087話 あらぬ疑い。
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どうぞ、よろしくお願いします。
突然、暗がりからそんな声がした。
見ると10歳くらいの少女が立っていた。
フリルがたくさん付いたワンピース姿だった。
そのワンピースは色合いも仕立ても上等だ。
更に髪の毛がすごい。フワッフワッの金色の巻き髪で非常に手が込んだ髪型をしている。つまりどう見ても富豪の令嬢だとわかるものだった。
そして焚き火の炎の明かりを浴びてニコッと笑顔を見せたのだが、整ったその顔は間違いなく高貴な美少女のものである。
「えっと……」
僕が戸惑いの声を漏らすのだが、少女はなにも恐れることなく猫に近づいて来た。
どうやらこの猫はこの少女のペットなのかもしれない。
そんなときだった。
「お嬢様。お止めください。その者たちは危険です」
と、少女の後ろに立っていたメイドさんが手を伸ばして少女の手を取る。
それがいきなりだったので少女は少しよろめいた。
メイドさんは年の頃は20歳半ばくらいだろうか。きつい表情の女性だ。
「お前たち。武器を捨てろ。従わないと容赦しない」
と、メイドさんの更に後方に控えていたようだった騎士のひとりが姿を見せてそう告げた。見るとさっき僕たちに場所を譲れと言った騎士だった。その背後には他に3人の騎士の姿も見える。
そして全員が腰の剣の柄に手を当てているのも見えた。
つまり……臨戦態勢。
騎士たちの表情は剣呑で、その行為は冗談であるようには見えない。
「ちょ、ちょっと待ってください。私たちは冒険者パーティ『ひとつの足跡』です。怪しいものではありません」
「わ、私は行商人のツバルです。商業組合に問い合わせてくだされば身分は証明できます」
エリーゼとツバルさんが慌てて騎士にそう告げる。
ところがメイドさんや騎士は頭から僕たちを疑っているようで、まったく聞く耳を持たない。
「冒険者風情と行商人風情がお嬢様の猫を捕らえるとは、なんたる不遜ですか」
「どうせ売り飛ばすなど良からぬことを企んだのだろう。さっさと武器を捨てないか」
完全に誤解だ。
僕は戸惑いのまま口を開く。誠意が伝わるように懸命だった。
「その猫はいつの間にかここにいたのです。僕たちはなにもしていません」
「まあ、見え透いた嘘を」
「いい加減なことを言うな。おい、お嬢様の猫を持ってくるのだ」
声をかけてきた態度の悪い騎士はどうやらこの連中の中ではリーダー格らしい。そしてその騎士は部下である後方に控えている若い騎士にそう命じた。
命じられた若い騎士は柄に添えた手を戻し、僕たちの方へと近づいて来る。
そして猫の足元に到着し、その手を猫へと伸ばしたのだ。
だが、猫はニャーンと一鳴きすると騎士の手をするりと抜けて、なんと僕の足元へと逃げて来てしまったのだ。
そして上目遣いで僕を見上げ、またニャーンと鳴く。
「な、な、な……。あなたたち、どんな魔法を使ったの? その猫はお嬢様以外には懐かないのに」
「怪しいやつめ。いよいよ油断ならん。武器を捨てろ!」
リーダー格の騎士が怒鳴り声を出す。
僕はエリーゼを見る。するとエリーゼは小さく頷いて短剣を地面に置いた。それを見て僕とフララランは杖を同じ様に地面に置くのであった。
ちなみにタマユラは武器を持っていないのでなにもしていない。
「どうあっても私たちを疑うのですね?」
エリーゼがやれやれと言った感じで問う。
するとメイドさんも騎士たちも当然のように深く頷くのであった。
そんなときである。
「なんの騒ぎですか?」
突然、女性の声が聞こえてきたのだ。
見るとメイドたちを引き連れた20代後半に見える女性だった。
丁寧に編み上げた髪型も、略服だが各所の作りが豪奢な服装も、一目で身分が高い女性だとわかる。
「主様……」
「は。この者たちがお嬢様の猫を拐かそうとしているのです」
お嬢様の手を引いているメイドさんは驚きで絶句し、騎士のリーダーはどうあっても僕たちを悪人扱いしたいようで出任せを言う。
すると主様と呼ばれた女性は僕、エリーゼ、フラララン、タマユラ、そしてツバルさんの顔を順番に見る。
その整い過ぎる顔から向けられる視線は冷ややかで、否が応でも自分たちが品定めされているのがわかってしまう。
僕は自分が冷や汗をかいているのがわかる。
だがしばらく僕たちを観察していた主様がやがて発言する。
「シャルロット。シローヌを連れて戻りなさい」
「はい。お母様」
お嬢様は僕の近くまで来ると猫を抱き上げた。そして僕を見てニコリと笑顔を見せる。
どうやらお嬢様は僕たちに悪意は持っていないようだ。
そしてシャルロットと言うのがお嬢様の名前でシローヌと言うのが猫の名前のようだとわかる。
「わたくしには、この方々はただの冒険者と商人にしか見えません。シローヌがここに来たのは自分の意思でしょう」
ホッとする。
どうやらこの主様もお嬢様同様に僕たちに悪い印象を持っていないようだ。
僕たちの間に安堵の雰囲気が広がる。
「しかし主様……」
「主様。この者たちは卑しい冒険者と行商人です。お嬢様の猫を見て良からぬことを企んだとしか思えません」
メイドと騎士は不満のようだ。
だが主様は首を左右に振る。
「わたくしは問題ないと言ったのです。シャルロット、戻りますよ」
「はい。お母様」
そして主様とシャルロットお嬢様は猫のシローヌを抱き上げて去って行く。
もちろんメイドさんも騎士たちもその後ろの続くのであった。
二度、三度振り返り僕たちを睨みつけたまま。
完全に濡れ衣なのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




