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終局篇 七

「……はんっ、ふざけるな」


 辰巳がまるで嘲うように丁に言って捨てた。吐き出すように。私はどこを見ていいのか分からないけれど、ひとまず辰巳を見る事にした。辰巳はカチリ、と剣を構える。

 莫那宝剣は岩をバターのように斬り裂いていたとは言っても、これでこの宝貝を壊すなんて事はできない……と思うんだけど。私は思わず息を飲んでそれを見守っていた。

 丁は心底嬉しそうに唇だけ持ち上げるような笑みを浮かべる。


「人をさんざんこけにして、そんな言葉を聞いて嬉しい訳はないだろ」

「そう」

「……出し抜いてやるよ。いい加減、お前のお遊びに付き合うのはもうこりごりだ」


 辰巳はちらり……と私を見るのに、私は少しだけ驚く。

 いやいやいや、私別に何もできないんですけど!? でもこの宝貝どうすんのってマジで考えてますけどね! こんな空間まるごと一つに私達を閉じ込めて、一体どうするんだろうって。

 でも……本当にマジで何でなんだろう。もし術式だけ抜きたいのであったら私に前に介入したように私だけさらえばいい。辰巳を殺したいなら辰巳だけさらえばいい。どうして私と辰巳、二人まとめてわざわざ宝貝の中に放り込んだんだろう。

 ……そう言えば。前に辰巳の前に現れた時も、辰巳は傷一つ丁に対して付ける事ができなかった。今もそう……なんだよね。

 もしかして、また私達は根本的な事を勘違いしているんじゃあ。私はじっとこの場を観察する事にした。

 今見えているものは、私の認識でしかない。でも私の認識と本当に正しい情報が同じって思っていいの? 私は指先にきゅっと力を込める。痛い。幻覚かなって思ったけど、違う? でも……何かがおかしいような気がする。ああん、もう。何か喉に小骨が引っかかったようにムズムズする……!!

 私は辰巳を見る。辰巳もまた私と同じく、自分の認識が正しいのかどうかを疑っているように、眉間に深く深く皺を刻んで丁を睨みつつ、辺りを目の端で見て取っているように見えた。

 対して丁は心底楽しそうにこちらを見ている。……私ら真面目にやってるんですけど、何でこの女だけ私達をゲームでも見るように見てるのかな。


「どうやって出し抜けるのか見てみたいわね」

「ああ……見せるさ」


 辰巳がそう言いながら剣を大きく一閃させた。本来なら莫也宝剣は岩すらもバターのように斬り裂く代物だし、さっきだって衝撃波を起こしていた。本当ならこれを食らった丁はひとたまりもないはずなのに……。なのに、風がふわりと舞い起こっただけ。丁には傷一つ付いていない。それは至近距離であるにも関わらずだ。辰巳は眉間に皺を寄せたまま「ちっ」とだけ言い捨てた。……確かめるためにやっただけで、辰巳自身は焦っていないみたいなのには正直私もほっとした。


「涼やかな風ね」

「それはどう……もっ!」


 今度は宝貝を使わず、辰巳は大きく身体を回転すると回し蹴りを丁に打ち込んだ。丁には何故か届かず、衝撃波すら起こらない。辰巳は身体を軽く回転させて着地をしつつ、唇をペロリと舐めながら丁の全身を見ていた。丁は一歩も動いてはいない。

 本当に……一体どうなってるの。攻撃は全部当たる距離にいるのに、どうして全然かすり傷一つ負ってないのよ。

 考えろ。考えろ考えろ考えろ。考えろ。

 私はじっと丁を見ていると、丁は私を無視して辰巳に話しかける。


「これじゃあつまらないわね」

「いや、すぐ面白くなる……さっ!」


 また辰巳が身体を回転させて大きく丁に殴りかかる……って、何でそんなに丁を攻撃するかな、宝貝抜きで!? 焦ってる? とも思ったけれど、辰巳の焦っている時や怒りで我を忘れている時はもっと攻撃が煩雑だったはずなのに、辰巳はずっと丁を凝視したまんまだ。これ絶対探ってる。何か隙を探しているの。


「……無粋ね、折角二人きりだって言うのにこんなに凝視するばかりで何もしないなんて」

「はんっ、お前が手を明かさないのにどうしてこっちが腹を割らないといけないんだ」

「私が飽きないように早くしてちょうだいな」

「ああ、そうだっ、なっ!」


 辰巳が丁を蹴り上げようとするけれど、それも丁には通らない。そのまま辰巳は何かに守られて私の方に吹き飛ばされてきた──って、ギャーッッ!?

