表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

EP 13

「国境を越える500円弁当ワンコイン・タクティクス

ポポロ屋の閉店後。

カウンターには、リアン、キャルル、そして電卓代わりの算盤を弾くニャングルの姿があった。

パチパチパチパチ……ッターン!

「あかん。あかんわ、リアンはん」

ニャングルが算盤を置き、大げさに天を仰いだ。

「何がだ? 今日の売り上げは悪くなかったはずだが」

「ちゃうねん。売り上げの話やない。『機会損失』の話をしとるんや」

ニャングルは身を乗り出し、鋭い猫目でリアンを見据えた。

「リアンはん、商売をしまへんか?」

「商売?」

リアンは眉をひそめ、コーヒーを啜った。

「ポポロ屋の料理は美味い。せやけど、食べられる客は『椅子の数』だけや。満席になったら客を帰さなアカン。これは勿体ない……いや、罪やで!」

「……なるほど。言いたいことは分かる。だが、店を広げるには人手が足りないぞ」

「せやから! 店を広げんでもええ方法があるんや!」

ニャングルはニタリと笑い、一枚の羊皮紙(企画書)を広げた。

「リアンはんが、村の奥様連中に『料理教室』を開いて、一定以上の腕前にさせるんや。そして……『弁当』を大量生産させまんねん!」

「ほぉ……つまり、『宅食サービス(ケータリング)』を作る気か」

リアンは感心した。

前世の日本で当たり前だったシステムを、この商人は感覚だけで導き出したのだ。

「その通りや! メニューは冷めても美味い『唐揚げ』や『生姜焼き』がメイン! 栄養満点! ボリューム満点! それを……1食500ワンコインで売る! どうでっか!?」

「500円……」

キャルルが反応した。

「安いわね。ルナミス帝国の最低賃金でも買える値段だわ」

「せやろ? 薄利多売や! この村の食材なら原価は抑えられる!」

キャルルは村長としての顔つきになり、指を組んだ。

「それに、その案なら……村の女性たちの『雇用』も生まれるわね! 農家の奥さんや、力の弱い亜人の女性でも、料理なら戦力になれる」

「その通りや、キャルル! 流石村長、話が早いで!」

ニャングルが尻尾を立てて喜ぶ。

だが、リアンは冷静に指摘した。

「客はどうするんだ? 村の人口は500人。毎日全員が弁当を買うわけじゃないぞ」

ニャングルは待ってましたとばかりに、地図をバンと叩いた。

「ポポロ村だけでは売りまへん! 狙いはココや!」

彼が指差したのは、村を取り囲む三つの地点。

『ワイズ皇国・魔導関所』

『ルナミス帝国・駐屯基地』

『レオンハート獣人王国・国境警備隊』

「三国の関所に売り捌くんですわ!」

ニャングルは熱弁を振るう。

「国境警備の兵隊さんは、毎日カチカチの乾パンと干し肉しか食うてへん。そこに、湯気の立つほかほかの『唐揚げ弁当』を持っていってみ? ……あいつら、泣いて喜びまっせ」

「……なるほどな」

リアンは口元を歪めた。

それは料理人としての笑みであり、元・影の支配者としての笑みでもあった。

「良いだろう。相手の胃袋を掴む事は……」

「『政治』になる」

キャルルがリアンの言葉を引き取った。

「もし、三国全ての兵士が『ポポロ村の弁当』なしでは生きられない体になれば……上層部が『ポポロ村を攻撃しろ』と命令しても、現場の兵士が反乱を起こすわね」

「『俺たちの飯屋を燃やす気か!』ってな」

「分かってんなぁ、二人とも! 流石は元公爵と村長や!」

ニャングルは満足げに算盤を振った。

「これは単なる弁当売りやない。『食による平和維持活動(そしてボロ儲け)』や!」

「決まりだ」

リアンは立ち上がり、厨房の冷蔵庫を開けた。

「なら、まずは『レシピ開発』だ。誰が作っても味がブレない、最強のタレを作る。……キャルル、村中の料理自慢を集めてくれ。オークのおばちゃんでも、ゴブリンの娘でも構わない」

「了解! 自警団の招集より早く集まると思うわ!」

「ニャングル、お前は資材調達だ。弁当箱の容器……木材加工はドワーフに発注しろ」

「へいへい! 安く買い叩いてきまっさ!」

こうして、ポポロ村の地下で(厨房で)、恐るべき計画が始動した。

後に『大陸三大国・胃袋制圧作戦』と呼ばれることになる、ポポロ弁当の伝説の始まりである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