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ハルナおばさんの異世界生活〜お腹いっぱい食べて欲しいから、異世界に食べ放題の食堂を開きました〜

作者: 水瀬 潮
掲載日:2024/05/24

久しぶりに短編に挑戦です。少しでもほんわかしていただけると嬉しいです。



 (わたくし)の名前は篠山春菜(しのやまはるな)。66歳でございます。同い年の有名人には、女優の大竹し◯ぶさん、歌手の石川さゆ◯さん等がいらっしゃいます。まだまだ元気でございます。よろしくお願いします。



 私は、九州の田舎の方で、夫と2人で暮らしております。


 3つ歳上の夫は、それはよく働いてくれました。お陰で、3人の子ども達を立派に育てあげることができました。本当に感謝しています。





 さて、実は今、奇々怪々(ききかいかい)な状況に陥っております。



 つまり・・・・・ここはどこでしょうか?


 



◆◇◆◇◆




 何故、今見知らぬ場所にいるのか思い出すため、今日の出来事を振り返ってみましょうか。



 まず、朝からラジオ体操で頭と身体をスッキリさせました。これは毎朝の習慣でして、もうかれこれ5年は続けております。ラジオ体操を始めてから、心なしか身体が軽く、病気や怪我もなく過ごせています。継続は力なり、ですね。


 そのあとは、夫とゆっくりとご飯を食べて、ゆっくりとお茶をしたら行動開始です。



 本日の予定は、週に2日の買い出し。毎週水・金曜は近くのスーパーがポイント5倍デーを開催しておりますので、買い出しは決まってこの日です。



 今日は水曜日でしたので、張り切って食料の買い出しに行こうとしましたら、道中で一番上の息子の同級生:林君のお母さんにばったり会いました。なんと林君に第2子が誕生したとのことで、おめでたいですね。林君も優秀でしたから、きっとお子さんも優秀な子に育つのでしょうね。もしかしたら、将来は官僚なんかになっていたりして。


 嬉しい出来事に、少々話に花が咲いてしまいました。



 林さんと別れてスーパーに向かう途中、ドラッグストアを通りました。そういえば、ティシュが切れそうだったな。帰りに寄らないと、と思いつつ先を急ぎます。



 スーパーに着きましたら、まずはお金をおろします。スーパーの中にATMがあるなんて、なんて便利な時代なのでしょうね。私は年金から5万円程引き出しました。



 これで準備は万端。緑のカゴを持って店内を物色します。


 夫が好きな、かぼちゃ、なすは必須です。それから、今日はほうれん草と人参、玉ねぎが安いみたいなのでこれもカゴにいれます。

 

 野菜以外で必ず買うのは、たまごと牛乳とパン。


 お肉は昔程、量を食べられなくなりましたので、少し高くても国産のものを買うようにしております。今日はとり肉にしようかな。


 お魚はししゃもと鮭にしましょう。  


 後はお醤油とお出汁もあと少しで切れそうだったので、こちらも追加します。


 カゴが重くなったのでお会計。レジは必ず有人レジに並びます。セルフレジなるものは、おばさんには少し難しいのです。


 お会計は、しめて4200円でした。





 この後、まっすぐに家に帰ろうとしました。まっすぐと言っても、私は、来た道と同じルートで帰るのが余り好きではないので、別の道を進みました。ですがこれはいつものことなので、何度も通った道です。


 ですが、ここでうっかりに気づきました。そういえば、ドラッグストアでティシュを買わねばならないのでした。


 そうではあるのですが、正直もう腕が限界です。食料が入った袋を持って、来た道を戻りドラッグストアに行くのは骨が折れます。かといって、一度家に帰ってまた外出する体力は残っていません。



 はてどうしましょうか。思案していると、そうだ、良いことを思いつきました。


 この前、久しぶりに里帰りしてくれた次男の勧めで、スマホを購入したのです。


 その時、息子が確か言っておりました。困った時は、このスマホに語りかけたら良いと。確か合言葉は・・・。


『ヘイ!アレク、OK? 近道を教えて』



「20メートル先、右折。その先、しばらく道なりです」

 

 ふむふむ。あそこを右ね。あら?そういえばこんなところに、こんな開けた道、あったっけ?


