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閑話 ある商家の娘の帰還

 ある国に、大層有名な商家があった。

 服を売る事を専門としたこの商家、宮廷の姫君達の無理難題を物ともせず、それはそれは美しい服を作ると言う事で、よその国からも注文は殺到し、それはそれは大繁盛をしている商家である。

 その商家には有名な話はいくつもあるが、もっとも有名な話は、その商家の一人娘の話である。


 歩けば梅花の薫りが漂い、笑えば梨の花が揺れるよう。窓際から見える横顔は芙蓉を思わせる。

 美しいと言う決まり文句をどれだけ並べても、その娘の美しさを語ると言う事は困難だと言われるような、評判の娘であった。

 大商家の娘ゆえに、表立って現れる事は滅多になく、奉公人としてその商家で働く以外には、正月に際に遠くから見る事ができればいい方だと噂されていた。

 奉公人達はこぞって彼女の顔を一目見ようとしたし、噂を聞いた町の者達も求婚に大商家を訪れたが、箱入り娘の嫁入りを、これでもかと遅らせたのだ。


 そんな中、正月で遠い親族の元まで祝いに向かう馬車が、盗賊に襲撃された。金品は雇っていた護衛により守られたものの、娘はさらわれてしまった。

 戦前戦時中ほどよりはまだましになったとは言えども、当時の盗賊も大層たちが悪いもので、さらわれてしまった娘が無事で戻るとは思いもしなかった。

 国は中の事で精いっぱいで、商家の一人娘がさらわれただけでは軍を動かしてくれる訳もない。

 商家は嘆き悲しんだ。箱入り娘で、蝶よ花よと可愛がっていたのだ。その娘がさらわれてしまい、悲しくならない訳がない。

 街の者達も嘆き悲しんだ。奉公人達の噂話から聞く彼女の様子に一喜一憂していたものだ。その娘がいなくなってしまったのだ、街から花が消えたように、すっかりと湿っぽくなってしまった。

 彼女がいなくなってからの街は散々で、盗賊が横行し、いつ押し入って来るんじゃないかと、女子供は震えあがりながら身を寄せ合い、護衛を重ねて雇い、自警団が街を歩き回るようになった。


 街からすっかり色が抜け落ちてしまった、そんなある日の事だった。

 娘はひょっこりと戻ってきた。


 商家は驚いた。彼女がさらわれた時と同じく美しいままで戻ってきて。

 すぐに彼女の帰還は街の者達に噂された。

 街に花が戻り、色が戻り、盗賊達もすっかり姿を消していなくなってしまった。


 街に平和が戻ったのは、その後。

 そしてその噂は街を抜け出し、大国の王の元にまで届くまでに、それほど時間はかからなかったのである。

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