088話 行方不明。
【基本一日置きで夜の18時に更新します】
どうぞ、よろしくお願いします。
それからその夜にはなにも問題は起こらなかった。
僕たちは交代で見張りをしながら夜を明かす。
そして朝になり、東の空から明るくなってきた。
「マキラ、おはよう」
いちばん最後の見張りのため起きていた僕に天幕から出てきたエリーゼが挨拶する。
「おはよう。エリーゼ。なにも問題はなかったよ」
僕も返事をして報告をする。
するとフラララン、タマユラ、そしてツバルさんたちも起きてくる。
そして僕たちは朝の食事を始める。
朝は素早く済ませるために固パンと干し肉と干した果実といった簡単なものになる。
火を使う料理は時間がかかるからね。
すると向こうの天幕の方がなにやら騒々しいことに気がつく。
昨夜の猫とお嬢様と主様たちの身分の高い方々の一行だ。
7つもある天幕の間を騎士やメイドさんたちが慌てて行き交うのが見える。
ときおり大きな声で問い合わせをしたり確認をしたりしている様子もわかる。
「なにか起きたのかな?」
「かもね。でも、私たちには関係ないわ。関わると面倒になりそうだしね」
僕の問いにエリーゼがそう答える。
うん。確かに昨夜の様子からしても関わると面倒事になりそうだ。
あの騎士やメイドさんの悪意が籠もった視線を思い出す。
「そうですねっ。私たちは無関係ですっ。なのでさっさと出発することをお勧めしますっ」
「そうじゃのう。あちらとは友好的とは言えんからのう」
「私もそう思います。私たち平民が高貴な方と関わるとろくなことになりませんし」
フララランもタマユラも、そしてツバルさんも同意見のようだ。
なので僕たちは撤収の作業にかかる。
天幕を片付け、荷物を収納して出発の用意をどんどんと整える。
そんなときだった。
「……あの。シローヌがいないんです」
そんな声がした。
少女の声だった。振り返ると昨夜のお嬢様が立っている。
髪型は昨日と同じ豪奢な編み込みのものだったが、服装は色違いで別のワンピースを着ていた。もちろん豪華なもので毎日着替える習慣がある裕福な家庭なのが改めてわかる。
「昨夜のシャルロットお嬢様ね」
「どうしたんですっ? シローヌって確か猫ですよねっ? 猫ちゃんがいなくなったんですかっ?」
フララランが遠慮もなしにそう少女――シャルロットお嬢様に話しかけた。
そのグイグイと行く圧力が強かったのか、シャルロットお嬢様はのけぞりながら、なんども頷いた。
「私たちは見かけていませんよ」
「そうですねっ。あの猫ちゃんならいればすぐにわかりますからっ」
「そうじゃのう。見かけてはおらんのう」
そうだった。
僕たちは昨夜以来、あの猫――シローヌは一切見かけていないのだ。
だが向こうの天幕の騒動の原因がわかった。
ほぼ間違いなくお嬢様の飼い猫がまた行方不明なのだ。
そのため騎士からメイドさんたちまで右往左往の大騒ぎなのだろう。
「……そうですか。わかりました。もし見つけたら教えて下さい」
シャルロットお嬢様は悲しげな顔でそう呟くのであった。
そして半べそになりながらもシャルロットお嬢様の話は続く。
今朝、目が覚めるとシローヌがいなくなっていたとのこと。
寝所の天幕内はもちろん、他の天幕も辺りも探したが行方がわからず。
そのうち騒ぎとなって家臣、使用人たちも巻き込んでの捜索となったがまったく足取りがつかめないらしいのだ。
「野生の猫じゃないのだから、そう遠くには行ってないはずよね」
「そうですねっ。案外近くで隠れているんじゃないですかっ」
「そうじゃのう。辺りに猫を襲うような危険な魔物はいそうもないし、第一、これだけ護衛がいるのじゃから野営地が魔物に接近されたはずはなかろう」
そうなのだ。
飼い猫はだいたい遠くまでは行かない。
それにタマユラが行っている通り、騎士たちが夜通し警戒を続けてたのだ。危険な魔物がいたら排除されているに違いない。
それにそんな騒ぎはなかったしね。
そんなときだった。
「お嬢様。どうしてこんな場所に。……は、まさか拐かされたのですか?」
「お前ら。猫だけに飽き足らずお嬢様にまで悪の手を伸ばしたと言うのか。即刻切り捨てるぞ」
見ると、昨夜の疑い深いメイドさんと態度の悪い騎士が立っていた。
メイドさんはお嬢様を抱き寄せ僕たちを睨む。
そして騎士は剣の柄に手を伸ばしている。
「……はあ。猫のことは私たちは存じ上げません。そしてお嬢様も御自らこちらにいらっしゃっただけです」
ため息交じりにエリーゼが返答する。
まあ、そう思うよね。とにかくこの人たちは僕たちに偏見があり過ぎる。
「それを信じろというの?」
「まったく信用ならん。平民風情が立場をわきまえろ」
「お話になりませんっ。昨夜も今朝も猫ちゃんを逃がしたのは、あなたたちですよねっ。あれもそれも私たちの責任にするには無理があり過ぎますっ」
「そうじゃのう。証拠もなしに疑うのはどうかのう? そもそも逃がした落ち度はそなたら使用人の方にあるのじゃろう?」
フララランもタマユラも遠慮なくずけずけと物言う。
そう言われたメイドさんと騎士は悔しげに顔を歪める。
そして僕とツバルさんの男2人はおろおろと互いの顔を見るばかりだ。
情けないが彼女らほど僕たちの肝は座っていない。
「……ん。待って。……気配があるわよ」
突然だった。
両の耳と鼻をピクピクさせたエリーゼがある方向に顔を向けた。
狼獣人の気配察知能力がなにかを見つけたようだ。
シローヌがいなくなったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