 疑問に思いながらも道に入ると、なんだか急に周囲の景色が変わってきて。

 

 あれあれ?これは変なのでは?と思うのに、前に進む足が止まってくれないのです。


 

 私、これからどうなってしまうのでしょう・・・。




◆◇◆◇◆






 気がつくと、この()()でしゃがみ込んでいたのです。スーパーの袋を抱えたまま。



 これはすっかり困りました。スマホが示す道を進んだら、急に景色が変わって、それから・・・。あらやだ、それからの記憶が無いわ。



 それより私、家宅侵入罪で警察のお世話になったりしませんよね? 


 まさか、スマホが示す近道が、人様の家をぶっちぎる道だとは思っていなかったのです。悪気は無かったのです。機械に弱いおばさんを、どうか許してください。


 

 それにしてもこの状況、どうしましょう?


 

 故意では無かったとはいえ、勝手に人様の家に入ったのですから、やはりここは正直に申し出るべきですよね。

 

 それに、コソコソする方がかえって怪しく、印象も悪くなると思います。


 

 そうと決まれば覚悟を決めて、大きく息を吸い込みます。


『あの〜。すみません!』


 腹に力を込めて、精一杯声を出しました。






「誰だ!?」


 すると、驚いたような女性の声と、ドタバタと階段を駆け上る音がします。あ、ここ2階だったのですね。



 そんな事より、驚かせてしまって本当にごめんなさい。信じてもらえるか分かりませんが、ここに居る理由を誠心誠意説明しなくては。




 これは本心です。本当に申し訳ないと思っておりました。ですが、女性の格好を見た瞬間、驚きが頭を占め、またあろうことか、その驚きをそのまま口に出してしまいました。

 


『え。落ち武者?』

 

 







◆◇◆◇◆







「なるほど。気づいたらここに居た、と」



『はい』



 この女性は、ステラさん。甲冑のようなお召し物だったことから先程は驚いてしまいましたが、よく見ると、とても綺麗な顔立ちをしていらっしゃいます。


 それだけではなく、勝手に家に上がった挙げ句、第一声で失礼な発言した私を許してくださった、懐の大きい方です。



「ハルナさん。お話から察するに、恐らく貴方は渡り人様だと思われます」



『はい?』



「ここは貴方がお住いの、ニホンという国ではございません。ヒストリア王国の端にあるアンゴルという村です。伝承によると、数百年に一度、ニホンという国から我が国に渡り人様が来てくださると言われています。そして、優れた文化を教えてくださることから、渡り人様が住み着いた村は必ず繁栄してきた、と。___若輩者ながら、私はこの村の村長を仰せつかっております。どうか、我が村にお力をお貸しいただけませんか?」



 あらあら。お若いのに村長さんだなんて、しっかりされていますね。


 勝手にお家にお邪魔したお詫びもございますし、私の知識が皆さんのお役に立つのであれば、喜んで協力したいのですが・・・。


 今はそれ以上に、気になることがあります。


『ちなみに、ここがアンゴル村だとして、どうしたら日本に帰れるのでしょう?』



「・・・申し上げにくいのですが、記録上はニホンに戻られた方はいらっしゃらないようです」



『そんなはずはございません!』


 スマホには、「近道を教えて」と頼みましたもの。何処かに通路の続きがあるに違いありません。


 キョロキョロと、怪しいところをくまなく探します。テーブルの下?・・・は違う。勝手口?も違う。 


 あ・・・あれはどうでしょう?


