089話 緊急指名依頼。
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どうぞ、よろしくお願いします。
「そうじゃのう。あっちになにかいるのう」
タマユラもエリーゼと同時に同じ方角へと視線を向けた。
妖狐も気配察知能力は優れているようだ。
「ああっ。あれですかねっ。白いのがいますっ。たぶんそうですねっ」
目の良いフララランもなにかを見つけたようだ。
僕も彼女たちが視線を向ける先に目を凝らす。
すると1本の背の高い樹木があった。
それは野営場の端にぽつんと立っているもので、太さはさほどない。と、言うか、背丈の割には細い木であった。
つまり木登りには適さない木であると言える。
そしてその高い位置にある細い枝先の先端の方になにか見えた。
それは真っ白い塊でずいぶんと柔らかそうに見える。
もちろんその木の花でも実でもない。
「ああっ。あれじゃないですかっ。あの枝の先に白いのが乗っかっているのが見えますっ」
「本当じゃのう。あれがシローヌじゃないのかのう」
そうだった。
あれは確かに猫に思える。
僕たちの会話を聞いたお嬢様、目つきの悪いメイドさん、態度の悪い騎士がその細い木の方へと駆け出すのが見えた。
やがてお嬢様一行がその木の根本へと到着する。
「ああっ。やっぱりシローヌよ」
お嬢様の叫び声が聞こえてくるのであった。
どうやら猫のシローヌは木に登ったのはいいものの、怖くて降りられなくなってしまったようだ。
それもそのはず。その高さは10メートル以上もある。
いくら猫でもあの高さで飛び降りて無事とは思えない。
そしてそれからがちょっとした見物になった。
騎士の何人かは鎧を外し身軽になると木に登ろうと試みた。
だが、木は細く騎士が幹によじ登ろうとしただけで全体がゆらゆらと揺れてしまい、今にもシローヌが落ちそうなのだ。
そしてメイドさんたちはテーブルクロスらしき大きな布を数人がかりで手で広げて、落ちても受け止められるようにしているのだが、それでも地上まで高さもありシローヌは動く気配すら見せない。
「……どうする? 私たち結末まで付き合う必要あるかしら?」
「そうですねっ。このまま待ってたら昼になって夜になってしまいますよっ」
「そうじゃのう。いつまで見物していても仕方ないのう」
「あのお嬢様と猫にはお気の毒ですが、私にはなにもできません」
エリーゼ、フラララン、タマユラ、そしてツバルさんがそんな会話をしていた。
そんなときだった。
「……あの。……冒険者のみなさん。お願いできませんか」
気がつくとシャルロットお嬢様だった。
いつの間にか、あの場所から離れ、僕たちの野営地まで来ていたのだ。
僕たちは互いに顔を見合わせた。
そしてみんな戸惑いの顔になっているのがわかる。
そうなのだ。
これがただの少女の依頼であれば、僕たちは気軽にしかも無償で応じただろう。
だが、相手は身分の高いお嬢様なのだ。取り巻きのことも含めて僕たちはなるべく関わりたくないのが正直な気持ちなのだ。
だが、そうは言っても相手は小さな女の子でもある。
その頼みをけんもほろろに断るのも正直気分は悪い。
なので、助けてあげたい、だけど関わりたくない、の両方の気持ちで堂々巡りしてしまうのだ。
そんなときだった。
お嬢様の後ろから数人が近づいて来るのが見えた。
先頭に立っているのは昨夜の女性。――主様と呼ばれていた20代後半の美しい女性だった。
そして主様は後方に着いてきているメイドたちを手振りで立ち止まらせて、たったひとりで僕たちの方へとやって来た。
「依頼をします」
突然にそんな言葉を発したのだ。
そのよく通る澄んだ声に僕たちはちょっとの間、沈黙してしまった。
主様はエリーゼを見、フララランを見、タマユラを見、そして僕を見た。
その視線はまるで目の奥まで射抜くような鋭さで心の底に隠している思考まで見通されるように感じられた。
思わず僕の額に冷や汗が一粒流れる。
「……見た所、魔法使いも2人もいることから、あなたたちなら娘の猫をあの木の上から無事に降ろすことが可能に思えます」
魔法使い2人。服装からして僕とフララランのことだろうね。
「お母様……」
シャルロットお嬢様が目を輝かせる。
主様がそう提案してきたからだろう。
僕はエリーゼを見る。
するとエリーゼは僕たちパーティメンバー全員の顔を順番に見た。
「どう? できそうかしら?」
「我には荷が重いのう。幻術ではどうもならん」
タマユラは重々しく首を左右に振る。
「できますよっ。私の魔法なら、あの木まで届きますよっ」
フララランが得意げにそう口にする。
確かにフララランが操る木の根ならぐんぐん伸ばしてあの高い枝へ届かせることができそうだ。
「わかりました。お受けします」
エリーゼが主様にそう告げた。
「わかりました。……確かこういう場合は緊急指名依頼とかいうものになると聞いています。冒険者組合には街へ到着後に依頼票を提出させましょう」
「あ、あの。私が緊急指名依頼の未記入の用紙を持っています。これを使っていただければ……」
そう言ってツバルさんが背負い袋から1枚の用紙を取り出した。
それをエリーゼが確認し、主様に手渡す。
そのとき護衛も兼ねていると思われるメイドさんの一部が反応する。もちろん主様を守るための用意だろうけど、元々エリーゼに悪意はないからその用意は無用のものとなる。
そして手渡された緊急依頼用紙を確認した主様は、僕たちのパーティ名を聞き、僕たちが食卓用としてまだ片付けていなかった簡易テーブルを利用して、サラサラと書き込んでいく。
「これで依頼は成立しました」
指名依頼を受けたのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




