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転生した天才鍛冶師は魔王と旅をする!? 〜周りが曇っていくのは俺のせいじゃない〜  作者: 烏羽 楓


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第5話「訳ありな冒険者」

 交差した剣と盾の紋章が掲げられた建物は、遠目にもよく目立っていた。

 石造りの外壁は武骨で、見栄えより実用性を優先した造りだとすぐに分かる。扉の前には鎧姿の男や、軽装の弓使いらしき女、荷物を抱えた商人風の男までいて、出入りする人間の種類は思っていたより幅広い。

 

「ここが冒険者ギルド、か」

 

 俺が小さく呟くと、隣にいたティアがフードの奥で目を細めた。

 

「いかにも、という感じじゃのう。荒くれ者の巣窟かと思うておったが、思ったより整っておる」

「外見だけで決めつけるべきではないぞ」

「おぬしも最初に建物の造りを見て似たようなことを考えておったじゃろ」

「……さて、なんのことだか」

「おぬしが人を見るように、妾もおぬしを見ておるだけじゃ」

 

 さらりと言われ、俺は軽く肩をすくめた。面倒な同行者だとは思う。が、不思議と嫌ではない。前世では一人で過ごすことが多かったからか、新鮮さの方が勝っているのかもしれない。

 俺たちは並んでギルドの中へと足を進めた。

 

 扉をくぐった瞬間、酒場と役所を足して二で割ったような空気が鼻をつく。木の机と椅子が並ぶ広いホール。壁には大きな掲示板があり、そこへ何枚もの依頼書が隙間なく貼られている。片隅では朝から酒でも飲んでいるのか、数人の冒険者たちが騒いでいたが、受付の前には順番待ちの列がきちんとできていた。

 

 なるほど。完全な無法地帯ってわけじゃないらしい。

 

「ほう……」

 

 ティアがきょろきょろと辺りを見回す。白髪と琥珀の瞳を隠していても、その好奇心を隠すのは難しいらしい。珍しいものを見に来た子どもみたいな顔になっていた。

 

「迷子になるなよ」

「妾を何歳だと思っておる」

「その容姿じゃ説得力がないんでな」

「”外見だけで決めつけるべきではない”のではなかったかの?」

「ああ、すまん。言葉が足りなかった。”内面含めて”説得力がないんでな」

「っ! まったく失礼なやつじゃ!」

 

 そんなやり取りを交わしながら、俺たちは受付の列へ並んだ。

 少しして順番が回ってくると、受付の向こうにいた若い女性がにこやかに頭を下げた。栗色の髪を後ろでまとめ、制服らしき服を着ている。柔らかい物腰だが、目だけはよく周囲を見ていた。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をしたい」

 

 俺がそう言うと、受付嬢は一瞬だけティアにも視線を向け、それから頷いた。

 

「かしこまりました。お二人とも新規登録でよろしいですね?」

「ああ」

「うむ」

「では、こちらへお名前を。身分証があれば確認いたしますが、ない場合は条件付き登録扱いとなります」

 

 やっぱりそういう制度はあるらしい。

 差し出された用紙へ目を落とす。項目は意外と少ない。名前、年齢、出身、主武装、そして簡単な自己申告欄。身元不明の流れ者もそれなりに登録するのかもしれない。

 

「身分証はない」

「承知しました。その場合、規約説明の後に誓約印をお願いしております。内容に同意いただければ登録は可能です」


 笑顔は柔らかいが、こちらが曖昧な返答をすれば即座に聞き返してくる。人当たりはいいが、仕事はきっちりしている、この人はそんなタイプだろう。しかし、思っていたより柔軟に対応してくれる人で助かった。

 

 俺は名前の欄へ『ユウマ』と書き込む。

 隣ではティアが筆を持ったまましばらく考え込み、やがて迷いのない手つきで一言だけ記した。

 『ティア』。

 まあ、そうだろうな。

 

「年齢は……」

 

 受付嬢が確認しかけたところで、ティアはさらりと言った。

 

「十六、とでもしておこうかの」

「とでも、って何だよ」

「適当じゃ」

「雑すぎるだろ」

 

 俺が呆れて言うと、受付嬢は苦笑を浮かべたものの、深くは突っ込まなかった。身分証なしの時点で、その辺りは半ば自己申告頼りなんだろう。

 

「主武装は?」

「刀か、剣かな」

「妾は……そうじゃな、魔術、としておくかの」

 

 その言い方が少し不穏だったが、受付嬢はさらさらと書き留めていく。

 

「では、こちらが規約になります。ギルド内での私闘禁止、依頼の不正受注禁止、無断放棄への罰則、街中での無許可の武力行使禁止など、基本的な事項が主となっております」

 

 淡々と説明を受けながら、俺はざっと目を通した。

 思ったよりまともだ。いや、まともだからこそ人が集まるのか。

 

「問題なければ、この印板へ手を」

 

 差し出されたのは、手の平ほどの大きさの黒い金属板だった。表面には細かな術式のような文様が刻まれている。

 

「何だ、これ」

「簡易誓約具です。規約違反の記録照会に使用します。何かあっても命まで取るようなものではありませんので、ご安心を」

「そんなものを『安心を』で済ませるなよ」

 

 思わず言うと、受付嬢はまた少し苦笑した。

 俺は先に手を置く。板の表面が淡く光り、すぐに静まった。問題なく終わったらしい。

 

