097話 師匠は勇者パーティのメンバー。
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「どうしてあそこだけ空いているのかな?」
「あそこは緊急用の窓口なのよ。魔物の大群の襲撃とかお貴族様の馬車が襲撃されたとかなどの順番待ちなんかできない緊急事態に備えていつも空いている窓口なのよ」
エリーゼがそう説明してくれた。
はて? 僕たちの要件はそんな大したものじゃないよ。師匠や勇者たちの情報を知りたいだけの、非緊急案件なのだ。
だがフララランはなんの迷いもなくその窓口に向かうのであった。
これはマズいんじゃないんだろうか……。
「あの~っ、いいですかっ?」
フララランが非常用窓口に立ち、そう声をかけた。
すると奥の事務所からバタバタと駆け足で駆け寄ってくる受付嬢の姿が見えた。
まだ少女の面影が残る年若い受付嬢だ。僕と同じくらいの年齢。もしかしたらまだ見習いかもしれないね。
「はいっ! どんな緊急事態ですか?」
するとフララランは胸元から冒険者組合の札を出した。
それを見た若い受付嬢はハッと息を呑む。
「……Sランク。な、なにが起こったのですかっ?」
「なにも起こっていませんっ。ちなみにリリエさんはいますかっ?」
「は、はあ……。おりますが……」
かわいそうに。受付嬢は固まってしまった。
銀色の髪の毛をきれいに編み込んだ美形のその顔が強張ってしまっている。
こうなっては仕方がないので僕とエリーゼ、タマユラもその場に向かう。
「なにごとですか?」
声がした。
するとリリエさんだった。奥の方から彼女がやって来たのだ。
「ちょうど良かったのですっ。今、リリエさんを呼んでもらえるようにこの人のお願いしたところだったのですっ」
「え、私ですか? ……で、どんな緊急案件が起こったのですか?」
リリエさんの顔に緊張が走る。
だがそれに対峙したフララランはもちろん笑顔のままだ。
「お聞きしたいことがあるだけですっ。緊急の報告じゃないのですっ」
「は、はあ……。ちょ、ちょっと待って下さい。ってことはただの質問のためにこの窓口を使ったと言うことですか?」
リリエさんの顔に今度は違う感情が入った。
ちょっと怒っているようだ。
「しかも、フララランさんたちのパーティは謹慎中なんですよ」
「思い出したのですっ。確かSランクには特権があって、どんな依頼であっても非常用窓口が使えるはずですっ」
そうなのだろうか。
確かにSランクは希少で貴重な存在だ。なにかしらの特権はあるのだろう。
それにフララランが嘘をつくとは思えないし。
「……確かにそうでした。Sランクはいついかなるときも非常用窓口が使える規則です。なので問題ありません。……で、なにをお聞きしたいんでしょうか」
リリエさんが諦めた表情になってそう告げた。
するとフララランは満面の笑みになる。
「2つありますっ。まずはマキラの師匠である魔女のアルさんの居場所ですっ」
「大魔女アル様ですか? ……確かにサンバーンメの街には以前到着し、この組合事務所でお会いしましたが……。少々お待ちください」
そう言ってリリエさんは背後にある書架に向かった。
そして該当の書類束を持って戻って来る。
「アル様はまだ滞在中ですね。宿泊先の情報はありません。ただ勇者スザク様たちと行動を共にしているとだけ記載があります」
「ええっ!」
僕は思わず叫んでしまった。
師匠がスザクさんたちといっしょにいるだって?
これは想像もしていなかったことだ。
「驚きましたっ。もう1つの質問は勇者パーティの居場所だったんですっ。まさかこの街にいて、しかもマキラの師匠といっしょにいるってことですねっ?」
「ええ。大魔女アル様は勇者パーティのメンバーですので」
驚愕……。
師匠が特Sランクの勇者スザクのメンバー……!?
ってことは師匠は……、本当にすごい魔法使いだったってことになる。
「勇者パーティのメンバー……。マキラのお師匠さんってすごい人だったのね」
「そうですねっ。私は冒険者歴は長いですけど、戦いの最前線には参加したことなかったので勇者スザクとは会ってませんし、アルさんも知りませんでしたっ」
フララランは小さな依頼を100年間受け続けてSランクになったと聞いた。
なので勇者や師匠と接点がないのも理解できる。
受ける依頼の種別が違い過ぎるのだ。例え同時期に同じ街にいても接触し、顔見知りになる可能性は低いだろうな。
「なるほどのう。……ならばこれからどうするかじゃな」
リリエさんの説明では、勇者パーティがこの街に入ったのはもう1週間以上前らしい。
だがその後、街での行動はしていないようだ。
なんの依頼も受けていないし、確認したら魔族の出現もないらしい。
だけどこの街を去ることなく、どこかに滞在し続けているようだ。
そしてそれ以上の情報はないとのことだった。
そこで僕は思った。
……もしかしたら師匠を呼び出したのは勇者スザクだったんじゃないか……?
あの朝、師匠は暮らしていた屋敷から手紙一枚残して姿を消した。
そこには、ある方から呼び出されたと記されていたのだ。
そのある方が勇者だった可能性は、確かにあるな。
「……ねえ、マキラ。もしかして、あなたのお師匠さんってスザクさんに呼ばれたのかしら?」
「うん。僕も今それを考えていた」
事情を知っているエリーゼが僕にそう尋ねてきたので僕は正直に答えるのであった。
そして僕たちはリリエさんにお礼を言って窓口を離れた。
それから情報の整理のためにこの事務所に併設されている食事処のテーブル席に座るのであった。
師匠はすごい魔法使いだったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




