091話 国境を越えて。
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どうぞ、よろしくお願いします。
「みなさん。感謝します」
シローヌを抱きかかえながらシャルロットお嬢様がペコリと頭を下げてきた。
なんだか申し訳ない感じがしてしまう。
「い、いいえ。依頼ですので……」
エリーゼが圧倒されたかのように、のけぞりながら手を振る。
そうなのだ。
お嬢様は伯爵令嬢なのだから、僕たち冒険者とは身分が違いすぎる。
なのにシャルロット様は平民の冒険者に頭を下げたのだ。
それにはエリーゼだけでなく僕やツバルさんも恐縮してしまう。
フララランを見るとニコニコ顔だ。エルフだから人族の身分うんぬんの事を気にしないってよりも、たぶんそれはフララランの性格なんだろう。
なんせ同じ亜人種のエリーゼは恐れ入ってしまっているのだから。
そしてタマユラは笑みは浮かべているものの、畏まった雰囲気はない。
まあ、妖狐だし、異世界から来たのだからそんなものなのだろうね。
「依頼達成に感謝します。緊急指名依頼の方は街に戻ったら冒険者組合の方に提出させましょう」
主様。――ザボルーグ女伯爵閣下が微笑をたたえてそう言われた。
ちなみにだけど、緊急指名依頼の依頼表の組合への提出は冒険者側じゃなくちゃならない決まりはない。依頼主の方から届けるのも可能なのだ。
今回の場合は主様は当然自分が暮らしている地元の街の冒険者組合の組合長とも懇意だろうし、そういう関係から依頼側からの届け出になったようだ。
なので僕たちとしても、それは構わない。路銀がギリギリって訳でもないし、身分の高い女伯爵様の意向に逆らうような態度は取りたくないしね。
そして僕たちは仮設で設置されていたテーブル席に案内されお茶を振る舞われるのであった。
そこで女伯爵とシャルロットお嬢様から話を聞かされる。
伯爵様はなんとヨンバーンメの街の領主様とのことだ。
これには僕たちは驚いた。伯爵様とは聞いていたがまさかひとつの街の領主様だったとは……。
そして今回は病気になった祖父のお見舞いで、その隠居先の漁村の別邸からの帰りだったらしい。
猫のシローヌはその祖父からお嬢様に贈られたもので、見舞いにも連れて行ったとのことだった。
「みなさんを招待します」
突然、シャルロットお嬢様がそう言った。
そしてたどたどしい文字で書かれた手製の招待状をエリーゼに渡すのであった。
それはヨンバーンメの街にあるザボルーグ女伯爵家への招待状であった。
こんな手書きの招待状が有効なのか、それにそもそも僕たち冒険者を招いていいのかとあれこれ疑問が浮かんだのだが、お嬢様の母親でもある女伯爵様が笑顔だったことから、それは本当の話のようであった。
その後、少ししてから僕たち一行はサンバーンメの街への旅を再開した。
それをシャルロットお嬢様は手を振って見送ってくれた。
伯爵様一行は規模が大きいことから旅支度に時間がかかるようなので、僕たちの方が先の出発になったのだ。
「しかし、なんだか大変だったよ」
しばらく歩いたときである。
疲れを自覚している僕はそう呟いた。
肉体的には大したことは一切していない。だけど精神的に疲れたのだ。
やはり身分が高い人たちと関わると平民の僕には負担がかかるのだ。
「そうね。……でも、伯爵様とお嬢様は悪い人じゃなかったわ」
「そうですねっ。でもお付きのメイドと態度の悪い騎士には腹が立ちましたっ」
「そうじゃのう。でもまあ、命に代えてでも主君を守る立場になると、ああなってしまう者もおるしのう」
「私はいつ自分たちの命が取られるかもしれないと覚悟しながらだったので、正直胃が痛くなりましたよ」
エリーゼ、フラララン、タマユラ、そしてツバルさんもそれぞれの感想を述べるのであった。
こうして旅は続く。
山を越え、野原を過ぎて、森を抜けて、二泊目の野営地に到着した。
そこはやはり野原の草を刈っただけの平地だったけど、今度は川が近くにあったので井戸を巡ってのトラブルは避けられそうであった。
もしかしたら、またシャルロットお嬢様たちもここで野営するのかもと思ったのだけど、どうやら違う野営地を選んだようでここに姿を現すことはなかった。
それに伯爵様たちはヨンバーンメの街に帰るので、もしかしたら別の街道に向かったのかもしれないね。
そして朝が来た。
このまま順調に行けば今日の昼過ぎにはサンバーンメの街へ到着する予定だ。
「早くサンバーンメの街が見たいね」
「いったいどんな街なのか楽しみね」
「初めての場所はわくわくするのう」
サンバーンメの街に行ったことのない僕、エリーゼ、タマユラは期待を込めて、ついそんな会話をしてしまう。
「着いてからのお楽しみですよっ。きっとびっくりしますよっ」
「そうですね。あれを最初に見た人はみんな驚きますね」
すでに行ったことのあるフララランとツバルさんがそんな思わせぶりな返答をする。
そんなこんなをしながらだいぶ進んだときだった。
「……この先、オツ王国? どういうこと?」
街道の脇にそんな立て札が立っていた。
僕は世の中との交流がほとんどない山奥に暮らしていたことから世間一般の知識がない。ま、ない、って言うか偏っている。
知っていることは知っているけど、誰でも知っているような一般常識を知らないことが多々ある。
そしてこの件もそうだった。
「私たちが暮らしているこの国がコウ王国。で、隣の国がオツ王国なのよ」
僕の知識の偏りのことを良く知っているエリーゼがそう説明してくれた。
「え? サンバーンメって隣の国にあるの?」
「違いますっ。サンバーンメの街はコウ王国にある都市ですっ」
「この街道が一時的に隣のオツ王国の領土を通過しているんですよ」
フララランとツバルさんの説明によれば、他国の領土の一部が半島のようにこちら側に伸びて来ていて、この街道の一部がその国の領土を通っているようだ。
つまりこの街道の大部分はコウ王国内を通っているが、この先のわずかな距離だけ隣国のオツ王国領になっているらしい。
だけど僻地の国境なのでそこに検問所とかはなくて、旅人はなんの手続きもせずに通行できるとのことだった。
そしていよいよ国境にやって来た。
だけど聞いていたようにそこには『これよりオツ王国』と書かれた立て札がポツンとあるだけで石壁とか木柵とかの仕切りは一切ない。
そして国境を管理する兵士の姿もまったくない。
なので境を示す立て札を越えてオツ王国に入っても、ここが外国だという実感はまったくなかった。
まあ、遠くに森があって手前が草原になっている風景にまったく変化もないからね。
「僕、外国に来たのは初めてなんだ」
「おめでとう。でも、代わり映えしない風景だから実感ないでしょ?」
僕はエリーゼの言葉に頷くのであった。
そしてツバルさんの荷馬車一行はそのままゆるゆるを歩を進める。
のんびりとした風景とゆったり過ぎる時間。
快適な旅であった。
一時的に外国に入ったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




