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胡蝶篇 五

「だーかーらー、離してってば! えーっと……ゆうさん?」

「酉だ」

「そっか。酉さん」

「……おかしな人だな、君は」

「はい?」


 私は蝋人形になったみたいにかちんこちんになって動けなくなっている中、酉さんに米俵背負うみたいに担がれていた。

 足が速い酉さんの肩の上は、かちんこちんの体勢も相まって、お世辞にも気持ちいいとは言えない。むしろカンフー服っぽい服(辰巳よりも質はいいような気がする……と言うより仙道はずっとあの仙人郷……だっけ? そこに篭もっているせいで、あんまりいい服持ってないんだと思う)の下は筋肉質みたいで、固い上に痛い。その上からがっくんがっくん走る振動で揺さぶられるんだから、捕まっている私はたまったもんじゃない。

 でもなあ……。

 この人そんなに悪い人でもないような気がするんだよね……そりゃ私を動けなくしたのはこの人だけど、あの女の子の扱いを見てた限り、もっとセクハラされるのかと思ってたけど、そんな事しないし。むしろ紳士っぽいんだよなあ、この人は。あくまで私の勘だけどさ。

 その私を現在進行形で担いでいる酉さんはかすかに震えている。……もしかして、私の事笑ってる?


「どうして笑うの……!」

「いや、おかしな人だと思っただけだ……舞台の彼女に、声をかけてくれてありがとう」

「はい? ああ、あの子?」


 私を青い顔で思いっきり表情ひきつらせてた子か。でもあの子……全然嬉しそうじゃなかったのにな。

 私は背負われたまま、ちらりと地面の下を見る。

 酉さんの尻尾は1、2、3……5。この世界の単位だと五尾で合ってるんだっけ? それだけあるって事は、仮に一・二本が仮尾を付けていたとしても、この人は尻尾ない人じゃないって事だ。


「……あなたは、あの子に対してセクハラしたりしないんだ?」

「……せ……く……?」

「ええっと。エッチな事……じゃあ通じないか……変な事しようとしたりしないんだ。私の事も尻尾ないって気付いたのに、さっきの人達みたいに変な事しようとしたり、腫れ物扱いしたりしないんだなあと」


 辰巳が「ひとでなし」って言われたらものすんごくヒステリー起こしたりする事は、いくら酉さんがいい人そうでも言う事じゃないよなあと思いながら、私は言葉を選び選び言ってみる。

 少し黙っている酉さんを横に、何とか動かせる範囲で目を動かしてみる。

 さっきの見世物小屋なテントからは大分遠ざかり、だんだん辺りの景色が、この街に来た時見た観光地みたいな出店が減ってきた気がした。替わって建っている家は何というか……。私だったら「掃除しにくいから住みたくない」って思わせるような、大きすぎる家が増えてきたような気がする。石造りの家は妙に豪華だけど、変な像がポンポン建っていて下品な感じ。せめて植木でも植わっていたら多少マシになりそうだけど、あいにく造花くさい変な色の花のオブジェしかこの辺りの家には置いていない。

 何と言うか……いわゆる成金がお金持ちの模倣をしているような下品さだ。


「君は」


 私が町並みを眺めていたら、ようやく酉さんが口を開いた。


「妹に優しかったから」

「え……? 妹って……」

「……舞台で舞っていたのは、俺の妹だ」

「……! ちょっとアンタ……」


 私はイラリ、と血管が浮き上がるのを感じた。


「何で妹にあんな格好させて、セクハラ……変な事されるような事しても放置してるの!? あの子外に出てもあそこで変な事されても同じって、そう言ってたんだよ!! 意味分かんない! 何でそんな事させてるの……!?」

「……そうするしか、妹を救う方法がなかったんだ!!」

「……!」


 私は酉さんの声に言葉を飲み込む。

 酉さんの声は、振り絞ったような悲痛な色を帯びていた。


「妹は……ひとでなしじゃない」

「あれ? でも、尻尾……」

「妹は病気なんだ。尻尾が抜け落ち、ひとでなしになってしまう病気……」

「え……?」


 そんなの、初めて聞いた。

 いや、私がここに来たのはついこの間だから、流行病なんて知らないんだけど。

 でも、尻尾が抜け落ちる病気なんてありえるの……? だって猫や犬の尻尾が落ちるなんて、聞いた事ないもの……。


「何ソレ」


 そんな感想だけが漏れ出る。


「そんな病気があるんだ。あれの特効薬は、一般人が手を出すには高すぎる……どんなに非道って言われても……妹が辛い目にあっても、ここで働かないと手に入らないものだ」

「そんな……」

「……だから、どんなに君がいい人でも、君を捕まえろと言われたら捕まえる。そう言う契約だから」

「……」


 やがて、足は止まった。


「着いた」

「着いたって……あ」


 その時、私はようやく身体の自由が効く事に気が付いた。


「五光石の効力は、一時的なものだから、もう身体は動くはずだ」

「ごこうせきって……まさか私に投げたビー玉……じゃなくって、石も宝貝だったって訳?」

「何だ、知ってたのか……降ろすぞ」

「あ……」


 私はようやく酉さんの肩から降ろされた。……腕は酉さんに拘束されてしまっているから、逃げられないけど。

 着いた先は、さっきから見ていた屋敷にも増して、下品な建物だった。

 てかてかした屋根、金ピカの像が乱立した庭。そしてお香が焚かれているけれど、その匂いに品がなくって甘い匂いなのに嗅いでいたらムカムカしてくる。


「くっさ……何ココ」

「……娼館だ」

「はあ……!?」

「子丑がひとでなしの少女達を売買している場所だ」

「ちょっと……人を売ってるって言うの!?」

「……人じゃない、ひとでなしだ」

「……」


 本当に、信じられない。

 何で訳の分からない事ばっかり言うかな。


「はーなーしーてー!!」

「大人しくしてくれ」


 そのまま私は、酉さんに拘束されたまま、変な匂いの屋敷にまで連行されてしまった。

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