EP 14
「戦慄! マンドラ悲鳴のポテサラと、銀の包み焼き」
翌日。
『ポポロ屋』の厨房は、かつてない熱気に包まれていた。
「いいか、料理は『段取り』が8割だ! 戦場に行くつもりでかかれ!」
リアンの檄が飛ぶ。
集まったのは、ポポロ村に住む主婦連中だ。
エプロン姿のオークのおばちゃん、三角巾をしたゴブリンの娘、そして割烹着を着た人間の元冒険者の老婆など、総勢20名。
「まずは基本の『ポテトサラダ』だ! 全員、マンドラを捕まえろ!」
『ギャアアアアアア!!』
厨房に悲鳴が響く。
食材の『ニンジンマンドラ』が、調理されることを察知してまな板の上を走り回る。
「逃がすんじゃないよ! この大根役者ァ!」
オークのおばちゃんが、丸太のような腕でマンドラを鷲掴みにし、すりこ木で一撃。
ドゴォッ!
マンドラは静かになった。
「よし、次は『ハニーかぼちゃ』と『太陽芋』だ。これらを蒸して、熱いうちに潰す! ……完全に潰すなよ? ゴロゴロとした食感を残すのがコツだ」
リアンは手本を見せる。
ホクホクの芋たちを粗く潰し、そこに『マンドラ(微塵切り)』と、カリカリに焼いた『ピッグシープ』のベーコンを投入。
つなぎは、村特産の『マヨ・ハーブ』だ。
「混ぜ合わせろ! 空気を含ませるように!」
ボウルの中で黄金色とオレンジ色が混ざり合い、濃厚な香りが立ち昇る。
**『特製・三色ポテトサラダ』**の完成だ。
「次はメインディッシュだ。アルミホイル(ネット通販品)を出せ!」
リアンが取り出したのは、銀色に輝く薄い金属シート。
そこに、切り身にした『ピラダイ』と、厚切りの『肉椎茸』を乗せる。
『醤油草』のエキスとバターを落とし、最後にレモンの輪切りを添えて、ホイルを厳重に包む。
「これをオーブン……いや、イグニス! 出番だ!」
「へっ! 任せろ! 火力調整は覚えたぜ!」
店の裏で待機していたイグニスが、窓から顔を出し、絶妙な「弱火ブレス」を鉄板に吹きかける。
ホイルがパンパンに膨らんでいく。
「仕上げは『太陽米』だ。一粒一粒が立つように、強火で一気に炊き上げる!」
カッ!
釜の蓋が開くと、そこには宝石のように輝く『銀シャリ』が鎮座していた。
「……詰め込め! 冷めても美味い、それが弁当の真髄だ!」
村の女衆の手によって、次々と木箱に料理が詰められていく。
彩り豊かなポテサラ、照りの美しい太陽芋の甘露煮、そしてメインのホイル焼き。
「完成だ。名付けて……『ポポロ・デラックス幕の内弁当』!」
◇ ◇ ◇
試食タイム。
カウンターに並べられた弁当を前に、審査員が箸を構えた。
「い、いただきます!」
まずはキャルル。
ホイル包みを開ける。
ブワァッ……!
閉じ込められていたバター醤油と海の香りが、蒸気となって顔を直撃した。
「わぁぁ……!」
ピラダイの身を口に運ぶ。
ホロリと崩れる白身。そこに肉椎茸の旨味とバターが染み込んでいる。
「おいしいよぉぉぉ!!」
キャルルが足をバタバタさせて悶絶した。
「ピラダイってこんなに上品な味だったの!? それに、この肉椎茸! 噛むとジュワッてスープが出てくるぅ!」
続いてイグニス。
彼は『三色ポテトサラダ』を大口で頬張った。
「んぐっ……! こ、こんなに美味いのは初めてだ!」
イグニスが目を見開く。
「マンドラのコリコリした食感と、ハニーかぼちゃの甘みが最高だ! マヨ・ハーブの酸味が全体をまとめてやがる……! これなら野菜嫌いのガキでもバケツ一杯食えるぞ!」
そしてルナ。
彼女は無言で『銀シャリ』と『太陽芋の甘露煮』を往復していた。
その速度、音速。
「はふはふ……甘露煮の甘さが、ご飯に合いすぎまふぅ……♡」
すでに弁当箱は空だ。
「おかわりありまふ? あと10箱はいけそうですぅ☆」
「食い過ぎだエルフ」
最後に、ニャングル。
彼は味もさることながら、その「完成度」に震えていた。
「イケる! イケるでぇ! これなら冷めても味が落ちへん!」
彼は電卓(算盤)を弾く指が止まらない。
「原価は村の余り物やから激安……せやのに、この高級感! 関所の兵隊に見せたら、給料袋ごと置いていきよるで!」
ニャングルは天井を見上げ、幻覚を見ていた。
「見える……見えるでぇ! ポポロ村に黄金の雨が降る未来が! 札束の匂いがプンプンしよるわぁ!」
「よし、合格点だな」
リアンは腕組みをして頷いた。
「明日から『ポポロ弁当』の販売を開始する。ニャングル、お前は営業だ。イグニスは配送(空輸)。ルナは……つまみ食い禁止だ」
「ぶー」
「へいへい!」
「任せろ!」
こうして、大陸の胃袋を掌握する「お弁当作戦」が、静かに、しかし確実に動き出したのだった。




