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世界シリーズ番外編

殺された世界の望み

作者: 448 23

 「傭兵が辞めた後の世界状態」の母視点です。

 不治の病は珍しくなかった。薬というものが効かない風邪と思えばいいのだ。どうせ死ぬ運命にある我が身ひとつ、いつまでも生かしておいては意味がないだろう。息子から月に1回送られてくる金にも困っていたところだ。なんせ、買うようなものがない。1ヶ月分の食事代など、それに比べたらかわいらしいものだ。

「いいのかい、本当に知らせなくて」

「ええ、いいの。どうせなら、思いっきり楽しむものですから」

 余命2ヶ月といったところだと告げられた。十分である。

「私が死んだあとも、あの子によろしくね」

「もう……縁起の悪いことを言わないで頂戴」

 長らく世話になった人だ。彼女としては、この結果が納得できないものなのだろう。

 息子は旅に出ている。たしか、仕事は傭兵だ。私はあの子に課題を出した。「世界」を知ること。あの子にとっての「世界」を。あの子にしかない「世界」を。私の「世界」はまだ生きている。私があの子を産んで「世界」を知ったように、あの子も好きな人と結婚して子を授かると「世界」を知るのだろうか。



 次の日のことだった。何かを決心したような、凛々しい顔だった。

「あの子に伝えて頂戴。私の課題はできた、と」

「お安い御用よ、任せて」




 長い間世話になったあの人が、今日亡くなった。私はあの人からの最後の頼みごとを果たさなければならない。

 少し前に聞いた話によると、あの人は息子に「世界」を知るという課題を残したらしい。あの人は息子を授かってからとても明るくなった。きっと、あの子こそあの人の「世界」なのだろう。ならば、あの子にとっての「世界」とは何だろうか。あの人からの頼みごとが浮かび上がる。

「課題はできた」

 そうだ、課題なのだ。自分が死ぬと分かっているときに、そんなことを。いや、もしかしたらあの人は……。


 

 あの人が死ぬことで分かるものが、あの子にとっての「世界」なのか。




 あの子が帰ってきた。少しだけ、冷気を帯びた視線を向けられる。

「残念だったね……お気の毒に」

 あの子の眼が潤んだ気がした。

「ありがとう、おばさん。最期まで母の近くにいてくださって」

「いいや、これくらいしか私にゃ出来んのさ」

 あの子、彼が歩き出す。それを止めると、彼は立ち止まった。振り向きはしない。出来ない。

「私は、あの人の最後の頼みごとを果たす」

「頼みごと……?」

「《私の課題はできた》」

「!」

 彼が振り向く。泣いていた。声は漏れていなかった。そして、口を開く。空気を吸い込みすぎたのか、か細い音をたてる。

「できたよ」

 彼、あの子の声がした。




 これは、家族の物語。知らないはずだった世界を「少年」は知った。



 心臓が限界を告げる。

 人払いは済ませてある。

「おめでとう」

 彼女は微笑んだ。

 美しい女性が動くことはなかった。


 あの人は分かっていた。

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