『きっとここですよ!異世界の通り道は【押入れ】と、相場は決まっています。村長さん、開けても構いませんか?』



「え、ええ。でもただの押し入れですよ」



 初対面の方の家の押し入れを開けるなんて、失礼にも程がありますが、なりふり構ってはいられません。


『では、ちょっと失礼して』


 キィー



 押し入れを開けると、中にはお洋服がぎっしり詰まっていました。そこを掻き分け、さらに中を見ますと、ほらやっぱり。押し入れの奥行きが、明らかに広すぎます。

 

 でもこれで安心しました。無事日本には帰れそうです。



『村長さん。いきなりお騒がせしましたね。どうやらここが道の続きのようですので、こちらでお(いとま)させていただきます』



「ま、待ってくださいハルナさん!先程ご協力をお願いした件、考えてくださいますか?」



『あ、そうでしたね。えぇ、もちろんです。私にお手伝いできる事があれば何なりと』



「良かった!じゃあまた明日来ていただけますか?詳しい話はその時に」



『分かりました。ではまた』





◆◇◆◇◆





 押入れの中を通ると、出口は我が家の三男の部屋に繋がってました。


 また人様の家に繋がっていたらどうしようかと思っていたので、我が家に繋がっていて安心しました。



 それにしても、ドラッグストアへの近道を知りたかったのに、自宅への近道に連れて行かれるとは、スマホはやることが結構横暴ですね。なんだかどっと疲れました。



 でも、そうも言ってられません。

 疲れた身体を鼓舞して、買ってきた食材を冷蔵庫に収納・・・あ、私ったら。食材を向こうに置き忘れてきてしまいました。はぁ、今日失敗してばかりです。


 

 そうこう脱力していると夫が帰宅。それから急いで準備したのですが、流石に時間と食材が足りなくて、今日の夜ご飯は簡単になってしまいました。はぁ。








 夜ご飯の時間は、夫とのコミュニケーションの時間です。毎日、今日の出来事を報告し合っています。


 子育てが一段落してからは、その内容も取り留めもないこと(家庭菜園のきゅうりを収穫したとか)ばかりになってしまったのですが、今日は違います。


 迷い込んだ異世界で、村長さんに助けを求められた話をしました。


「いいんじゃないか。人助けだと思って、飽きるまでやってみたらいい。ティッシュは俺が買ってくるからさ」


 なんと。絶対に馬鹿にされると思っていたのに、こんな嘘みたいな話を信じてくれて、さらには協力もしてくれるようです。

 

 

 あなた、ありがとう。ステラさんや、アンゴル村の皆さんのために、できることがあるのかどうか分からないけど、私、精一杯頑張ります。






◆◇◆◇◆




 

 翌日。スーパーでお茶菓子を買った帰り道、またスマホに近道を教えてもらったところ、無事に村長さんのお宅にお伺いすることが出来ました。



「ハルナさん!あぁ、良かった」


 ステラさんがほっとしたような顔で駆け寄ってくれました。


 ステラさんも良かったと言ってくれましたが、私も安心しました。スマホがまた道案内をしてくれるか、確証が無かったからです。もう来れなかったとしたら、村長さんとの約束を破ってしまうところでした。



 村長さんに案内してもらい、1階に降りると、数人の方が椅子に座って待ち構えていました。中には、服装からして、いかにもお偉いさん、みたいな方もいらっしゃいます。


「こちらがハルナさん?」


『はい。篠山春菜と申します。あ、こちらだと、ハルナ=シノヤマと名乗った方がよろしいのでしょうか。姓がシノヤマで、名前がハルナです。ただのおばさんですが、これからよろしくお願いします』


 簡単に挨拶し終えると、皆さんから、代るがわる握手を求められました。


 大歓迎いただき嬉しいのですが、それ以上にプレッシャーを感じます。だって、何度も言うように、私は学もない、技術もない、ただのおばさんです。アンゴル村のために役立てるか、自信がないのです。