 次にティアが指先を乗せる。

 その瞬間だけ、板の光が僅かに揺れた。

 ほんの一瞬だ。受付嬢は気づいていない。だが俺は見逃さなかったし、当のティアも見えていたのか、フードの奥でわずかに目を細めた。

 ……やっぱり、普通じゃないと見るべきだろうな。

 

「はい、これで登録は完了です」

 

 受付嬢は二枚の薄い金属札を差し出した。

 

「こちらがギルド証になります。お二人とも初期ランクはF。依頼達成や査定で昇格していきます。高ランク依頼には制限がありますので、ご注意ください」

「へぇ……」

 

 俺はその札を受け取り、軽く眺めた。簡素だが、それなりにしっかりした作りだ。名前とランクだけが刻まれている。この世界ならではの照会方法があるのかもしれない。

 

「依頼はあちらの掲示板から選んでください。迷った場合は受付で相談も可能です」

 

 説明を受け終え、俺たちは掲示板の方へ向かった。

 貼られている依頼を流し見する。荷運び、雑用、店番、草刈り、薬草採取、簡単な見回り。低ランク向けはそんなところか。思ったより何でも屋だ。


 勝手なイメージだが、冒険者にとっての下積み時代ってそういう仕事をするもんだと俺も思っていたし、概ね想像通りだ。基本的な考えとしては、冒険者もサービス業だしな。

 

「ほう、草むしりまであるのう」

「いきなり高望みするなってことか」

「冒険者というより便利屋じゃな」

「どの仕事も最初はそんなもんだろ」

 

 そう言いながら一枚一枚見ていると、少し離れた受付の方から苛立った男の声が響いてきた。

 

「だから頼むって言ってるだろ! 一回だけでいいんだ!」

 

 声のした方へ目を向ける。

 黒髪の男が、受付へ食い下がっていた。年は三十前後だろうか。顔立ちは整っている方だが、頬はこけ、目の下には濃い隈がある。寝ていない顔だ。

 

 そして何より、装備が妙だった。

 腰に下げた剣は悪くない。むしろかなりいい部類だ。装飾も綺麗で手入れがしっかりされている。だが防具が酷い。革鎧は擦り切れ、肩当ては左右で別物、篭手も片方しかない。初心者が着けているものより、よほど酷い継ぎ接ぎ具合だった。


 何度も柄を握り直す手つきだけが落ち着かない。

 剣に慣れているというより、それに縋っているように見えた。

 

「規約ですので、受理できません」

 

 対応している受付嬢が困った顔で言う。

 

「この依頼はCランク相当の危険度が見込まれています。最低でも三名以上、もしくはCランク以上の冒険者を含む編成でなければ許可できません」

「そんなの分かってる! でも、知り合いは皆出払っていて他に受けてくれる奴がいないんだよ!」

 

 男は机に手をつき、今にも身を乗り出しそうな勢いで訴えた。

 

「少しでも実入りのいい仕事じゃなきゃ駄目なんだ。もう時間がないんだよ……!」

 

 その声には、虚勢だけじゃない切迫が混じっていた。

 俺は掲示板から少し身を引き、男の様子を観察する。

 

「……なんか訳ありって感じだな」

「おぬしもそう思うか」

 

 ティアも同じことを思ったらしい。フードの奥から、じっと男を見つめていた。

 

「剣だけはいい。防具は売ったか、換金できる物を片っ端から手放したか。少なくとも、ただ無茶したいだけの顔じゃない」

「ふむ」

 

 ティアは顎へ指を当てた。

 

「焦っておるのう」

「ああ。だが触らぬ神に祟りなしだ」

 

 俺がそう言って視線を外した次の瞬間だった。


「困っておる者を見捨てて依頼板を眺めておれというのか? 妾は嫌じゃ」

 

 ふっと隣の気配が消える。

 

「……は?」

 

 嫌な予感がして視線を向けると、案の定、ティアはもう受付で揉めている男の横まで行っていた。

 

「そんなに困っておるなら、妾”たち”が力になるぞ」


 あいつ! なにを勝手に。

 

「はぁ……」

 

 思わず深いため息が漏れる。

 受付嬢も男も揃ってティアを見ている。ティアは気にした様子もなく、当然のように話を続けた。

 

「その依頼、規約上ソロが駄目なだけなのじゃろう? なら人数を満たせばよい。妾たちもちょうど今しがた登録を終えたところじゃ」

「お、お前ら新人だろ!?」

 

 男が呆然とした声を漏らす。

 

「うむ。じゃが三人にはなる」

「そういう問題じゃありません!」

 

 受付嬢がすかさず言った。

 

「お二人はFランクの新規登録者です。この依頼は仮に人数を満たしても、本来ならおすすめできる内容では……」

「おすすめかどうかの話ではあるまい?」

 

 ティアはきょとんとした顔で首を傾げる。

 

「受けられるのか、受けられぬのか。その話をしておるのじゃ」

 

 こいつ、こういうところだけ妙に強いな。

 俺は頭を掻きながら合流した。

 

「勝手に話を進めるな」

「来たのう、ユウマ」

「来たのうじゃない」

 

 俺はティアの隣に立ち、改めて男を見る。やっぱり焦り方が尋常じゃない。

 

「念のため聞くが、その依頼、そんなに急ぐ理由は?」

 

 男は一瞬だけ口をつぐんだ。

 言うべきか迷っている顔だ。だがその迷いも長くは続かなかった。たぶん、本当に追い詰められているんだろう。

 

「……今日中に、まとまった金が必要なんだ」

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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