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暗空

作者: 太田

 大学の進路希望調査を渡された。

どうやら、もうそんな時期らしい。

教壇で担任の教師が何やら話をしている。

「えー、君たちに進路希望調査を提出してもらいたい。来週までの締め切りだから、忘れないように。」

そんな事を言っていた。

 僕は、進路が決まっていなかったのだ。将来の夢というものがなかった。何か熱中できるものがないというわけではない。ゲームをするのは、好きだし絵を描くのも好きだ。しかし、趣味の範囲内なのだ。それを職業にするのは、考えにくい。勉強も得意でもない。本当に何もない。

周りを見渡すと進路希望調査を書き始めていないのは、僕だけだった。

シャープペンの芯と紙のこすれる音が教室に響く。 

 自分の将来を思い描けぬまま、授業終了のチャイムが鳴った。

そのまま、学校も終わった。下校中、高校3年間で何をしてきたかを考えてみた。

この3年間、友達もろくにできず、部活も何も参加せず、学校が終わったら直帰してゲームを見たり動画を見たりして時間を過ごしていた。何だか、今思うとこの3年間を(どぶ)に捨てたように感じる。感じても遅いのだが…。

 家に帰ると誰も居ないようで物音一つ聞こえることはなかった。僕は、自室に入り塾の教科書なんかを持って外に出た。今から塾の授業があるのだ。塾は、親に受験だからと入れさせられた。塾のある場所は、家からそこまで遠くない距離だ。だから歩いて行く。

 塾に着いた。特に面白くもない授業をうけ、自習をしていたらいつの間にか夜になっていた。

今日は、少しいつもより早めに帰ろう。そんなふうに思った。

まだ多くの学生がいる自習室を出て少し歩いた。

夜の冬の風は、やけに澄んでいた。

ただ冷たいというわけでは、なく何だが温かみのあるそんな風だ。

空を見ると薄暗い空に星がいくつかあった。

(じゅん)?」

誰から名前を呼ばれた。前を向くとそこには見知った顔があった。

(あきら)じゃん。久しぶり。」

彼は、石井彰(いしいあきら)。中学時代の友人だ。中学時代は、よく遊んでいたのだが、別の高校に行ってからは、まるっきり連絡を取っていなかった。

「久しぶり!卒業式ぶりだな!元気してる?」

「まぁまぁ」

「なんだよ!その返事。そこん所は、昔から変わってないみたいだな!」

何だが懐かしい感じがする。人とくだけて話すのは、久しぶりだ。

「お前なんでこんな時間に外にいるんだよ?」

「俺?俺は、コンビニに寄りに来ただけだよ。お前こそ何でだよ?」

「僕は、塾帰り」

「えら!塾行くとか偉いわ〜」

 そこから、高校の思い出話をした。(僕は、あまり思い出という思い出は、なかったが…。)

彰の高校時代の話は、まさに青春って感じだった。やれ友達と朝までゲームしたーとか部活の陸上の大会で優勝したーとかそんな感じだ。僕の高校3年間と雲泥の差だ。月とスッポン、青空と(どぶ)。そんな感じだ。

色々話していくうちにいつの間にか進路の話になった。

「今日、進路希望調査の紙を渡されたんだけど進路先決まってないんだよね。彰は、進路とか決まってるの?」

「俺?俺は、料理学校に入ろうと思ってる」

「料理?お前そんなキャラだっけ?」 

「いや、高校の友達に飯作った時に皆が喜んで食べてくれてそれが嬉しくてさ。料理を作る仕事やりてぇなって思ったんだよ。」

「そっか…。」

何だが、彰が大人に感じる。

将来の夢があって、進路もしっかりしていて、友達もいて。僕にないものをたくさん持っている。

「じゃ!淳と久しぶりに話せてよかったわ。また、成人式とかに会おうな」

そうして彰と別れた。

少し歩いた。

風が冷たく感じる。

下を向く。

彰と話をして、気付かされたことがある。

どうして、高校で友達を作らなかったのだろう

どうして、部活に入らなかったのだろう

どうして、熱中するものを見つけられなかったのだろう

どうして、何もせずに3年間を過ごしてたのだろう

どうして、どうして、どうして

そんな、遅すぎる後悔。

…。

空を見てみた。

何時もより何倍も暗く感じる。

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