「私はこの村の長老、バトンです。まさか渡り人様に拝謁できる日がくるとは・・・。ハルナさん、お会い出来てとても嬉しいです」


 最後の1人は、長いあごひげを蓄えたおじいさんでした。長老と名乗られましたね。この村の最年長さんでしょうか。


『私こそお会い出来て嬉しいです、長老さん』


 軽く握手を交わすと、「さ、立ち話もなんですから」と、長老さん自ら近くの椅子をひいて、座らせてくれました。このあたりは日本と似た文化なのですね。


 椅子に座ると、村長さんが紅茶を出してくださいましたので、私も持参したお茶菓子、クッキーをお渡ししました。幸いにも個包のクッキーでしたので、紅茶のお供として、その場で皆さんに配っていただきました。


 

 結果として、このお茶菓子は大変喜ばれました。それはもう、私の想像を遥かに上回る程に。


コソッ「これは、なんという芳醇な香りの食べ物か」

コソッ「この濃厚な味わい、まさか噂にきくバターか。バターなのか!?」

コソッ「こんな高級品を気軽に・・・。まさかハルナさんは異世界のお貴族様では?」

コソッ「そういえば、シノヤマと姓を名乗っていたぞ。きっとそうだ」



 ・・・どうしましょう。1箱12枚入り1,000円のクッキーをお茶菓子にお渡ししただけなのですが、それが何故か私が貴族だと勘違いされてしまいました。後で訂正しておかないと。


 う〜む。異世界は難しいです。



 私が気を取られている間、長老さんがなにやら話しておられましたが、まさかの篠山春菜貴族説が気になって気になって、あまり頭に入ってきませんでした。


 が、要は、アンゴル村のためになるような日本の技術や文化を教えてほしいとのことのようでした。



『あの〜、協力したいのは山々なのですが、何しろ長いこと主婦しかしていなかったもので。得意なことといえば、料理くらいなのですが』


「ほう。異世界の料理!それは素晴らしいですね」

「えぇ、是非我々にご紹介いただきたいです」


 

 あれ?意外と好評?そうであればと、早速村長さん宅のお台所を借りて、料理を振る舞うことになりました。丁度いいところに、昨日私が置き忘れて帰った食材もありますし。



 村長さんに案内され、キッチンに移動。


 キッチンに着いてまず驚いたのは、異世界では料理をしようにも一苦労だということ。


 なんとキッチンに、コンロが付いていないのです。代わりに使われているのは、昔ながらのかまど。薪に火をつけて料理するタイプですね。


 村長さんが、火を出す魔法ができるとのことで、今回はスムーズにいきましたが、普通は、かなり時間がかかるとのこと。大変ですね。


 そのため自宅で料理する人は珍しく、出店で出来合いを買うか、調理不要な食材を食べる人が多いのだとか。


 なんということでしょう。あったかい食べ物がないと、心も侘しくなるでしょうに。それに、そのまま食べられる食材ばかり選んでいたら、栄養バランスも偏ってしまいそうです。


