第十三話 地下2階層 ヤマ御殿
せっかくだからと言って、転移陣は使わず徒歩で向かった。
大聖堂『ダークカテドラル』から続く黒水晶の螺旋階段を、皆でゆっくりと降りていく。
足音は沈黙に溶け、やがて、何か別の音が満ちていくのに気づく。
それは泣き声だった。
男女の別も、年齢の区別もない。
苦悶、懺悔、絶望、祈り、そして呪詛が、層となって響きわたる。
「ここは地下1階層の嘆きの列柱都市『セラフィック・マウスレア』。かつて天界にいた神々が堕落し、処刑された時の断末魔を柱として築いた列柱都市なんだ。」
視界が開ける。無限の列柱が、まるで森のように並び立っていた。
それぞれの柱の中に、半透明の人影がねじれ、歪み、押し込められている。神々たちは閉ざされた檻の中で、永遠にその最期の瞬間を繰り返しており、絶えず泣き叫ぶ声が響く。
柱の呻きが遠のき、静寂が再び訪れる。だがそれは、死んだ静けさではない。
張り詰めた気配、封じられた威厳。突き刺さるような重みが空間を支配していた。
やがて扉が現れる。
それは単なる扉ではなかった。
仏塔の屋根を伏せたような黒い意匠の大門。
ミナカが扉に手をかざすと、静かにその重厚な門が開かれた。
「ここが君の仕事場、『ヤマ御殿』だよ。」
ヤマが一歩踏み出した瞬間、空間が広がる。
そこには壮麗でいて威圧的な空間があった。
無数の柱が天井へ向かって伸び、天蓋からは淡い金の灯りが差している。
左右の壁には業火に焼かれる罪人の絵巻が蠢きながら描かれ、中央の床には巨大な曼荼羅陣が刻まれていた。
そして奥に鎮座するのは、裁きの玉座。
黒檀で組まれた重厚な椅子に、骨で象嵌された梵字が彫られている。
ヤマが玉座の前に立ち、目を閉じる。
御殿全体が微かに脈打つように振動する。それは、空間そのものが彼を『主』として認識した合図だった。
「どうかな、ヤマ?」
「これは何とも見事な!前の仕事場よりも何かとても居心地がいいです。」
「気に入ってもらえたのならよかったよ。」
「それでは早速、道具を出してみましょうか!!『出てこい、お前達』。」
檀荼幢、浄玻璃鏡、業秤が目の前に現れ、ヤマは椅子へと着いた。
「檀荼幢よ、四方各所の柱に。人間が来たら逐一その罪を報告するように。浄玻璃鏡は左に、業秤は右に、おっと静澄盤の上に置かねば。」
こう見るとヤマの荘厳さが凄まじい。
「オべリス殿。設置は完了しました。以前話した私の召使いを紹介いたします。出てこい、お前達。」
と言うと、業秤から鳥が、浄玻璃鏡から牛が出てきた。
「紹介します。こちらが黒烏でこちらが獬豸でございます。」
「見たことない鳥と牛だね。興味深い。」
「失礼な!あたしはそこら辺の鳥とは違うよ!」
「儂も同じく牛でも普通の牛ではないぞ。」
喋った・・・まさか喋るとは。しかし、彼らの言う通り何か力を秘めているな。
「すみません!オべリス殿。お前達!失礼なことを言うでない!今はこの方が主だ。礼儀正しくしろ!」
「いいよいいよ!僕も軽率な発言だったよ。よろしくね!2人とも!」
「ヤマ様。選抜したゴブリンたちです。よろしく頼みます。」
「ありがとう、ルーデンさん!ゴブリンたちもよろしくね!」
仲の良い3人組にゴブリンか。ここは彼らに任せよう。
「それじゃヤマ、あとは3人でごゆっくり~!僕はみんなを別の階層へ案内するから!」
「承知です!」
僕はルーデンと3種族をある階層へと案内することにした。
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