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 こうして1回戦はすべて終わった。割と長い取組もあったが時計が気にならないほどの白熱ぶりだった。そして休憩もなく2回戦がスタート。以下の組み合わせで行われる。


岡島弘子 VS 正野小春

竹下瑞穂 VS 藤森千夏


小田島詩織 VS 渡辺凛

塚山柊 VS 吉田翔大


藤本健太 VS 梅垣空澄

鳥居駿 VS 門前永時


脇屋輝夢 VS 佐野正頭

マクレーン龍児 VS 赤井羽留馬




2回戦第1試合 岡島弘子 VS 正野小春


 1回戦では相手を実力で圧倒した岡島ちゃんと実力は大してない同士のぶつかり合いを結果的に制しただけの正野ちゃん。残念ながら実力差は明らかだったが、それ以外の要素も色々と絡み合って、酷く凄惨な戦いとなってしまった。


 取組は正野ちゃんもそれなりに抵抗を見せるものの終始岡島ちゃんのペース。組んだ状態から満を持して岡島ちゃんの投げが決まったかに見えたその直前、正野ちゃんの首が岡島ちゃんの腹部に入り込むような形となっていた。この形になると一度試合を止めて取り直しになるという決まりだったのだ。事実、行司は止めようとしたがその瞬間に投げが決まった。しかしその投げは認められず、取り直しとなった。


 正野ちゃんにとっては負けた試合がチャラになったと考えることもできただろうが、実力差のある状況ではそれより「負け確定の取組をまたやらないといけない」という絶望感のほうが大きかったのではないか。完全に怯えた状態で最初から頭を岡島ちゃんに向けて入り込んできた。これでまた取り直し。3回目はあっさり押し出しとなったが、正野ちゃんは遠目からも明らかに涙がこぼれていた。




2回戦第2試合 竹下瑞穂 VS 藤森千夏


 これまた実力差のある取組。もはや案の定と言う他ないが、藤森ちゃんが凄まじい出足を見せて竹下ちゃんを転がした。スピード、パワー、テクニック、どれを取っても抜群。あまりにも圧倒的すぎるのでもう書くことがない。




2回戦第3試合 小田島詩織 VS 渡辺凛


 これまた実力差が、って女子はやる気のある子とそうでもない子の格差が激しいのでそういう取組が多発してしまうようだ。しかし体格以上に小田島ちゃんはよくやってくれた。1回戦とは別人のように闘志を剥き出しに戦ってくれたからだ。


 互いに組み合ってダンスを踊るように回りながら体勢を整えていく。一瞬小田島ちゃんが押して「いけるか!」という場面もあったが渡辺ちゃんに後ろを取られて押し倒された。残念! 最後の瞬間は思わず声が出てしまった。期待していなかっただけに熱くなった。




2回戦第4試合 塚山柊 VS 吉田翔大


 そして柊君の取組だ。相手は巨体の吉田君。パワーでは向こうに軍配が上がるだろうからよく動いて自分の形を作ってほしい。この大会では1年生も6年生も同じ土俵を使う。6年生にとってはいざ知らず、1年生にとってこの土俵は十分すぎるほど大きいのだから、いくらでも道はあるはずだ。


 果たして取組は私の意志を汲み取ってくれたかのような立ち回りを見せてくれた。きりっとした顔に似合ってやっぱり頭がいいな。柊君がちょこちょこ動くうちに吉田君は明らかに混乱してきた。そこをすかさず後ろから押して倒した。観客も番狂わせと思ったのだろう。「ああっ!」「おおっー!」という驚きの声があちらこちらから上がっていた。よくやった柊君。




2回戦第5試合 藤本健太 VS 梅垣空澄


 柊君が自分より大柄な吉田君を倒した影響もあり、この取組でも立派な体格の藤本君に梅垣君がどう立ち向かうかが注目された。しかし藤本君はただ大きいだけでなく、肉体をある程度自分でコントロールできるのが吉田君との違いだ。


 そう、藤本君は割と俊敏に動けるのだ。この取組でも一気の攻めで梅垣君を寄り倒した。1回勝つだけならある程度は幸運や組み合わせの妙でも通用する。しかし2回勝つとなるとやはり実力がないと難しいものである。




2回戦第6試合 鳥居駿 VS 門前永時


 鳥居と門前とか祭りの雰囲気が濃厚な2人による取組。やせガエルの鳥居君に対して恵まれた体格の門前君。もちろん優位なのは門前君だろうが鳥居君はガッツがある。私は内心で鳥居君を応援していた。


 そして取組は、いきなり組み合う展開となった。力では鳥居君が不利か。しかし鳥居君はよく粘った。ジリジリと土俵際まで追い詰められてもうまく動いてピンチをかわすなどナイスファイト。しかし最後は徳俵まで追い詰められ、粘ったものの寄り切られた。万雷の拍手に包まれて鳥居君は土俵を去った。ちょっと悔しそうな顔をしていた。


 一方で勝った門前君がきりりとした眉毛を引き締めて勝ち名乗りを受ける姿も堂に入っている。「まだ俺は何も手に入れていないぞ」とでも言わんばかりにむっとした表情などまさしく勇ましい若武者の風格である。




