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胡蝶篇 四

 次々と奥から、棍棒みたいなものを持ってきた、やけに身体のごつい人達(お客さん達は尻尾一本二本なのに対して、三本四本のがゴロゴロと……)が出てきた。

 ああいうのを、用心棒って言うんだろうな。


「あいつらを捕まえろ!!」


 ……本当に言うんだ、いかにも悪役って言うチープなセリフ。

 そうは思うけど、辰巳が私をあいつの背後に追いやってくれたおかげで、あんまり怖い気がしない。

 辰巳は剣を抜いて、用心棒に応戦した。

 戌亥さんは戌亥さんで、大剣を抜いて用心棒を吹き飛ばす。

 お客さん達はこの乱戦を肴にお酒を注文しだす。暢気なもんだなあ、この人達……。

 そしてステージを見る。


「……」


 青ざめた顔で、ひとでなしの女の子がこちらを見ている。

 あれ? 逃げないの?


「あの、ちょっと辰巳ごめん!」

「おい馬鹿、勝手に動くな!」


 私は辰巳の横をすり抜けて、ステージの方へと向かった。お客さん達はこちらを面白そうな顔で見ている。


「いい度胸だなあ、姉ちゃん。いきなり仮尾抜いちまうなんて!」

「本当本当。おっかなくってとてもじゃねえけどできねえよ!」


 そう下品な声色で投げかけられるけど、これを好意的とは取れなくって無視をする。

 ステージの前にたどり着くと、青ざめていた女の子とぱちりと目が合った。


「あの……」

「……」

「逃げなくていいの?」

「逃げる? どうして?」

「どうしてって……その、嫌がってたみたいだから」

「何を言っているの、あなたは」


 その青ざめた顔の女の子は、顔を青ざめさせたまま、顔を歪めた。


「ここに逃げられる場所なんて、ある訳ないじゃない」

「え……?」


 私はその子の言葉に首を傾げる。

 ぷっと言う音と共に、背後からどっと笑い声が響く。


「何言ってるんだ、この姉ちゃんは!」

「腹が痛い……! この国のどこにひとでなしを匿う場所なんてあるんだ!」

「え……?」


 何ソレ。

 外に出ても、ここにいても同じだから、この子は逃げる事もせずに、下着みたいな格好でここにいるって言う事なの?

 そんなのって……。

 私がうつむいた瞬間、背中に鈍い音が響く。


「痛っ……!」


 足下にころころと何かが転がる。

 何コレ。ビー玉を誰かが当ててきたって言うの?

 誰よ、こんな失礼な事する奴は……。振り返ろうと、首を捻ろうとした時ーー。


「あ……あれ……?」


 何度首を曲げようとしても、首が曲がらない。それどころか、足も手も、ちっとも動かない。


「この阿婆擦れ……! どうしたんだ!」

「……動かない」

「何!?」


 背後から投げかけられた辰巳が、いかにも眉間に皺を寄せたような声を上げる。

 後ろからガンガンと激しい攻防の音が聞こえるけれど、そちらの方に耳を傾ける事はできても、身体を曲げる事はできない。


「身体……! 全然動かないの……!」


 何とか目だけ動かそうとするけれど……。目を動かして、背後に誰かいる気がする事に気が付いた。


「……馬鹿な人だ。こんなに表立ってひとでなしを庇う発言をしなければよかったのに」


 耳元で誰かに囁かれる。その声が異様に艶っぽい。

 ……誰? そもそもあの辺にいる用心棒と雰囲気も違うんだけど……。と、その人は足元に転がるビー玉を拾うと、懐にしまった。

 そのまま私に手をかけると、そのまま肩に荷物のように担ぎ出した。

 って……へ?


「ちょっと待って! あんた、私の事をどうする気……!?」

「……これだけ君が原因で派手にやらかしたんだ。無事で済むといいけどな……」

「何ソレ、意味分かんないし」

「……」


 その人はそれ以上何も言う事はなく、私を担いだまま走り出した。


「待て! この馬鹿をどうする気だ!?」

「知れた事……彼女はひとでなしだ。ここで働いてもらうに決まっている」

「……こいつがそれだと知っていたのか」

「知らないと思ったのか?」


 ジャキンと言う音がする。

 そのまま剣が私を担いでいる人に向けられているような気がする……。


「ちょっと辰巳! そのまま暴れたら私に当たる! 私に当たる!」

「当たらない事を祈れ!」

「何ソレ無責任!」

「そもそも無責任な事したのはどこのどいつだ、鏡を見たら映ってるぞ!」

「何ソレひどい!!」


 私と辰巳がぎゃんぎゃんと叫びあっている中、その人は懐に手を突っ込んだ。


「仲間かと思っていたのに、それだけ情が薄い訳か……」

「って、何してんの? お兄さん」

「君を怪我させたくない」

「へっ?」


 その人はギラリと光るビー玉を取り出すと、辰巳に向かって投げつけた。

 辰巳はそれを剣で弾くけれど、ビー玉は1つだけじゃなく、いくつもいくつもを辰巳に投げ出す。


「わっ……! 酉! こっちに当てるな!」

「これぶつけたら、動けなくなるんだぞ!」


 どうも辰巳の替わりに当たったらしい用心棒達がこの人に罵声を浴びせてくる。

 何ソレ。このビー玉に当たったら動けなくなるの? そう言えばさっき背中に当たったのも……。


「アンダか! 私を動けなくしたのは!」

「……少なくとも俺は手荒な真似はしない」

「嘘つけ! 現在進行形で私をとっ捕まえた方法が不穏そのものじゃないの!!」


 私がギャンギャン言っている間に、見世物小屋を出てしまった。

 ちょっと……私どこに連れてかれるのよ……!?

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