 そうこうアンゴル村の現状を伺っている間に、料理ができました。


 メニューは、とりの照り焼き、鮭とほうれん草のクリーム煮、焼ししゃも、かぼちゃの煮付け、ナスの煮浸し。それからデザート代わりにフレンチトーストです。


 少し作りすぎた気もしますが、10人程お客様が来られているので問題ないでしょう。



『出来ましたよ。さぁ召し上がれ』


「うわぁ〜ありがとうございます!先程からいい香りが漂ってきていて、楽しみにしていたんです」

「これが異世界の料理!期待どおり初めて見る料理ばかりです」


『うふふ。たいした料理ではないですけどね。どうぞ冷める前に、召し上がってください』


「いただきたます」

「美味しい!こんな料理は初めてだ。ササっと作られたのに、不思議と手の込んだ豊かな味がするんですね〜!」

「えぇ、優しく奥深い味わいですよね。もしやハルナさん、あなたは日本の伝説の料理人なのではないですか?」



『まさか。これは日本の食品と調味料が良品だからで、私は普通の主婦ですよ』






◆◇◆◇◆





 カチャカチャ


 12人分の食器を洗って片付けるのは、さすがに骨が折れましたね。


『ふう。料理は片付けまで、とはよく言ったものですね。ね、ステラさん』


「・・・」


『ん?ステラさん?』


「へ?あ、すみません、ちょっと考え事をしていて。失礼しました」


『いえいえ、お気になさらず。それより、何かありましたか?』


 まだ若いのに、そんな思い詰めたような顔をなさって。きっとよっぽどのことがあるのでしょう。私に力になれる事があればいいのですが。



「____ハルナさん、アンゴル村に来られたばかりのところ、大変申し訳ないのですが、実は折り入ってお願いがございまして」


『そうでしたの?では、お茶でも飲みながらがいいですかね?私、日本からコーヒーを持ってきたんです』


 チャッチャとお湯を沸かし、ドリップコーヒーをいれて、ステラさんとテーブルにつきます。


『はいどうぞ』


「ありがとうございます。そういえばお礼が遅くなってしまいましたが、今日は美味しい食事をご馳走さまでした。どれもこれも初めて見るものばかりで、みな喜んでおりました」


『とんでもないです。私も皆さんが沢山食べてくれて嬉しかったんですよ』


 子どもたちが巣立ってからは、毎日夫との2人分だけしか作っていなかったので、久しぶりに沢山の料理を作れてストレス発散になりました。


 それに、皆さんもとても美味しそうに食べてくれて・・・。何だか良いことをした気分です。



「そう言っていただけると!時にハルナさん、ハルナさんはお料理はお好きということでよろしいですか?」


『ええ、趣味程度ですけれど』


「では、飲食店で働いたご経験は?」


『ありませんが・・・それが?』


「実は先日、この村唯一の食堂の店主が腰をやってしまいまして。もういい歳だからと、これを機に引退することにしたそうなんです。それは仕方がない事なので、私も承知したのですが、問題はその食堂が現在臨時休業してしまったことなんです」


『あらまぁそれは大変だこと。お店はお一人で切り盛りされていたんですか?』


「他に、夫人と2人の子ども達がいます。しかし夫人達は算術ができないらしくてですね。というより、そもそもアンゴル村には、算術ができる人材が少ないのです。そしてその僅かな人材も、みな別の仕事についており、食堂は算術ができる人材を確保できなかったようなのです」


『あらまぁ。それは大変でしたね』


 私も66歳。腰に関しては他人事ではありません。


 それに、もう昔の話ですが、事務のパートをしていた頃、私を含め年配者はパソコンの扱いが難しくて。機械に強い若い職員さんが、一人でてんやわんやしていて、申し訳なく思っていました。


 あの時の若い職員さんが、今のアンゴル村でいう算術が出来る人材なのでしょう。人という字は、人と人とが支え合っている、という言葉が昔流行りましたが、私は支えてもらってばかりの人生でした。だからこそ、あの時お世話をかけた分、今度は私が支える側に回る番だと思うのです。




「屋台はありますが、串焼きと粉もののみと、種類が少なく・・・。大人はともかく、子ども達の食事が偏ってしまうのが不憫でして。ただ、私の力では、どうしようもなく、いかがしたものかと悩んでいたところでした」


『それはいけませんね。子どもはバランスの取れた料理をたくさん食べて、遊ぶのが仕事なんですから。では、新しい食堂は食べ放題にしましょうか。そしたらお腹いっぱい食べられるでしょう?』


 食べ放題なら価格が決まっている分、お釣りの計算もしやすいでしょうし。


「___と、いうことは?お手伝いいただけるということで?」


『勿論です。自信は無いのですが、私に出来ることなら』


 もっとも、一番自信がないのは体力面なのですがね。


「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」


『その代わり、経営は初めてなので、色々手伝ってくださいね』


「勿論です!おまかせください!____ではさっそくですが、食べ放題という形態にしてしまうと、価格設定が高くなってしまうのではないでしょうか?出来ることなら庶民向けの価格設定でお願いしたいのです。でもだからといって、村から補助できる予算も、お恥ずかしながらそれ程ないのですが」


