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絶望人生にさようなら、人間にして魔王に転ず。  作者: 御歳 逢生
第二章 極寒の王国~ハイランド王国編~
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第二十話 裁かれし極寒の地にて


魔王オべリスの命により、ヤゴリ、ナコビ、メザカモの3人のあとに続いて3種族がハイランド王国へと向かっていた。


「なあ、あれ全部、ヤマ様がやったのか? あの光、あの音、糸のような手が幾つも……。

 わい、夢でも見てるのかと思ったよ。」


ナコビは扇子をそっと閉じ、気品高い微笑をわずかに滲ませる。

だがその瞳は揺るぎなく、どこか凛とした強さを宿していた。


「うらも夢ならもっと雅なものを見るわ。あれは人間の終わりだった。

 けれども、裁きのあとの慈しみがあった。まるで、火に包まれてなお、消えぬ灯のよう……。」


彼女の言葉に応えるように、メザカモが静かに口を開いた。

彼の声は低く、誠実さと真っ直ぐな情熱を帯びている。


「……峻厳なる選別。あの場にいたら、私も動けなかっただろうな。私は、あの光景を忘れぬ。

 あの静かなる審判の中でも、選ばれず、ここに留まることを許された者たちがいる。

 我々がここにいる意味は、守護者として彼らを救い、支え、再び未来へと繋ぐことにある。

 たとえそれが、かつて我々魔族を死に追いやった人間だとしてもだ。」


3人の間に一瞬、決意の空気が満ちた。



薄明かりがまだ空を覆うころ、ヤゴリ、ナコビ、メザカモの3人率いる3種族は、静寂に包まれた集落の外れに立っていた。ハイランド王国は山岳地帯で万年厳しい冬の寒さに包まれている。その下には深い絶望が横たわっていた。


そこには、残された生存者たちの小さな集落があった。そこは、まるで生活の跡をそのまま残した街並みが広がっていた。だが、人の気配は希薄だった。

窓も戸口も開け放たれたまま、食器や衣がそのまま残る家々。消えた人々の営みが、あまりにも生々しく、痛々しかった。

折れた柱の影に身を寄せ合う老人、震える手で子供を抱きしめる母親、そして凍えながらも必死に生にしがみつく者たち。薄暗い空の下、彼らの命の灯火はかろうじて消えそうになりながらも、まだ確かに燃えていた。


メザカモが命令を出す。


「魔王オべリス様の命より、生き残っているものを保護せよ。牙を剥く者は殺せ、とのことだ!

 そして我々の仲間も探すのだ!各地に身を潜めているはずだ!城も探せ!」


3種族が散り散りになっていった。

ヤゴリが目を細め、家屋の向こうを見つめた。


「まさか、あんな光景を目の当たりにするなんて……。なあ、ナコビ、メザカモ……あれをどう思う?」


ナコビは気品ある佇まいのまま、少し唇を噛み締めた。


「光景は凄惨だけれど、それでも、生命が繋がっていることがわかるわ。

 見捨てられたわけじゃない。そう、うらはそう信じたい。」


メザカモはまっすぐに二人を見据え、静かに頷いた。


「守るべき生命がある。それを忘れてはならぬ。

 たとえどんなに世界が壊れても、我々の責務はここにある。」


村の中心には、残された者たちが床に恐怖していた。

木陰には小さな焚き火がいくつも灯り、生命の灯火が消えぬよう必死の祈りが込められていた。


その中に、一人の少年がいた。細く痩せた体に擦り切れた衣服を纏い、顔には深い悲しみと戸惑いが浮かんでいる。彼は涙を堪えきれず、震える声で呟いた。


「神様は……僕たちの中から、誰かを選んだ。ここに残されたのは、その証なんだ……。

 でも、どうして僕だけ……なんで僕なんだよ……。」


少年の言葉は、村の廃墟に溶け込み、空気を切り裂くようだった。

彼の目には涙が溢れ、か細い肩が何度も震えていた。


ナコビは静かに彼の元へ歩み寄り、優雅に扇を広げて温かい風を送った。

彼女の声は穏やかだが、芯の強さを帯びていた。


「泣いてもいいのよ。あなたが生きていること、それ自体が奇跡なの。

 神が選んだ生命は重いけれど、だからこそ大切にして。」


メザカモは少年の肩に手を置き、静かに語りかけた。


「悲しみは深い。だが、我々はここにいる。君は決して一人ではない。皆で支え合い、前へ進むのだ。」


ヤゴリは少し距離を置き、ぶつぶつとつぶやきながらも、その視線は優しく少年に注がれていた。


「どんなに傷ついても、わいたちは生きる。生きることに意味がある。それが、今のお前の居場所だ。」


少年の目が少しずつ晴れ、涙が乾き始める。そこに小さな希望の光が差し込むように感じられた。

しかし、そんな静かな希望の裏には、まだ暗い影が潜んでいた。



遥か遠く、森の奥深くで、逃げ延びた王国の兵士たちが密かに集まっていた。

冷たい風が木々を揺らす中、兵士たちは焚き火の前に腰を下ろした。

赤い炎が、その険しい表情を静かに照らし出す。


「くそっ……奴らのやり方は到底許せねえ。俺たちは真っ当に生きてる。

 敗北で終わるわけにはいかねえんだ。」


リーダー格の兵士は錆びた剣を握り締め、その目には激しい怒りと執念が宿っていた。


「我らは王国の誇りを背負っている。必ずや反撃を果たす。奴らを叩きのめしてやる。」


その言葉に応えるように、仲間たちが静かに頷き、刃を研ぎながら静かな戦意を燃やしていた。

凍てつく森の闇が、その決意をより深く刻み込むようだった。


その夜、二つの世界が揺れ動く。


一つは、傷つきながらもわずかに希望を見出そうとする光。

もう一つは、復讐に燃え、さらなる破壊を求める暗い影。


どちらの道も、人間の運命を左右する。


お読みいただきありがとうございます。


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