表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/113

閑話 道楽仙人の独り言

 仙人郷は、今日も平穏である。別に平和ではない。

 元々仙人郷は、この世界でもっとも古き理に沿った生活をしている場所であり、地上ほど悲惨な事になりうる事はなかった。

 古き理の事は、血で血を争う戦火の中すっかり人々の記憶からは忘れられてしまい、今やそれを知っているのは大国を束ねる王族と仙人郷の住民を残すのみとなってしまった。

 もっとも、古き理と仰々しくは言っているが、実際の所そこの書かれている生活の教えはたった一行しかない。


「人らしく生きよ」


 だから仙人は弟子を取って、口伝えで古き理を教える際、弟子達に変な顔で見られる事となるのだが、それは慣例なので誰も気にする事はない。

 だから、甲のようないささか仙人らしくない人間でも仙人を名乗っていられるのだ。

 仙人は基本的に仙術の研究をするか、地上に降りて古き理を教えに行くかなのだが、甲はどちらもしていない。

 ただ気ままに道楽のお茶を楽しみ、茶葉採集に地上に降りた際に弟子を拾っては、その弟子に修業をつけ、弟子が自立したらまたお茶を楽しむ。その繰り返しだった。

 そして。

 弟子達を地上に送り届けた後、甲は自身の寝所に戻って、またのんびりとお茶を楽しんでいた。


「それにしても」


 甲は独り言を呟きながら、お茶を茶器に淹れる。

 仙人になると、長い時間を一人で過ごすものだから、独り言が癖になってしまうものなのだ。


「運がよかったねえ……」


 そう呟く。

 ……そう、まさしく運がよかった。

 愛弟子が珍しく自分の所に顔を出したと思ったら、異界の少女をおぶって来たのだから驚いた。

 確かに人の僕はいない事もないが、それだったら弟子を取って自分の身の回りの世話をさせる方が遙かに効率的だし、貴重な宝貝を壊す必要もなかった。

 しかし……召喚されたのが彼女だったのは、本当に不幸中の幸いだった。

 もし愛弟子が呼び出したのが、術式どおり竜だったらどうなっていたのか?

 破門すればいいと言うだけでは済まない話であった。

 実際の所、愛弟子がどのような術式を描いたのかは知らない。古き理により、師弟の間柄でも独自に編み出した術式を教え合う事は禁止されているからだ。

 何故禁止されているのかは、明確な事情は語られてはいないが、甲は薄々分かっていた。

 人の形をしているものと言うものは常々欲深にできているのだ。もし術式を教え合って、仮にそれがとても有益なものであった場合、悪用しかねないからである。

 竜なんてものを呼び出せる術式は、地上に住む欲深なもの達は喉から手が出る程欲しがるだろう。皆が皆、簡単に竜なんかを呼び出せるようになってしまったらどうなるのか。

 地上は今でこそ均衡を保っているが、いつそれが崩れるかも分からない危うさの上に成り立っている。それが竜の召喚により崩れてしまったら、たちまち戦乱の世に逆戻りしてしまうだろう。

 今はいないあの子には、人の形をしている以上誰だってなりえるのだから。


「あの子は知識の面だと、確実に人より秀でているけれど、心の面はまだまだだねえ……」


 甲はそう言いながら、お茶をすすった。

 今日淹れたお茶は、花の香りの漂う甘いお茶であった

 これだったら、とてもじゃないができない。

 ……異界の少女には大変申し訳ないが、この世界のためには、まだ彼女が帰れるもう一つの方法を、辰巳に伝える訳にはいかない。

 もう繰り返してはいけないのだ。過ちを。

 甲はお茶をもう一度すすった。

 茶器には、花びらが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