大弓の女冒険者
弓を主に使う冒険者は少数派である。
圧倒的多数の戦闘職は近接武器が主流だ。騎士も兵士も冒険者も。
近接武器は、取り敢えず手に持っていればすぐに振り回せる。
対して弓は接近戦では有効に機能しない。弓で殴る訳にもいかない。
かつ弓は、矢を大量に必要とする。しかもこれは消耗品だ。
戦闘の度に出費がかさむのは、個人にとって負担となる。
そして思い通り対象を射るのは、やれば分かるがことのほか難しい。
何事もモノになるまでには鍛錬が必要なのだ。
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だが、このイエドラは中級の女三つ星冒険者で大弓を使っている。
背が高く瘦せ型で、蜂蜜色の短い髪に茶色の瞳をした二十歳の美人だ。
その辺の男性とは大差ない背丈で無口なため、男性からは敬遠される。
反面女性からは凛々しい顔立ちから憧れの目で見られている。
特定人物とは組まず、普段は一人で冒険者活動を行っている。
一応弓以外に短剣も持っているが、これは獲物を捌くためのものである。
しかし現在背負っている矢筒にはいつ見ても十数本しか入っていない。
普通に考えれば、一、二戦でもう戦闘続行不可能だろう。
だが彼女は害獣駆除も魔獣駆除もこれまで単独で何度もこなしている。
これまで駆除した獲物も、見事に矢傷だけしか付いてなかった。
ほとんどの獲物は脳天に矢傷ひとつだけ。非常に素材の状態が良い。
本日も、ぱっと見は細見の身体でよく軽々と持ち上げられるものだが、
一頭の仕留めた獲物を肩に背負って冒険者組合へやって来ている。
窓口まで来たイエドラはいつも通り要点のみ、
「ソルジャーウルフを森で偶発駆除。報酬をお願いしたい。
残り八頭は表に置いた台車に積んである。確認を」
と受付嬢へ告げる。
職員が外へ確認に向かえば、八頭のソルジャーウルフが積まれていた。
例によって、全て眉間を矢で打ち抜かれている。
駆除と素材の報酬をその場で受け取り、彼女は組合を後にする。
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この日もイエドラは町からやや離れた森に入っていた。
組み立て式の台車はたたんで脇に寄せ、慣れた手つきで木に登る。
先日見つけた獣道を張っていると、マーダーベアが進んできた。
大弓に矢筒から取り出した矢をつがえる。
よく見ればそれは実に奇妙な光景であった。
大弓には弦が張っていない。そして矢には鏃が付いていない。
イエドラはそれが当然とばかり、構わず狙っている。
「《猟犬の矢》」
そうイエドラが口にすると、矢から光のようなものが放たれる。
光は湾曲して進み、別方向を向いているマーダーベアの眉間を貫く。
崩れ落ちるマーダーベアをしばらく見定め、イエドラは息を吐く。
この大弓と矢は、ある魔術師の少年が拵えた魔術武器である。
大弓と、状況に合わせた矢をつがえて術名を唱えると発動する。
この大弓は弓ではなく、実態はほぼ、魔術用の杖なのだ。
イエドラはかつて故郷で家族と共に狩人をやっていた。
独立を機に冒険者となったのだが、特に近接武器の技能はなかった。
そのため仕事振りは真面目でも、昇格出来ず燻ぶる事になる。
彼女は平民としてはかなり体内魔素が多く、下級貴族並みだった。
何かに活かせないかと知り合った魔術師の少年に相談したところ、
しばらく経って彼から試作しましたと渡されたのがこの一式。
てっきり弓に何か機能が付いたのかと思ったら、別物が出来てきた。
別に魔術師になりたい訳ではないのだが。杖ではなく「弓の形の」杖。
発動時は弦を引き絞る感覚もあるので、確かにイエドラにはなじむ。
元狩人としては引っかかる部分もあるが、妙な面白さも感じている。
この大弓の助力によって、二つ星から三つ星への昇格は早かった。
大弓と矢の少年への報酬は、使用感の感想と改良点の報告である。
駆除報酬を半額渡そうとしたのだがそれは断られた。
いわく「僕も楽しんで作ってますから」と。
普段無表情な少年の珍しい微笑みを思い出し、イエドラは一人笑った。
ホーミングレーザーとか大好物。
この大弓と矢はこの後小型軽量化され、騎士団の標準装備に。
複数攻撃用とか麻痺の矢もあり。射程距離は大弓と同じ。