『高くなるかと言うと、必ずしもそうでもないですよ。人間、胃袋に入る量には限界がありますからね。それに人件費を落とす方法ならいくつか心当たりがあるんです』




「と、いいますと?」






◆◇◆◇◆






「あ、隊長ここですよ!噂の食堂」


 とにかく腹が減った。


 俺が受け持っている王都騎士団5番隊は、訓練のため、ここアンゴル村の隣にある栄えた街を拠点に長期遠征中だった。


 その遠征も終了し、やっと妻と息子が待つ王都に戻れることになったというのに、部下のピーターが今人気の食堂にどうしても行きたいと言って聞かないものだから、遠回りして、特に目ぼしい店もない、廃れた田舎、アンゴル村までやってきた。


 まぁコイツも遠征期間中は、よく頑張っていたし、慰労も込めて、な。




「ハルナおばさんのビュッフェ?おい、ビュッフェとは何だ」


「何でも、自分で好きな料理を選んで皿に盛るという様式のことらしいですよ」


「ふむ。つまり給仕を客に押し付けて、自分は楽をしている、と」


「いやいや、この店、食べ放題なんですよ。安価で食べ放題を実現させるために、価格を抑える努力を色々としているらしいですよ」



 ビュッフェだと!?

 なんだその舌を噛みそうな怪しげな発音は?どうせ金にがめつい隣国から持ちこまれた様式に決まっておる。食べ放題と言いつつ、用意された料理は種類も量も少ない。こうして料理にかかる費用を抑えつつ、上手い言い訳で人件費も下げるという手口だろう。まったく、よく考えたものだ。


 とにかく、俺はそのビュッフェとやらは絶対認めぬ。



「まぁまぁ、とにかく中に入りましょう。お腹も空いていることですし」


 そういうと、ピーターは躊躇なくドアを開けた。


 カランコロン


 小気味よい音とともに出迎えてくれたのは、小柄で優しそうなおばさんだった。なんだか、落ち着く。どの田舎にも1人は居そうな、ちょっとふっくらした優しいおばあちゃん、って感じだ。



『いらっしゃいませ〜。2名様ですね。お代金は先に頂いております。1人銅貨5枚ね。はいちょうど。空いているお席に座ってくださいな。料理とお飲み物は、好きなものを好きなだけどうぞ』


「お〜い、ハルナさん!こっちこっち!」



 常連客と思しき客の様子から察するに、このおばさんが店主のハルナおばさんか。


 てっきり魔女みたいな意地悪そうな奴が店主かと想像していたが、あんな人が良さそうなおばさんが、こんなあくどい商売を思い付くとは・・・。


 だが、俺は騙されないぞ。

 その証拠にあの丸メガネ、あれは高級品なのだ。あれを購入出来るとは、この食堂でよっぽど儲けているに違いない。


 

 

「隊長〜。とりあえずお水持ってきました」


「おう、気が利くな。ってお前のそれは?」


 空いている席に座ると、すぐに飲み物を取りに行ったピーター。しばらくすると、両手にコップを抱えて戻ってきたが、そのうちの一方の液体が明らかにおかしい。


 なんたって鮮やかな夕焼け色だ。


「野菜ジュースです。常連さん曰く、美味しい上に、健康になれるらしいんです」


「明らかに身体に悪そうな色をしているが・・・」


 およそ人が飲む物だとは思えないが、まさか毒ではないだろうな?


「隊長ったら、疑い深いんですから。ほら、さっさと料理も取りに行きましょう。飲み物取るときにチラッと見たんですけど、色んな料理がありましたし、どれも美味しそうでしたよ」


 そういうと、ピーターは待ち切れないという様子で食事を取りに行った。


 が、どうせ直ぐにがっかりした様子で戻ってくることだろう。


 たったの銅貨5枚の食べ放題なんて、たいした料理は無いに決まっている。


 


「ハルナおばさんとやら、お手並み拝見といこうか」

 


 

 さぁ、俺も軽く様子を見てくるか。万が一、俺を満足させることができれば、その時はなんだってやってやるさ。

 





◆◇◆◇◆






「あり得ない」


 

