表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

EP 11

「爆走! ニンジン・マンドラ収穫祭(物理)」

「リアン君〜! 手伝ってぇ〜!!」

ポポロ屋の2階、住居スペース。

洗面台で歯磨きをしていた俺の背中に、キャルルの切羽詰まった声が突き刺さった。

「あ? 何だ、こんな朝から……」

俺は口をゆすぎ、眠い目をこすりながら窓を開けた。

眼下に広がる畑。そこでは、信じられない光景が繰り広げられていた。

「今日はポポロ村のニンジンマンドラ収穫祭なの! でも、今年のニンジンたちが……!」

『ギャアアアアアアアア!!』

鼓膜をつんざくような悲鳴。

畑の土煙の中から飛び出してきたのは、通常の三倍……いや、十倍の速度で疾走するニンジンマンドラたちだった。

しかも、緑色のオーラを纏い、足(根っこ)の筋肉がムキムキにパンプアップしている。

「なんだあれは。陸上選手か?」

「違うの! ルナちゃんが!」

視線を移すと、畑の隅でポンポンを持って応援しているエルフルナと、必死に追いかける赤い竜人イグニスの姿があった。

「待てェェ! ゴラアアア!! 俺様の朝飯ィィィ!!」

イグニスが四つん這いになり、野生の本能全開で追いかけるが、ニンジンたちは残像を残すほどの『高速反復横跳び』で回避していく。

「フレー☆ フレー☆ ニンジンさ〜ん♡ 逃げ切ったら勝ちですよぉ〜!」

「お前が元凶じゃねぇか!! ルナ!!」

イグニスが走りながらブチ切れた。

「世界樹の杖でドーピングしやがって! ただの野菜が音速超えてるぞ!」

「え〜? 運動した方が身が引き締まって、美味しくなるかと思ってぇ♡」

ルナは悪びれもせず、キラキラした笑顔で杖を振っている。

あの杖の加護を受けた植物は、モンスター化する。忘れていた。

「やれやれ……。朝飯前の運動にしてはハードだな」

俺はため息をつき、パジャマから着替えるのも面倒なので、そのままで窓枠に足をかけた。

腰には愛用の『銃口剣』。

「イグニス! そのままだと村中走り回って被害が出る! ニンジンをこっち(広場)にこさせろ!」

俺が叫ぶと、イグニスがニヤリと笑った。

「へっ! 任せろおお! まとめてウェルダンにしてやるぜ! ――『大火炎イグニス・ブレス』!!」

ドゴォォォォォン!!

イグニスの口から、紅蓮の火炎放射が放たれた。

それはニンジンたちの退路を断つ壁となるが――火力が強すぎる。

「ひゃああっ! む、村がああ! 燃えるううぅ!!」

キャルルが長い耳を押さえて絶叫する。

民家の屋根に火が移りそうだ。

「チッ、あのバカ竜……加減を知らんのか」

俺は窓から飛び降り、空中で銃口剣の撃鉄を起こした。

カシャッ。

刀身がスライドし、真紅の魔力が充填される。

「銃口剣――『スラッシュモード・起動』」

キィィィィィン……!

刀身が超高周波振動を起こし、摩擦熱で数千度の赤熱を帯びる。

俺は着地と同時に、炎に追われてパニックになり、一直線に向かってくるニンジンマンドラの群れ(約50匹)を見据えた。

「調理開始だ」

俺は低く構え、一息に踏み込んだ。

「必殺・『焦熱灼刃ヒート・ブレイズ・エッジ』!!」

ズバァァァァン!!

横一文字の閃光。

俺が通り過ぎた後、世界が一瞬静止した。

『ギャ……』

悲鳴が途切れる。

次の瞬間。

ジュワァァァァァ……!

ニンジンマンドラたちの胴体が、鮮やかに両断された。

だが、血(汁)は一滴も出ない。

数千度の刃が、切断と同時に断面を瞬時に焼き固め(カウタライズ)、旨味を内部に封じ込めたのだ。

ボトボトボトッ。

地面に落ちたのは、香ばしい焼き目のついた『ニンジンステーキ』の山。

辺りに漂うのは、焦がしキャラメルのような甘く芳醇な香り。

「ふぅ……」

俺は刀身の熱を冷ましながら、剣を納めた。

「す、すごい……一瞬で……」

キャルルが呆然と呟く。

イグニスが消化活動(足で火を踏み消す)を終えて走ってきた。

「お、おいリアン! これ食っていいのか!?」

「ああ。ルナの魔法のおかげで糖度が上がってる上に、俺の剣で瞬間グリルしたからな。味は保証する」

イグニスとキャルルが、焼きあがったニンジンに恐る恐る手を伸ばし、口に入れた。

カリッ、ジュワッ。

「「あまーーーーーーい!!」」

二人の絶叫が重なった。

「なんだこれ!? 砂糖菓子か!? 中がトロトロだぜ!」

「運動したおかげで身が締まってるのに、火の通りが完璧……! おいしぃぃ!」

「んふふ〜♡ やっぱり私の魔法のおかげですねっ☆」

ルナが得意げに胸を張る。

俺は彼女の頭に、チョップを落とした。

「痛っ!?」

「結果オーライだが、次は事前に言え。……さて、これだけ大量にあるんだ。今日は『ニンジンポタージュ』と『キャロットケーキ』の食べ放題だな」

こうして、ポポロ村の騒がしい収穫祭は、極上の朝食と共に幕を閉じたのだった。

(なお、村の修繕費はイグニスの給料から引かれた)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