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人間意識の境界  作者: アルガス
四十八時間
3/6

引き返せない地点

2060年、ネオンの街。

技術が輝き、監視が影を落とす。

アルヴィンは希望と不安の狭間に立つ。

この朝、彼の運命が動き出す。

一歩踏み出す先は、

光か、闇か?

朝の光がボロボロのブラインドの隙間を通り抜け、

剥がれた壁に細い金色の筋を描いていた。

まるでこの忘れ去られた世界の片隅で、希望を塗りつけるように。

アルヴィンの部屋は、錆びた金属と古びたコーヒーの匂いに満ち、

時間が止まったかのようだった。


ナイトスタンドの電子時計がピッと鳴り、7:30を告げた。

2060年の新たな一日。

技術が意識を拡張する世界で、彼の小さなアパートだけは変わらない。

アルヴィンはゆっくりと目を開け、

朝の冷気が肌に触れるのを感じた。


徹夜で機械義肢を組み立てた後の筋肉の鈍い痛みが、

貧困から抜け出す唯一の希望を思い出させた。


アルヴィン(内心):

「起きるの、ほんと嫌だ…

この面接、行かなくていいかな?

このガラクタを修理し続ける生活でいい?

いや、ダメだ。

これはまともな人生への切符だ。

仕事、金、ナノマテリアルだって。

もうコーヒーマシンを直したり、闇市場で自作モジュールを売ったりするのはうんざりだ。」




ベッドに腰を下ろし、

疲れと迷いを拭うように顔をこすった。

アパートは静寂に包まれ、

遠くの街の低いうなり——

車のエンジン音、ドローンの唸り、

窓の外の広告ホログラムのちらつき——が

かろうじて聞こえた。


視線が部屋をさまよった。

散らかった作業机には、

ワイヤー、マイクロチップ、工具が山積みだった。

そこには、昨夜完成させた機械義肢が置かれていた。

朝の光に照らされた金属の関節は、

今日の面接が成功すれば新しい生活が待っていると

約束しているようだった。


アルヴィン(内心):

「この面接が上手くいけば、ちゃんとした素材が買える。

ナノマテリアルだって夢じゃない。

この散らかりよう…

片付けないと、埃と自分の考えに埋もれちゃうよ。

朝からなんでこんな哲学的なんだ?

よし、コーヒー淹れよう。」




立ち上がり、キッチンへ向かった。

傷だらけのコーヒーマシンは、

何十年もの歴史を物語っていた。

ボタンを二回押したが、反応なし。

目を細め、背面のネジを回し、

接触不良の部分を押す。

一分後、マシンがゴボゴボと音を立て、

黒く香ばしいコーヒーがカップに滴り始めた。


コーヒーの香りが金属の匂いと混ざり、

奇妙だが慣れた心地よさを生んだ。


アルヴィン(内心):

「何回修理したんだっけ?

もう捨てるべきだ…

俺自身も、かな。」




コーヒーが滴る間、窓に近づいた。

埃っぽいガラス越しに、

西部地区の灰色の通りが見えた。

色あせたビルと錆びた金属構造物。

時折、朝霧の中で赤いライトを点滅させながら

ドローンが飛んでいた。


陽光がガラスに柔らかく映り、

過去の記憶がよみがえった。

かつての実家、新鮮なパンの匂い、

キッチンでの両親の声、

学校へ行く前ののんびりした朝食。

あの頃は、モジュールもバリアも、

監視の目もない、シンプルな世界だった。


アルヴィン(内心):

「無邪気な時間…

遠すぎて、考えると痛い。」




頭を振って郷愁を振り払い、

コーヒーカップを手にテレビをつけた。

古い画面がチラつき、青い光を放ち、

アナウンサーの声が部屋を満たした。

椅子に凭れ、濃いコーヒーを一口飲んだ瞬間、

ニュースに目を奪われた。


街のパノラマ、

新しいインプラントのレポート、

中心部の抗議活動…

そして、奇妙な映像が映し出された。




若い女性記者がマイクを手に立っていた。

声ははっきりしていたが、微かに震えていた。

背後では、西部地区の賑やかな通りを

警察が封鎖していた。

巨大な三脚に点滅する金属ノードが付いた構造物。

まるで古いSF映画のアンテナのようだった。


カメラが揺れ、

モジュールを装着した重装甲の警察官、

急ぐエンジニア、

装置の点滅するインジケーターを捉えた。

すべてが不気味で、

現実的すぎる雰囲気だった。


記者:

「現在、西部地区で警察が

防護バリアのジェネレーターを設置しています。

この装置は、外部の脅威から広範囲を隔離する

透明なドーム状のフィールドを生成するとされています。

脅威とは何か? 詳しくお伝えします。」




カメラが制服姿の背の高い男性に切り替わった。

胸には「デイヴ隊長」と書かれた名札が輝いていた。

手を背中に組み、

疲れたが自信に満ちた視線を向けていた。


記者:

「デイヴ隊長、このバリアは市民にとって安全ですか?

