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  作者: 小伏史央
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おまけ

「とうっ!」

 静奈が片手拳をふりかざしました。意味はありません。

「……今は勤務時間じゃないのだから、精神病を演じる必要はないんだぞ?」

「ダイジョブです。ちゃんと残業分ってことで給料上げてもらいますから!」

「おいおい……」

 ここは深夜の道筋。やっと仕事を終えた医者が、それまで児童養護施設でアルバイトをしていた静奈を、家まで送ってあげているのです。夜道は危険ですからね。いつどこからお化けが出てくるか分かったもんじゃありません。

「それにしても……」

 静奈が暗闇を見上げて呟きます。

「こんなことして、なんの意味があるんです? あの施設で精神障害のフリして、もうけっこう経ちますけど、まだなんの進展もないんすけど……」

「なんだ。辞表か? こっちはそれでも構わないが」

「そうじゃなくてですね! えーっと、なんていうか……先生、もしかして本当に私が障害者になるの待ってたりしてます? 障害者を演じ続けてたら狂ってきちゃった! みたいな」

「お。頭いいな。見直したぞ」

「給料上げてくれます?」

「…………」

 平坦な道が続いています。横道がたくさんあって、そのどこからお化けが出てきても不思議ではありません。

「あ、そういえばですねー。来てましたよ、舞ちゃん」

「ああ、そうか」

「なんだか、ムでの舞ちゃんとは印象が違ってましたね。なんとゆーか、髪型のワカメ感がボリュームアップしてました!」

「そうか……」

「なんなんでしょうねあのワカメは! というか、見た感じ舞ちゃんって普通の子だったんすけど、どこが精神病なんです?」

 静奈の左手首には、いつも着けているリストバンド。

「自閉症だよ。でもあれは軽い、生活にほとんど支障のない程度だ。一日に一度は棚の整理をしなと気がすまない。そうしないと発狂する。人の嘘が見抜けない。その程度さ。……あ、今話したことは忘れろよ。医者には守秘義務ってもんがあるんだから」

「とうっ!」

 また静奈が拳をふりあげました。意味はもちろんありません。

「どうしたんだ」

「いや、もしお化けとか出てきてもアッパー食らわせてやろうと思いましてね。その練習ですよ」

 意味ありました。

 静奈は布団に身を沈めました。静奈は特に精神力の強い人だと自負しているようですが、毎日八時間もあの養護施設にいると、どうしても疲労を感じずにはいられないのです。左腕のリストバンドが、今日は特に重たく感じられます。

 医者が言っていました。アルバイトをするにおいて、必ず守らねばならないみっつのこと。

 ひとつ、週の四十五時間以上をあの養護施設で過ごすこと。

 ひとつ、このことはまだ誰にも言わないこと。

 ひとつ、リストバンドは水浴のとき以外は、寝ているときもつけておくこと――。

〈五秒後にこの世界は滅びます――〉

 途端に、そんな音が部屋中を駆け巡りました。静奈は目を擦ります。リストバンドに組み込まれたコンピュータが、ムに行く時間だよと告げてくれたのです。

(それにしても、このアラーム音ってダサいよね……。もっと華やかな音楽とかに変える方法はないのかな。……今度、先生に聞いてみよう。これじゃあ趣味悪いよ)

 この部屋は、静奈の私物でいっぱいです。椋木さんちとは大違い。これぞ我が家といった感じです。

(それに、他の人驚かせちゃうし……。まるで、「どこからともなく世界中に」流れたみたいに聞こえちゃうよ……)

 静奈は目を瞑って、栄養剤を口に含みました。

原稿用紙換算 328枚


――ご読了ありがとうございました!


追記

(7月29日23時)誤字修正しました。表現上の修正はありません。

(8月2日19時)第1章2の誤字修正しました。表現上の修正はありません。なお、サイレンサーを付けても銃声はあまり小さくならないらしいです。調査不足でした。申し訳ありません。

(8月11日05時)第3章3の誤字修正しました。また、それに伴い次のように表現を改めました。「それとも舞から見えないところで、洗濯物が稼動しているのかもしれません。」→「それとも洗濯機は、舞から見えないところで稼動しているのかもしれません。」

(8月11日06時)第4章7の誤字修正しました。表現上の修正はありません。「高嶺の見物」→「高みの見物」。なお、本作では、「入浴」という単語を「シャワーや風呂の総称」と誤解して使っています。恥ずかしい限りです。申し訳ありません。

(8月14日22時)誤字修正しました。「ほうばり」→「ほおばり」、「表面状」→「表面上」、「兄の感触」→「足の感触」、「統治」→「統率」、「あたな方」→「あなた方」。また、次のように表現を改めました。「堅実的な」→「真面目な」

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