終局篇 四
目の前で繰り広げられる戦いの光景は二箇所。衝撃波を纏ってやり合っている辰巳と女装している男性の戦いで、既に南都北都どちらの兵の人達も遠ざからないと巻き込まれてしまうから、この辺りにいるのはもう、仙道か宝貝使いしかいない。
まあ、私はどっちでもないんだけど。
今私の目の前のもう一方の戦闘もまた、熾烈を極めていた。
「楽しいですね、本当に」
「全くだ。俺は嬉しいね、お前さんみたいな美人さんとやり合えると言うのに」
いやいや、殺し合いしながらする会話じゃないし。
女性の槍と戌亥さんの大剣が火花を散らし、ぶつかり合っていた。槍の方がリーチは長くて隙あらば戌亥さんの首筋や胸を狙うけれども、金鞭や大剣で弾かれてそうリーチの長さだけを有利にできるものでもないらしい。リーチが長いのは金鞭や大剣を扱う戌亥さんもだけれど、こちらは相手を刺したり突いたりして射止めると言う一撃必殺はできない。相手を殴ったり首を締め付けたりしないといけないからか、互いに互いの得物を捌き合う現状では決め手に欠けていた。時折火を噴くのにもまた、二人揃って笑いながら打ち合うのだから、私にはもう理解のできない世界に浸っているような気がする。
そして……。
辰巳と女装している男性の方のやり合いもまた、ようやく状態が動いた。
ずっと鍔競り合いのまま変化がなかったけれど、辰巳が埒があかないと判断したのか、辰巳は足に力を入れつつ、剣を交わしたまま回し蹴りを男性に入れ込んだ。男性が蹴りを交わそうと重心をずらした所で、ようやく交わし合っていた剣が離れる。
衝撃波は再び発生したけれど、戌亥さんと女性の宝貝同士の戦闘が相殺してくれているらしく、私の方にまでは強い突風程度にしか発生しなかった。
本当に……。この戦闘どうなるんだろう。私はただどちらの戦闘も食い入るように、目を皿のようにして見ていた。
辰巳が私を置いていかなかったのは、この戦場において私がまだ丁にとって利用価値がある以上は殺される心配はないけれど、私から情報を抜き出せば即座に殺されるから、その心配を少しでも潰すためだったはず。
この戦いがどう決着つくのか分からないけれど。
「お願いだから、死なないでよ……」
戦えないから、何もできないからと言って、何もしない理由になんかならない。そして逆もまた同じだ。
戦えるから、いろんな事ができるからと言って、全部背負い込む必要なんてないんだから。それでも辰巳は全部背負い込んじゃうんだろうけどさ。分かってるよそんな事。分かってるから心配なんだよ。
辰巳の剣が男性の頬をかすると、男性は喉の奥でくつくつと笑いを漏らした。
「……何がおかしい」
「いや、あのお方がどうして熱を上げるのか、理解に苦しむと思ってな」
「俺はあいつに熱なんか上げられた事はない」
男性は挑発をしたいのかもしれないけれど、辰巳はそれを切って捨てた。それでも男性はちっとも動じてないのは、動じないだけの理由があると言うの?
本気で分からないと思いながら男性を見ているけれど、男性は続けた。
「ひとでなしでありながら仙人の力に目覚め、そして宝貝を持ちながらそれを自分のために使わない。お前の大義はどこにあるのかと思ってな」
「俺の大義はお前やあの女が測るものじゃない」
「じゃあお前の大義は何だ? 育毛剤になった家族の敵討ちか? ひとでなしの差別をなくすためにこの山の理を作り直すか? 実に小さいな」
「……何度も言ってるだろう。お前やあの女の思惑で、俺の大義を測るな」
辰巳の言葉とは裏腹に、今まではすぐに逆ギレして見境がなくなっていた辰巳はひどく落ち着いていた。
剣が縦から横に振るわれる。それをすかさず男性は扇で防御しようとするけれど、辰巳が横に振るったのは、男性を斬るためではない。大気を引き裂いて、またブワリ。と強い風が、衝撃波が辺りを襲う。私も思わず踏ん張りが利かなくなってそのまま地面に尻餅をついてしまうほど。
男性が訝しがるわずかな隙が、勝機だった。地面にぷつぷつと刺されたのは、いつか私の影を地面にくくりつけて身動き取れなくした宝貝。男性が「しまっ……」と言っている間に、辰巳の剣は今度こそ男性の腹に深く一閃した。赤い赤い血が、噴き出す。
「……俺の大義は、怨恨の連鎖を断ち切る事だ。誰かが誰かを恨み、憎み、それの連鎖がこの山をおかしくした。あの女がおかしいのは何故かは俺も知らんが、あの女の思惑も、この山がそもそもおかしいから上手く繋がったんだ。
隣人だろうが獣人だろうが、もう俺にはどっちでもいい。ただ、もう誰かが誰かを恨んで恨み返すって言うのに疲れた。それだけだ」
そう辰巳は吐き出すと、血に塗れた剣を一振りし、崩れ落ちた男性を見下ろしながら鞘に剣を納めた。
辰巳の吐き出した言葉に、私はじんわりと胸を熱くさせる。辰巳は本気で怒りっぽくって、理不尽にあらがってきた。そしてその自分の性格を変えようと本気で立ち向かおうとしてるんだ。
……丁に。
未だに戦場に現れない、そもそもどうやったら現れるのかも分からないけれど。
私が辰巳達の戦闘に思わずほっと息を吐き出している間も、戌亥さんと女性の戦闘はまだ続いていた。
辰巳の場合は戦闘はあくまで手段なのに対して、戌亥さんにとって戦闘は会話やスポーツの一種なのかもしれない。相手は女性であっても武人なせいなのか、手加減なんてものは微塵にも感じられない勢いで、激しく互いの得物が叩きつけられ合っている。その豪快さは、むしろ気持ちいい位に。
でも……。さっきから火花がものすっごく散っているのが気になる。あの女性の槍も多分宝貝だとは思うけど……火花が出るのは金属と金属がぶつかり合っているからなの? それとも、わざとなの?
思わず私がブルリと身体を振るわせつつ、どうにか立ち上がってスカートをはらっていた……その時だった。