また、設置の目的は何ですか?」


隊長は口の端で小さく笑ったが、

目は冷たかった。


デイヴ隊長:

「バリアの技術は機密です。

しかし、完全に安全だと保証します。

人やモジュールに影響を与えず、

自由に出入り可能です。

予防措置に過ぎません。」


記者:

「しかし、なぜ必要なのでしょうか?

危険な事態が起きているのですか?

また、人やモジュールに影響しないバリアが

どのように役立つのですか?」


デイヴは一瞬言葉に詰まり、

横に視線を逸らした。

自信が一瞬揺らいだ。


デイヴ隊長:

「まあ… 時には異常事態が起こるものです。

例えば、野生のテクノ鳩が市中心部に侵入して

混乱を引き起こすとか。

不安定なドローンとかね。

どんな事態にも備えなければ。」




アルヴィンはコーヒーを飲もうとしてむせ、

テーブルに少しこぼした。

袖で拭きながら、画面から目を離さなかった。


アルヴィン(内心):

「テクノ鳩? ふざけてるのか?

これが隊長?

こんなユーモアでどうやって昇進したんだ?

それとも… 何か隠してる?」


記者は戸惑いを隠そうと瞬きし、

プロの笑顔が揺らいだ。

その時、若い中尉がデイヴに駆け寄り、

何かを耳打ちした。


中尉:

「隊長、緊急情報です! コード3-9!」


デイヴ隊長:

「おっと、急用だ!」

彼は言い、さっさと中尉と去った。

明らかに質問から逃れたかった。




カメラが記者に戻り、

彼女は笑いをこらえながら髪を直した。


記者:

「ご覧の通り、警察は私たちの安全を守っています…

テクノ鳩からも。

現在、バリアは12番街から東の橋までを覆っています。」


画面に都市の地図が映し出され、

赤い線でドームの範囲が示された。

アルヴィンは固まった。

バリアは彼が面接に向かう地区を囲っていた。


アルヴィン(内心):

「やっぱり、面接の場所がそこか…

このバリア、ただのスキャナーだろ。

闇市場で似たようなドア用スキャナーを見たけど、

こんな規模じゃない。

機密技術? 出入りするものを監視してるんだ。

まあ、俺は大したことしてない…

自作モジュールを税金なしで売ったくらいだ。

こんなことで逮捕されないよな。

警察はもっと大事なことやってるはず… だろ?」




カップを置き、

椅子を軋ませて立ち上がり、着替えた。

時刻は8:30。

ボロボロのジャケットを着て、

ポケットをチェックした。

鍵、画面がひび割れた古いコミュニケーター、

数枚のコイン。


過去の記憶——

家、勉強、仕事、恋愛らしきもの——が

頭をよぎった。

胸に小さな不安が疼いた。

いや、いつもそこにあったのか?

数ヶ月前、闇市場でモジュールを売っていた時、

警察にほぼ捕まった。

あの時は警告で済んだが、

それ以来、どの物音も怪しく感じる。


アルヴィン(内心):

「準備できた! 8:30。

25分あれば、8:50には着く。

遅れずに済む。

時間厳守って俺らしいか?

まあ、いいか。行こう!」




ドアを開け、

暗い階段に足を踏み入れた。

古いビルの廊下は薄暗く、

剥がれた壁をちらつく蛍光灯がかろうじて照らしていた。

2030年代に取り壊される予定だったこの建物は、

なぜか金持ちのビジネスマンが買い取り、

貧困層に貸し出していた。

空気は湿気と古いプラスチックの匂いで重く、

遠くで古い換気扇のうなりが聞こえた。


エレベーターを呼び、乗り込んだ。

床が微かに揺れ、

1階のボタンを押すと、

ドアが閉まりかけたが、

直前に影が動いた。


声:

「待って! 私たちも下!」




ドアが止まり、

20代半ばくらいの男女が飛び込んできた。

エレベーターが動き出し、

緊張した静寂が広がった。

アルヴィンはちらりと二人を見た。

光るインプラントやインターフェースは見当たらない。

このビルでは、モジュールは高嶺の花だった。


アルヴィン(内心):

「モジュールなし?

