。私別に変な事言ってないよね……。もしかして、出前って通じてないのかな?

 そう思っている間に辰巳は口を開いた。


「……分からないけど、お前を呼びだしたのは俺だ。それで」

「それ?」


 辰巳が指差した方角は、さっきまでいた洞窟だ。

 さっきは蜘蛛と尻尾に気を取られて気付かなかったけど、よく見たら机とか巻物とかが隅に置いてあって、生活感が漂っている。……でも私はあんな所に住みたくないなあ……だって蜘蛛いるもん、蜘蛛。

 で、その真ん中には、線がたくさん引かれていた。あんな岩みたいな所抉って……。そこにはびっしりと漢字が書かれていて、それが円を描いていた。

 そしてその真ん中。中心には割れた壷が置いてあった。


「……術式でお前を呼び出した」

「何ソレ……魔法みたい」

「仙術だ」

「仙術?」

「一応俺も道士だから……」

「どうしって?」

「……仙人の元で修行している人間の事だよ」

「仙人!!」


 どうしはよく分からなかったけど、仙人なら分かる。

 何かよく分からないけど中国で修業しているおじいさん、よね? 霞食べたり何か魔法使ったりする人……だったと思う。多分。

 ああ、なーるほど。なら何でこんな山の上の洞窟に住んでいるのかも何となく分かった。修行の一環だったんだ。

 でも……。その仙人の元で修行してる人が、何で私を呼び出さないといけなかったんだろ?


「一応アンタの事は分かったけどさあ。私は結局何で呼び出されたのよ? こっちは用事あるから帰りたいんだけど。つうか帰れないと困るし」

「それが……お前を呼んだのは手違いだ」

「……はあ? 手違いって何よ。何で手違いで呼び出されないと駄目なのよ。困るわよ、そんなの」


 何ソレ。冗談じゃないわよ。

 訳の分からない所に来たと思ったら「手違いだったごめーん」なんだもの。冗談も大概にして欲しい。こっちはようやくテスト終わってルンルンルンなのに、何で冬休み前に水を差されないといけないのよ。

 最初はびっくりしたし、ちょっとだけ怖くなったりもしたけど、だんんだん腹が立ってきた……。

 私が思いっきり辰巳を睨んでやると、辰巳も私を睨んで唾を飛ばしながら言い訳してくる。


「仕方ないだろう!? 俺だって本当なら竜を召喚するはずだったんだ! でも何故かお前が出てきて……一応術式で繋げたはずなのにどこでどう間違ったのか分からないんだ!!」

「そんな事はどうでもいいから、どうやったら私が帰れるのか教えなさいよ」

「…………。すまん」


 えっ?

 いきなり辰巳にそっぽを向かれてしまった。えっ、何、その反応。

 人の事、勝手に呼び出すだけ呼び出しておいて。まさか帰せないとか、そんな馬鹿な事言い出すつもりじゃないでしょうね……。

 私がタラーリと汗を掻いた瞬間、だんまりを決め込んでいた辰巳が口を開く。


「理論だけ言うなら、術式を逆にすればお前は帰れる」

「じゃあ、早く……」

「……でも、それをできるだけの仙力がない」

「えっ、せんりょく?」


 何ソレ。

 私はすごく嫌な予感を肌で感じていた。辰巳は黙って術式の方に視線を落とすと、割れた壷を取り出した。


「……これで、お前は召喚されたんだ。でも、お前を召喚した時に仙力を使い果たして、壊れちまった」

「これ何……」

「宝貝だ」

「ほうばい……?」


 流石にそんなの聞いた事ない。


「仙人が使う神秘の道具だよ。俺には仙力はないから、仙力の替わりにこれの力を使って竜を召喚するつもりだったのに……畜生」

「待って、じゃあそれないと私はもう……」

「すまん」

「すまんじゃないわよ! 困るから! 私が何のために必死で勉強してテスト終わらせたと思ってるのよ! 全ては自分のご褒美にファーのマフラー買うためじゃないの! それをこんな……こんな……」

「…………」


 辰巳は無表情で眉だけを潜めた。

 ……もしかして、私の言葉分からないのかな……。辰巳眉を潜めたまま、ぼそりぼそりと再び話し出した。


「……可能性はなくもない」

「あるの!?」

「師匠の所に行って宝貝を分けてもらえば、あるいは……」

「ここにはもうないの?」

「見てみろよ。どこにその宝貝を置ける場所があるんだよ。そもそも本来なら竜一匹召喚できる程の仙力ある宝貝なんて言うの、そう簡単にごろごろある訳ない」


 確かに……。

 生活用品っぽいものは隅に置いてあるし、本当に勉強するスペースと、物置くスペース、あとは寝る所みたいなスペースしかないみたいだし……。


「じゃあ、その師匠さんの所にすぐ行こう! 今行こう!」

「……つうか、お前本気でこの格好で行く気かよ」

「えっ?」

「何だよその腰布! 阿婆擦れにも程があるだろうが!」

「腰布って……もしかしてスカートの事?」


 私はペラリとスカートの裾を摘まんでみる。確かに制定よりはちょっと短いかもしれないけど、これ位普通なんだけどなあ……。もしかして照れてるの?

 って、辰巳は呆れたように溜息を吐く。……何よ、感じ悪過ぎ。


「今からこの山昇るのに、本気でこの格好で行く気か? 怪我するかもしれないのに」

「えっ、待って。師匠さんって……」

「そこ」


 辰巳が指を指した方向を、私は思わず見やり――。

 眩暈を起こしそうになった。

 そこは断崖絶壁としか言いようのない長くて不安定な道で、その道の先には霧だか靄だかがかかって先が全く見えない。そしてそれを目を凝らして何とか追ってみると、大きな峰がある。てっぺんなんて雲がかかっていて分からない。


「……もしかして、これ登ったりとかするの?」

「師匠はこの峰の一番上に住んでるんだからそうなるだろ」

「あっ、あのさ。それをアンタの術でちゃちゃっと言うのは」

「さっきも言ったの聞いてなかったのか? 俺は宝貝なしで術なんて使えない」

「何でそれで道士なんてやってるのぉぉぉぉ!!」

「うっせえ阿婆擦れ! いいからさっさと行くぞ!! あっ、後」

「何よう?」


 辰巳は黙って私のフェイクファーのマフラーを首から取り外した。途端に首元が寒くなって私は思わずブルリと身体を震わせた。


「何すんのよ! 寒いじゃない!!」

「これ、お前腰につけとけ」

「? 何で腰に付けないといけないの?」

「仮尾の替わりだ。借尾は師匠の所でもらってきてやるから、今はそれで我慢しろ」

「…………? うん、分かった」


 かりおって何だろう……。私はそのまま黙ってスカートのチャックにマフラーを引っ掛けた。

 これで、辰巳のふかっとした尻尾とお揃いになった。

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