第十五話 地下6階層 記憶の墓標都市『レクイエム・ネクロポリス』
「ここが、ルーデンの本拠地、地下6階層 記憶の墓標都市『レクイエム・ネクロポリス』だよ。」
広大な地下空間。天井は高く、暗灰色の雲のような霧が渦巻いている。
その下に広がるのは、静かに佇む都市の残骸ここは、かつて人間族との大戦で命を落とした魔族の亡霊たちが眠る都市。死者の記憶が刻まれた墓標の街。
死者の記憶が彫られた石碑、折れた剣を抱いた像、壁一面に刻まれた嘆きの詩文。
都市は外郭に巨大な壁『墓標壁』で囲まれ、その内側には円形状に霊街区が広がっていた。
無数の墓碑と記憶の遺構によって構成され、中心部には『記憶の神殿』と、黒鉄の門に守られた王墓が静かに鎮座していた。
足音がひとつも響かない石畳の道を進む。
「これは・・・。」
「まだ彼らは眠っていない.。」
オベリスが呟く。
「ここには、かつて人間族との戦争で倒れた我らの同志たちが眠っている。名も知られず、正義と呼ばれた刃に斬られ、ただ魔族というだけで否定された者たちの、無念が。」
ルーデンの手が静かに掲げられると、都市全体が彼の気配に反応し、眠っていた亡霊たちの姿が浮かび上がる。
足元から、霊気が立ち昇る。
「ルーデン。君はこの死者たちの声を、どう感じる?」
オベリスの問いに、ルーデンは静かに目を閉じた。すると。
“まだ・・・終わっていない・・・”
“オレたちは・・・ここで止まってしまったんだ・・・”
“憎しみじゃない・・・ただ、忘れたくなかっただけなんだ・・・”
声が聞こえる。
言葉ではない。脳の奥に焼きつくような記憶の断片。それは亡霊たちの叫び。
彼らは、命を落とした瞬間の想いに縛られ、この都市に取り残されていた。
そして、都市の中央から一体の影が現れる。
まるで霧が人の形をとったかのような、漆黒の衣を纏う存在。
その額には骨の王冠。胸元には、死者の言葉を綴った巻物。
魔力ではなく、記憶そのものを纏っていた。
「魔王様?」
それはかつての魔王だった。
ルーデンが思わず口にすると、その影が微笑む。
“久し振りじゃのうルーデンよ。私たちはお主の支配下じゃ。此処に在る亡骸と、未練と、願いのすべて。お主が継いでくれんか?”
ルーデンの目には溢れ出るものがあった。それは積もりに積もった熱き思い。
「勿論です。私がその無念、引き継ぎましょう。」
“感謝する。かつての仲間たちもそれを望んでおる。今からお主がわしら亡霊たちの主だ。これを託そう。”
かつての魔王はルーデンに、額にあった骨の王冠をルーデンに託した。
「ここは、記憶の眠る場所。だが・・・だが!想いは、今も生きている!」
ルーデンによって、かつて失われた魔族の名誉が、再び立ち上がったのだった。
「ルーデン。君の住処に案内しよう。」
ルーデンを案内し、辿り着いたのは『記憶の神殿』。
その扉が、重々しく開いた。
神殿の中央にはひとつの書台が据えられた。
その書台は、黒銀の縁取りに守られ、誰にも触れられぬまま永劫の時を待ち続けていた。
「これは名を刻むんじゃない。想いを綴んだ。忘れられるより、記すことを選ぼう。それが亡霊たちの救いに繋がるだろう。」
ひとつひとつが霊の記憶。名前。生前の想い。
ルーデンは、虚空に手をかざし、淡い青の魔力を編み上げる。
魔力は筆となり、空白の書に触れた。
ルーデンの視線が彫像に向かう。牙を持つ獣人の将軍、翼をもつ竜族の少女、炎をまとう魔導師、精霊の巫女、妖精の射手、魔獣の従者。
彫像から人影が立ち現れ始める。
それは輪郭をぼやかした半透明の姿でありながら、確かに視線を持ち、息をしていた者たちの名残だった。
みな、かつての英雄だったのだろう。
「ここにいる亡霊たちは皆、ルーデンの味方だよ。彼らを導けるのは君しかいない。できるかな?」
「勿論ですとも。彼らの無念、私が導きましょう。」
この記憶の墓標都市『レクイエム・ネクロポリス』に、新たな守護者が誕生した瞬間だった。
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