まあ、この場所じゃ普通だ。

でも、この二人、初めて見るな。

いつ引っ越してきたんだ?

なんでこんな… 明るいんだ?」


エレベーターが止まり、

三人は外へ出た。

冷たい朝の空気が顔に当たり、

アスファルトと排気ガスの匂いが混ざった。


出口で女が振り返った。


女:

「ねえ、13号室の人?」


アルヴィンは頷き、

友好的に微笑んだが、

頭は面接とバリアのことでいっぱいだった。


アルヴィン:

「うん。君たちは?」


女:

「私たち、上の階の新しい住人よ!

私はディアナ、こいつは…」


男が割り込み、大きく笑った。


男:

「ハンゾン!」


ディアナが肘でつつき、目を細めた。


ディアナ:

「イリヤよ。

こいつのふざけた呼び名、気にしないで。」


イリヤは照れ笑いし、首を掻いた。


ディアナ:

「じゃ、仕事行くね。

アルヴィン、頑張って!」


アルヴィン:

「ありがとう、君たちも!」




別れた後、バス停に向かいながら、

アルヴィンは彼らの明るさが

少し気分を上げてくれたことに気づいた。

この灰色の地区では、

そんな人々は珍しかった。

まるで霧の中の光のようだった。


アルヴィン(内心):

「いい奴らだな。

今日、案外悪くないかも。

いや、俺が自分を励ましてるだけか?」


バス停の看板には

「バス運休:技術的問題」と書かれていた。

アルヴィンはため息をつき、

空っぽの通りを見渡した。


アルヴィン(内心):

「早めに出てよかった。

タクシー? 高すぎる。

歩くか。

健康にいいってことで。

誰を騙してるんだ?」




西部地区の通りは、

広告のネオン輝く未来都市とは程遠かった。

色あせたパネルと傾いた金属構造のビル、

ひび割れたアスファルト。

時折、ボロボロの車が通り過ぎるが、

最新技術の影はなかった。

空気は湿気と排気ガス、

金属の匂いで重かった。


頭上をドローンが飛び、

赤いライトがちらついた。

街が決して眠らないことを思い出させた。


メイン通りに出ると、

タクシーが目に入った。

運転手の名札には「ディラン」と書かれていた。

視線が交錯したが、

アルヴィンは通り過ぎた。


アルヴィン(内心):

「タクシーで5ポイント?

バスなら1.5だ。

歩くよ。」


ディラン:

「おい、若者、東の橋に行くんだろ?」


アルヴィンは立ち止まり、振り返った。

男は軽く笑っていたが、

目に何か不穏なものがあった。


アルヴィン:

「うん、だけど自分で…」


ディラン:

「待て待て! 2ポイントでいいよ。

そっちに用事があるんだ。

一人じゃ退屈だからさ。」




アルヴィンは目を細めた。

安すぎる。怪しい。


アルヴィン(内心):

「2ポイント? 怪しいな。

でも… こんな機会、逃せない。」


アルヴィン:

「よし、乗るよ。」


後部座席に座り、

タクシーが走り出した。

車は古く、

シートは擦り切れ、

タバコの微かな匂いが漂っていた。

ディランがラジオをつけたが、

音楽の代わりにノイズが響くだけだった。


しばらく沈黙が続いた。


ディラン:

「お前、アルヴィンだろ?

昨日のメッセージ、受け取ったな?」


アルヴィンは凍りついた。

心臓が一瞬止まった。

バックミラーでディランの視線と合った。


アルヴィン(内心):

「俺の名前を知ってる?

あの会社の人?

それとも… 罠?

何だこの状況?」




カチッ。

ドアのロックが鳴った。

車内の静寂が重く圧し掛かり、

ディランのバックミラーに映る笑顔が、

冷たく、まるで捕食者のように感じられた。

アルヴィンの指がシートを強く握った。


アルヴィン(内心):

「こいつは誰だ?

そして、俺に何の用だ?

これはただのタクシーじゃない…」

アルヴィンの一歩は始まった。

灰色の街、閉ざされたドア。

彼を待つのは希望か、罠か?

ネオンの光が揺らぐ中、

物語はまだ語られていない。

次へ進む勇気は、

あなたの手の中にある。

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