EP 11
「爆走! ニンジン・マンドラ収穫祭(物理)」
「リアン君〜! 手伝ってぇ〜!!」
ポポロ屋の2階、住居スペース。
洗面台で歯磨きをしていた俺の背中に、キャルルの切羽詰まった声が突き刺さった。
「あ? 何だ、こんな朝から……」
俺は口をゆすぎ、眠い目をこすりながら窓を開けた。
眼下に広がる畑。そこでは、信じられない光景が繰り広げられていた。
「今日はポポロ村のニンジンマンドラ収穫祭なの! でも、今年のニンジンたちが……!」
『ギャアアアアアアアア!!』
鼓膜をつんざくような悲鳴。
畑の土煙の中から飛び出してきたのは、通常の三倍……いや、十倍の速度で疾走するニンジンマンドラたちだった。
しかも、緑色のオーラを纏い、足(根っこ)の筋肉がムキムキにパンプアップしている。
「なんだあれは。陸上選手か?」
「違うの! ルナちゃんが!」
視線を移すと、畑の隅でポンポンを持って応援しているエルフルナと、必死に追いかける赤い竜人イグニスの姿があった。
「待てェェ! ゴラアアア!! 俺様の朝飯ィィィ!!」
イグニスが四つん這いになり、野生の本能全開で追いかけるが、ニンジンたちは残像を残すほどの『高速反復横跳び』で回避していく。
「フレー☆ フレー☆ ニンジンさ〜ん♡ 逃げ切ったら勝ちですよぉ〜!」
「お前が元凶じゃねぇか!! ルナ!!」
イグニスが走りながらブチ切れた。
「世界樹の杖でドーピングしやがって! ただの野菜が音速超えてるぞ!」
「え〜? 運動した方が身が引き締まって、美味しくなるかと思ってぇ♡」
ルナは悪びれもせず、キラキラした笑顔で杖を振っている。
あの杖の加護を受けた植物は、モンスター化する。忘れていた。
「やれやれ……。朝飯前の運動にしてはハードだな」
俺はため息をつき、パジャマから着替えるのも面倒なので、そのままで窓枠に足をかけた。
腰には愛用の『銃口剣』。
「イグニス! そのままだと村中走り回って被害が出る! ニンジンをこっち(広場)にこさせろ!」
俺が叫ぶと、イグニスがニヤリと笑った。
「へっ! 任せろおお! まとめてウェルダンにしてやるぜ! ――『大火炎』!!」
ドゴォォォォォン!!
イグニスの口から、紅蓮の火炎放射が放たれた。
それはニンジンたちの退路を断つ壁となるが――火力が強すぎる。
「ひゃああっ! む、村がああ! 燃えるううぅ!!」
キャルルが長い耳を押さえて絶叫する。
民家の屋根に火が移りそうだ。
「チッ、あのバカ竜……加減を知らんのか」
俺は窓から飛び降り、空中で銃口剣の撃鉄を起こした。
カシャッ。
刀身がスライドし、真紅の魔力が充填される。
「銃口剣――『スラッシュモード・起動』」
キィィィィィン……!
刀身が超高周波振動を起こし、摩擦熱で数千度の赤熱を帯びる。
俺は着地と同時に、炎に追われてパニックになり、一直線に向かってくるニンジンマンドラの群れ(約50匹)を見据えた。
「調理開始だ」
俺は低く構え、一息に踏み込んだ。
「必殺・『焦熱灼刃』!!」
ズバァァァァン!!
横一文字の閃光。
俺が通り過ぎた後、世界が一瞬静止した。
『ギャ……』
悲鳴が途切れる。
次の瞬間。
ジュワァァァァァ……!
ニンジンマンドラたちの胴体が、鮮やかに両断された。
だが、血(汁)は一滴も出ない。
数千度の刃が、切断と同時に断面を瞬時に焼き固め(カウタライズ)、旨味を内部に封じ込めたのだ。
ボトボトボトッ。
地面に落ちたのは、香ばしい焼き目のついた『ニンジンステーキ』の山。
辺りに漂うのは、焦がしキャラメルのような甘く芳醇な香り。
「ふぅ……」
俺は刀身の熱を冷ましながら、剣を納めた。
「す、すごい……一瞬で……」
キャルルが呆然と呟く。
イグニスが消化活動(足で火を踏み消す)を終えて走ってきた。
「お、おいリアン! これ食っていいのか!?」
「ああ。ルナの魔法のおかげで糖度が上がってる上に、俺の剣で瞬間グリルしたからな。味は保証する」
イグニスとキャルルが、焼きあがったニンジンに恐る恐る手を伸ばし、口に入れた。
カリッ、ジュワッ。
「「あまーーーーーーい!!」」
二人の絶叫が重なった。
「なんだこれ!? 砂糖菓子か!? 中がトロトロだぜ!」
「運動したおかげで身が締まってるのに、火の通りが完璧……! おいしぃぃ!」
「んふふ〜♡ やっぱり私の魔法のおかげですねっ☆」
ルナが得意げに胸を張る。
俺は彼女の頭に、チョップを落とした。
「痛っ!?」
「結果オーライだが、次は事前に言え。……さて、これだけ大量にあるんだ。今日は『ニンジンポタージュ』と『キャロットケーキ』の食べ放題だな」
こうして、ポポロ村の騒がしい収穫祭は、極上の朝食と共に幕を閉じたのだった。
(なお、村の修繕費はイグニスの給料から引かれた)