 まず、野菜が準備された区画に着くと、俺は絶句した。


 驚くことに、野菜だけで何種類もあるのだ。しかも全てイキイキとしていて新鮮だ。それに、量だって深皿にこんもりと用意されている。



「ふ、ふん。サラダだけは上等のようだな。____ん?この液体はなんだ?」


「ドレッシングっていうんですよ。サラダにかけるんです。不思議なことに、かけるドレッシングによって、サラダの味が全然変わるんですよね〜」


 色が異なる9つほど液体を見て、思わず口走った俺の独り言を、常連客と思しき美人が拾い、親切にも説明してくれた。


「ほう」


「全部美味しいのですが、全種類制覇した私のオススメは、これ。アイランドドレッシング♪」


「桃色・・・」


 先程の野菜ジュース同様、明らかに身体に悪そうだが、こんな美人に勧められたら他に選択肢はない。


 よく分からんが、全種類の野菜を皿に盛り、その上にこの桃色のドレッシングとやらを、回しかけた。





 次の獲物は、肉や魚。サラダは及第点だったが、本番はここからだ。






「馬鹿な・・・」



 これは何かの間違いに違いない。サラダだけではなく、肉、魚をとっても、部下が言うように種類が豊富だ。


 それに、どれもこれも美味しそうに見えるのは、目の錯覚だろうか。


「この黄色の光輝く食べ物は何だろうか?」


「あんちゃんココ初めて?これはね、だし巻き卵っていうんだ。口に入れるとジュワッと出汁が出てきてさぁ。これが絶品なんだよ」



 またしても、俺の独り言を拾った奴がいたようだ。


 気の良さそうなおじさんが、俺の肩を組みながら、頼んでもないのに、説明してきた。


「これはウインナー。何とも言えない旨さ。騙されたと思って食ってみな。1本と言わず、3本はもらった方がいいぜ」


「ほう」


 常連客がそこまで言うなら、3本いただこうか。


「いやぁ〜、俺はハンバーグの方が好きだなぁ。噛むとジュワッと肉汁が溢れて美味いんだ」


 すると、別の常連客が割り込んできた。俺の背中をバシバシ叩きながら。鍛えているので痛くはないが、ウインナーが落ちそうなので、やめてほしい。


「ウインナーだって、噛むとプリッと肉汁が出てうまいぜ!」


 おいおい何言ってんだと先程のウインナー派が張り合う。そしてそれに、ハンバーグ派が対抗する。


 気がつけば、常連達がウインナーかハンバーグかで争い出してしまった。勘弁してくれ。俺は腹が減ってるんだ。


「おい、後にしてくれないか・・・」


 そこにやってきた救世主。

 

「隊長隊長!向こうに、魚がありましたよ!料理人がその場で焼いてくれるから、出来立てが食べられるらしいっす」


「なにぃ!?」


 これぞ渡りに船とばかりに、ピーターの後を追う。そこでは確かに、料理人がその場で魚を焼いてくれた。しかも、魚1匹丸ごとだ。小ぶりだが、新鮮な魚だった。





 魚を1匹焼いてもらい、席に着く。


 来た時は、たいして期待していなかったが、今は早くこの料理を食したくて仕方がない。


 まずは、【卵焼き】とやらから実力を拝見するとしよう。  


 一口サイズに整えられたそれを、慎重に口に運ぶ。瞬間、優しくも味わい深い味と風味が口の中いっぱいに広がった。なるほど、確かにこれはウマイ。この飽きが来なそうな絶妙な味加減は、俺が常連なら必ず毎回皿にとることだろう。


 次はウインナー。歯で噛むと、プリッジュワッと肉の旨味が弾ける。続いてはハンバーグ。これは、ウインナーほどの歯切れの良さはないが、溢れる肉汁は、より肉肉しい。どちらも甲乙つけ難く、常連客の中で意見が分かれるのも納得だ。


