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  作者: 小伏史央
【ム・前】
1/41

ム(0) 日記/後

(留意事項)PG12

 暴力などの過激な表現を含みます。苦手な方はご注意ください。特に、12歳未満の方はご遠慮ください。

二〇一二年七月二九日


 お医者様に勧められて、児童養護施設というところへ行ってきた。そんなところに入るつもりはまったくないのだけれど、就職とかの人生設計でいい相談相手がいるからって。

 さすがに高校生ぐらいの年齢じゃ入れないのかと思っていたのだけど、意外と私と同い年くらいの人もなんにんかいた。

 その中で、特に気になった子がいる。名前と違って、すごくうるさい子だ。年は私と同じか、ちょっと年下かってくらい。だけれど本人は、自分のことを大学生だと信じて疑っていないらしい。

 それと、彼女は考え方がちょっとおかしい。人の価値観は尊重すべきだけれど、その子は、自分の考えを信じきって他の人の話を聞こうとしない。耳を持っていないのかもしれない。

 林檎を食べちゃいけないって、そんなことを言っていた。林檎というよりも、あの言い方は、聖書に出てくる樹の実のことなんだろう。彼女が喚くには、人は悪魔を信じちゃいけないように、神様を信じてもいけないんだって。神様なんかに惑わされないで、自分で自分を救っていかないといけないんだって。それと林檎がどう関係しているのかは理解できなかったけれど、ともかく、そんな変な考えをした女の子がいた。

 あの子はどうしてあんなにひねくれて、そしてどうして養護施設にいるのだろう。施設の係員に訊いてみたら、わりと簡単に教えてくれた。こういうものには守秘義務があるんじゃないのかと思ったのだけど。

 あの子は、親の虐待を受けていたらしい。ねじれた考え方を押し込まれて、蓋をされて、閉じ込められてしまったのだって。大学生になったら家を出なきゃいけないって言われて、今、親から離されて施設に入った自分を大学生だと思い込んでいるんだって。

 精神疾患なんだって。

 彼女はとても家を恋しがっていた。私の目にはそう映った。

 就職についての相談は、良かったほうかもしれない。だけれど私は、もうここへは来たくないと思った。係員は笑顔で秘密をバラしちゃうし。変な女の子はいるし。

 せっかくのお医者様のお勧めだけれど、ごめんなさい。相談のとき紹介された会社も、なんだか怖いから行かないことにしといた。こんなんじゃあ食べ物を食べることはできないけれど、まだ、私は十七歳なのだから、猶予はもう少しあるよね。



     /


〈五秒後にこの世界は滅びます――〉

 そんなアナウンスが、どこからともなく世界中に響き渡りました。世界のみんなは大混乱。なにかいい解決策はないのでしょうか。

 ――はい。五秒じゃなにもできません。

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