 私を巻き込んで、辰巳は派手に大きく吹き飛んだ。私は下敷きにされて、正直ものすっごく痛い。


「ちょっ、辰巳!? アンタちゃんとやりなさいよ!!」

「やってる」

「知ってる。でも危ないじゃん」

「分かってる、だから来た」


 そう言い捨てると辰巳は私の掌を掴んでそのまま引き起こすと、そのまま丁の方へと剣を携えて跳ぶように走っていった。私は掌に収まったものを見て、辰巳の真意について考える。

 いつか見ていた影を縛る宝貝で、辰巳も使えるようになったからあの女装の人を仕留める際にも使っていたけれど、私だったら宝貝使っても仙力なんか込められない。

 そう言えば。私はこの世界の人間じゃないから、そもそも仙力持ってないし、宝貝使えない。尾なしの人達だって元を正せば八仙の作った人なんだから、引っ張り出せば仙力は使えるけれど、私は最初っからない人間な訳で。

 あれ? そうなったら私がどうして丁にこの宝貝の中に閉じ込められたのか分かったような気がするぞ。てっきり辰巳の術式を奪うために私も巻き込んで閉じ込めたのかと思っていたけれど、それは後で奪う気であって、今はもっと違う問題なのかもしれない。

 考えても埒が明かず、私は持っていた宝貝を丁の方へとぶん投げた。狙ったのは尻尾。ふかふかしている七尾の尻尾に獣人は仙力を蓄えているんだから、そこを狙えば──!!

 辰巳は辰巳で、私に任せようとした意図が通じたのに安心したのか、しっかりと丁に牽制攻撃を続けつつ、ようやく口元にニヤリと笑みを浮かべた。丁はどんな顔をしているのかは分からないけれど、丁の尻尾にその宝貝の先が当たった。尻尾を切り落とすなんてもったいない……じゃなくって強い事はできなかったけれど、丁は初めて不愉快そうに眉を潜めた。


「……何をなさるの」

「仙術を解くためだ。お前は宝貝を展開しながら仙術を使って俺達を閉じ込めた。俺達に宝貝の正体と仙術を同時に使っている事を悟らせないために、わざわざ卯月を仙術に巻き込んだ……そう言う事だろう?」

「えっ?」


 私は思わず辺りを見回した。

 空気が何か違う。鼓膜が膨らむような無音ではなく、空気の揺れる音が聞こえるし、人の喧騒も聞こえる。遠ざかっているとは言っても、ちゃんと人がいる。さっきの地震の後、私達は丁の宝貝に閉じ込められてたと思っていたけれど……違ったって言うの?


「……いきなりお前さん達が消えたと思ったら出て来て……。どうなってるんだ?」

「って、戌亥さん?」


 驚いて顔を見上げると、そこには戌亥さんが立っていた。

 戦場のど真ん中に南都国の后妃がいるせいで戦場はどよめいているし、それと北都国の軍師が戦っているもんだから、周りは動揺しているみたい。私は「えーっとえーっと……」と何とか言葉を考え始める。


「……辰巳が、初めてあの人を出し抜けたみたい、です」


 私がしどろもどろになっているのを尻目に、辰巳は丁に剣を向けていた。

 仙術を解かれてもなお、丁は心底面白そうなものを見る愉悦を浮かべた顔を崩す事はなく。


「仙術が解けたとは言っても、俺もあんたの宝貝の攻略方法は未だに分からないがな。師匠から聞いた事があるな。九曲黄河陣……自身への攻撃を全て無効化する代物なんてな」

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