2回戦第7試合 脇屋輝夢 VS 佐野正頭


 まわしの脇屋君は同じような体格の佐野君に対してもやはり強さを見せた。体格が似ている分だけ脇屋君の相撲に対する理解がもろに出たというか、そのような取組だった。


 まずは立ち会いから組み合う形になったが、そこから力押ししかパターンがない佐野君と比べて横にずらしてみたり足を絡めてみたりと脇屋君は色々なアクションを試みていた。そして足技で佐野君の体勢が崩れたところで投げ飛ばしたがこれは佐野君が残った。しかし再び組まれるともう脇屋君のペース。最後は浴びせ倒しのような形で決着がついた。




2回戦第8試合 マクレーン龍児 VS 赤井羽留馬


 マクレーン君は2回戦でも得意の速攻戦法が炸裂。一気に赤井君を寄り切って勝利した。いいやり方だと思う。自分のやり方をしっかり決めているのが特に良い。「相手に合わせて後は流れで」みたいな姿勢ではマクレーン君の突進を止めることはできない。合わせる間もなく一瞬で突っ切られてしまうからだ。


 かくして2回戦も終わった。やはりここまで来ると勝利にある程度の必然性のある人間だけが残っているように思える。その中に柊君もいるというのが喜ばしいものだ。さて、準々決勝の顔ぶれは以下の通り。


岡島弘子 VS 藤森千夏

渡辺凛 VS 塚山柊


藤本健太 VS 門前永時

脇屋輝夢 VS マクレーン龍児




準々決勝第1試合 岡島弘子 VS 藤森千夏


 恵まれた体格から能面のようなフェイスの岡島ちゃんと、先ほど行われたオリンピックでも活躍したなでしこジャパンや女子レスリングの選手を思わせる少年のような顔つきの藤森ちゃん。女子最強決定戦が今ここに開幕する。


 立ち合いは意外と静かで、双方が出方を伺っているようだった。しかし一度動き始めると早いのが藤森ちゃんのスタイル。素早いポジションチェンジで岡島ちゃんを振り回し、最後は横から押す形で土俵の外へと運んだ。


 まあこの年齢で男子女子と言い合う事自体が間違いなのだろう。ただ、男子は上半身裸なのに女子は体操服着用という厳然たる違いは存在しているのだが。とにかく、藤森ちゃんは見事に準決勝に進出した。組み合わせの関係上女子とばかり対戦したが、男子と対戦していても同じ結果であったのは間違いない。




準々決勝第2試合 渡辺凛 VS 塚山柊


 そして私の柊君の出番だ。そうそう、前の試合の際に女子最強決定戦などと口走ったが、ここで柊君と対戦する渡辺ちゃんも女子なのだ。しかし体格は柊君を余裕で上回る。人並みの体格であるはずの柊君がまるでやせガエルだ。


 しかしこの塚山ガエルはガッツがある、瞬発力がある、頭もある。比較的緩慢な渡辺ちゃんの立ち合いを最初から狙っていた。勇気を持って体当たりの勢いで押しまくるというマクレーン君ばりの奇襲に渡辺ちゃんはなすすべなく振り回されて、最後は自壊するように斜めに倒れた。柊君の作戦勝ちだ。体格は並な分、自分は動かないといけないとよく自覚しているのは柊君の強さだ。




準々決勝第3試合 藤本健太 VS 門前永時


 体格に自信のある2人の対決。組み合わせによっては決勝戦のカードがこれであっても不思議ではなかっただけに、ここで潰しあうのがもったいないと感じられる一番だ。


 行司の「はっけよいのこった」に合わせて勢いよく飛び出す巨漢2体。パチンと肉のぶつかり合う音が土俵周辺に鳴り響いた。組み合っての力比べでは五分と五分。ジリジリとした熱気の中、勝負は決まらないまま時だけがただ過ぎて行く。


 背中を叩くように「はっけよい」などと声をかける行司に触発されるように次なる動きを見せたのは藤本君だった。身体ごとぶつかるように強引に押していった。その迫力に後退する門前君。ここですかさず投げを打った藤本君だがこれは門前君よくこらえた。


 しかし藤本君は諦めない。もう一度突撃するともつれ合うように2人が土俵の外へ勢いよく倒れていった。どっちが先に出たか、一瞬では分からなかった。軍配は西に上がった。つまり、押し倒す前に藤本君の右足が俵の外に出ていたのだ。どちらが勝っても不思議ではなかった大一番は、まさに勝負の綾と言うべき微妙な差が明暗を分けた。




準々決勝第4試合 脇屋輝夢 VS マクレーン龍児


 マクレーン君お得意の速攻が脇屋君に止められた! スピード豊かと言えどもその一手しか繰り出さないのでは対策もされるという事か。受け止める事を主眼とした立ち合いを見せた脇屋君とがっぷり4つに組んだマクレーン君。何か策はあるのか。


 とりあえず土俵上ではスピーディーな取組が繰り広げられた。やはりマクレーン君の武器はスピード。しかし自慢のスピードも脇屋君にがっちりと受け止められた、自由を奪われた状態ではフルに生かせない。そうこうしている内に脇屋君の投げが決まった。


 考える暇を与えない速攻作戦も相撲をよく知る脇屋君には通じなかった。「柔よく剛を制す」に続く言葉である「剛よく柔を断つ」の通り、正統派の技術を身につけた脇屋君が奇策に振り回されず、正統派の力を見せた一番だった。

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