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076話 僕の知らない僕の記憶。

【基本一日置きで夜の18時に更新します】

どうぞ、よろしくお願いします。

 

「……ねえ、霧じゃない?」




「え? ……ホントだ」




 エリーゼが前方を指さした。

 すると緩やかに曲がっている街道の先が白いなにかでぼやけて見える。




「霧ですねっ。もしかしたらあの人たちが言っていた話通りなのかも知れませんっ」




 僕たちは顔を見合わせた。

 エリーゼは不安げ。フララランはもちろんニッコニコ。僕はと言えば興味半分、心配半分ってところだ。




「リーダーが決めてくださいっ。私はそれに従いますっ」




「そうだね。僕もエリーゼの決定でいいよ」




 フララランと僕の提案にエリーゼは腕を組んで考え顔になった。

 ……だから、そういうポーズをされると胸が押し上げられて目のやり場に困るんだよな。



「……引き返すのはあり得ないし。他の道がある訳でもないわ。……危険はないって話だったし、ここはこのまま進もうかしら」




「やりましたっ。それじゃそれで決定ですねっ。私は大賛成ですっ」




 そうして僕たち3人はこのまま街道を進むことになった。

 そして進むごとにだんだんと霧が濃くなってきた。

 最初はそれなりに間隔を開けて歩いていた僕たちだったが、やがて互いの顔も見えないほどの濃霧になったことから、ぴったりと寄り添う形で歩く。

 そうしてしばらくそのまま進んだ頃だった。




「話の通りね。……集落があるわ」




「ホントですねっ。道の両脇にいっぱい建っていますっ」




 その通りだった。

 霧は徐々に薄くなっていて、道の両側に木造の小屋程度の家屋がいっぱい並んでいる。

 造りは粗末なもので狼獣人の里の建物を思わせるけど、こちらの方がより粗末だ。

 でも手入れはされていて廃墟のような雰囲気は一切ない。

 そして屋根を見ると茅葺き屋根だった。また入口扉の戸は木製の格子枠に紙と思われる白くて薄いものが貼り付けてある。

 あれだと保温効果はほとんどないんじゃないかと思うんだけど、きっと明り取りを考えての紙なんだろうな。




 しばらく行くと人々の姿が見えた。そしてその服装はバルクさんが証言したように大きな布を前で合わせて幅広い紐で巻いて縛っているのがわかる。

 足元を見ると草で作られたと思われるサンダルのようなものを履いているのもわかった。



「……そうか。……昔の日本。これは和風なんだ。着ている着物も和服なんだ」




 僕はポツリとそんな言葉をなんの考えもなく呟いた。




「え? ニホン? それってなにかしら?」




「そうですっ。ワフウとかワフクってなんですっ? 私は初めて聞きましたよっ」




 エリーゼとフララランが驚いた顔で僕にそう尋ねてきた。

 すると僕は突然我に返ったかのようにハッとする。




「……なんだろう? おかしいな。僕も知らない」




 するとエリーゼとフララランが怪訝そうな顔になる。




「マキラが今言ったのよ」




「そうですっ。まるですでに知っている知識を披露した感じにしか見えませんでしたよっ」




 そう言うのだ。

 だが僕にはわからなかった。物心がついた頃から山奥の家で師匠と二人きりで暮らしてきたのが僕だ。

 なのでこの異国の風景や人々の服装なんて知っている訳がない。

 なのになぜかわかっている感じがするのだ。

 ……まるで生まれる前に知っていたかのうような不思議な記憶。




「わからない。……でもわかるんだ。……あの屋根。茅って草を干したのを使っている。扉の格子に貼っている紙は和紙と言うものだ。そして人たちが着ているのは着物と呼ばれるもので上から被るんじゃなくて羽織って腰の部分を帯という幅広い紐で巻いて止めている。足に履いているのは枯れ草で編んだ草履と言う履物なんだ……」




 自分でも訳がわからない。

 だけどそういう知識が頭に浮かび、スラスラと口から言葉として出る。

 そんな僕をエリーゼとフララランは不思議そうに見ている。




「なにかわからないけど、マキラにはその知識があるのね?」




「不思議ですっ。でもマキラが嘘を言っているとは思えませんっ。きっとなにか訳があるのですっ」




 僕は自分がどこで誰から生まれたかも知らない。

 知っているのは師匠の家で暮らしていたことと、師匠が僕の生い立ちを決して教えてくれなかったことだ。

 ある意味、謎に包まれているのが僕の生まれについて……。




「……もしかしたら僕の生い立ちに関係しているのかもしれない」




 僕はすでにエリーゼには話している出生に関することをフララランにも告げた。

 師匠に育てられる以前のことを僕が一切知らないことをだ。




「謎ですねっ。マキラのお師匠さんはどうしてマキラの生い立ちを説明しなかったんでしょうねっ?」




「わからない。……それはまだ教えられないの一点張りで、ぜんぜんダメだった」




「深い理由があるのかも知れないわね」




「だったらやっぱり、お師匠さんと再会して質問するしかないですねっ」




 そんなことを話し合いながら僕たちは集落を歩くのであった。

 そして途中、何度か集落を歩く人たちに話しかけることもしてみた。

 だけど誰も曖昧な表情を浮かべるだけで口を開く人はいなかった。




「まったく謎だらけの集落ね」




「そうですねっ。建物の造りと言い、服装のことと言い、訊きたいことはたくさんあるのに誰も答えてくれませんっ」




 僕たちは仕方なしに集落の中をどんどん進む。

 風景に変化はなくて、両側に粗末な家屋が並び、時折歩く人の姿があるだけだ。

 立ち話をしている人やお店などの賑わいもなにもなく、寂しい通りが続く。

 そして1時間くらい経過したときだった。




「なにか見えるわね」




「そうですねっ。建物でしょうかっ。今まで見た中でいちばん大きいですねっ」



知らない記憶なのです。(`・ω・´)∩



 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。



私の別作品


「いらぬ神にたたりなし」連載中


「生忌物倶楽部」連載中



「夢見るように夢見たい」完結済み


「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み



 も、よろしくお願いいたします。

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