 それからも俺は、もくもくと目の前の料理に食らいついた。


 無理もない。


 料理人に焼いて貰ったばかりの魚は、魚本来の淡白な身と塩気の相性が抜群で、もし人前で無ければ骨までしゃぶり尽くしていた自信がある。それくらい美味だった。


 サラダもそうだ。美女おすすめのドレッシングは食べたことのない味だったが、確かにサラダのレベルを数段上げていた。彼女がそうしたように、俺も9種類すべてを試したくなった。


 他にも、カレーなる見た目は泥水みたいなスープも、なかなか食欲の増す味で気に入った。ピーターは辛すぎると悶絶していたが。



 気づけば、目の前の皿は空になっていた。


「ふぅ。腹八分目といったところか・・・。ん?ピーター、お前の皿に乗っているそれは何だ?」


 来店時の勢いはどこ吹く風、1時間やそこらですっかりこの店の虜になってしまった俺は、まだ味見出来ていない料理が気になって仕方がない。


「あぁこれですか?これは今、王都で話題になっているクッキーという甘味ですよ。あと他にも、果物とか、見知らぬ甘味とか色々いただきました」


「よし、俺も取ってこよう」

 

 どの料理も一口サイズで提供されているから、今の腹具合でも、甘味だけなら軽く全種類でも食べられるだろう。


 






カランコロン


『ありがとう〜!また来てね』

「おぅ!あんちゃん達またな!」


 ハルナおばさんと常連客に見送られ、部下と二人、大きく膨れた腹を抱えて帰路に着く。


「隊長、ハルナおばさんのビュッフェはお気に召しましたか?」


「___ああ、美味かった」


「ブハッ。ほら言ったじゃないですか(笑)」


 今なら、空飛ぶスズメに糞を落とされても、ぬかるみにはまって躓いても、失礼な部下に笑われても、なんだって気にならない。


 ハルナおばさんのビュッフェは、それはそれは素晴らしい店だった。


「またココに来よう」


 来年の遠征は、アンゴル村を拠点にしてもいいかもしれない。


 その時には、この店ももっと有名になっているかもしれないな。







◆◇◆◇◆






 食堂を開いて今日で1ヶ月。ハルナおばさんのビュッフェは、お陰様で大反響です。


 さぁ今日も、日本から持ってきた割烹着を着て、メガネをフキフキして視界をクリアに。顔を、パチパチ叩いて気合を入れて、よし、頑張るぞ。



『ごきげんよう。今日もハルナさんのビュッフェ、開店です!』


 お店を開くとすぐ、トトトトッと小さな男の子が走ってきました。両手を大きく広げながら「うわぁ〜やっと来れたぁ!噂通り、あっちにもこっちにも、見たことないおかず!まるで宝石箱みたいだ!」とはしゃぐ姿が、可愛くて可愛くて、正に子は宝だと実感します。


「良かったわね、サム」


 続いてお母様もゆっくり入店。


 どうやら、今日の最初のお客様は、小さな男の子と、若いお母さんのようです。お話を聞くと、この店に来るために、サム君はたくさんお手伝いをして、お小遣いを貯めてきてくれたようです。


 嬉しいなぁ。かわいいなぁ。今日は奮発して、焼肉も出そうかしら。


『来てくれてありがとうね。今日はお腹いっぱい、食べるんだよ』


「うん!」



 可愛らしい男の子の笑顔に癒やされて、今日も穏やかな一日が過ごせそうです。


 



 私は、篠山春菜。お陰様で67歳になりました。同い年の有名人には、女優の戸◯恵子さん、名取◯子さん等がいらっしゃいます。まだまだ現役でございます。

 

 私も、若々しい彼女達に負けないように、何よりアンゴル村の皆さんにお腹いっぱい食べて欲しいから、これからも、ゆっくり頑張りたいと思います。



【完】

最後までお読みいただきありがとうございまさた!是非ブクマや評価もお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編ということで、さほど時間をかけず面白く読めた。 内容もしっかりしていて楽しかったし、異世界への行き方も身近なものだったので本当にありそう!と思った。 着眼点が面白いし、スッと読めるので…
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