049話 勇者との模擬戦。
【毎日夜の18時に更新します】
よろしくお願いします。
「参考までに訊く。今の君のランクはいくつだ?」
「Dランクの斥候職です。素早さと気配察知には自信があります」
すると勇者スザクはフムと考え顔になる。
そしてじっとエリーゼを見る。
それこそピンと立った頭の両耳から足元までじっくりだ。
「無理だな」
勇者スザクはそう言い切った。
眉ひとつ動かさずに感情が籠もっていない声だ。
「……私がDランクだからですか?」
「ランクは関係ない。勇者パーティに必要なのはあくまでも実力だ」
「私にはまだその実力がないと?」
いったいエリーゼはどうしたんだろう?
Dランクの身で勇者パーティなんて論外じゃないか?
そんなの勇者に尋ねる以前の問題じゃないかと思うけど……。
僕はエリーゼを改めて見る。
両耳をピンと立て緊張した顔つきで勇者スザクの目を見つめている。
その整った顔に冷や汗を浮かべて。
「なら、実際に俺と戦って理解してみるか?」
「……いいのですか?」
「おう。お前だけじゃなく、お前のパーティメンバーもいっしょにだ」
「ええっ!」
なんてことだ。
エリーゼの不用意な一言で僕までも勇者と戦うことになってしまったのだ。
僕はエリーゼを見る。
するとエリーゼはすまなさそうな顔になる。
はあ、まあいいんだけどね。
■
それから僕たち『ひとつの足跡』と勇者スザクは支部長さんの手配で冒険者組合の訓練場を使わせてもらうことになった。
それは組合の建物の奥にあるコロシアムのような円形の闘技場だった。
規模はかなり大きい。百人単位で戦いができそうなくらいはある。
「ここでは魔法も真剣も使える。建物自体に防護用魔法と使用者には治癒魔法が予め使われておるからな」
そう支部長さんから説明があった。
なので僕は愛用の杖、エリーゼはミスリル合金製の短剣、そして勇者スザクは光る剣、つまり聖剣を使用することになった。
見物と言うか立会人はAランクパーティ『黒の鋼団』のみなさんだ。顔を見るとライナスさんもリサさんもワクワクしてるね。
そこで僕は思う。
戦うのは別にいい。魔法が行使してあるため怪我や死亡はないから。
ま、勝ち目はないだろうね。贔屓目に見てもエリーゼは強い。だけど勇者の強さは次元が違う。それはあの魔族との戦いを思い出せば火を見るよりも明らかだ。
だからわからないのがエリーゼだ。
エリーゼはなぜ勇者パーティに加入したいと言い出したのだろう。
僕とのパーティが嫌になった……?
……それはないと思う。これまで対立もなく言い争いもなくうまくやってきたし……。
勇者パーティに加入しないと実現できないなにかがある?
支部長さんの説明では勇者スザクのランクは特Sランクだと言う。
国にわずかしか存在しないSランクの更に上のランクなのだと言う。
ランクだけで冒険者の強さが決まる訳じゃないけど、Dランクと特Sランクじゃ余りにも差があり過ぎる。
……やっぱりエリーゼの考えがわからない。
そんなこんな思っているうちに対峙している僕たちと勇者スザクの中間に立っていた支部長さんが片手をサッと上げた。
模擬戦始めの合図だ。
僕とエリーゼは事前にいちおう作戦会議をしていた。
と、言ってもいつもと同じで僕が転倒魔法で相手を拘束し、そしてエリーゼがトドメを刺すパターンだ。
だが、そこで問題視されるのが僕の魔法だ。
それは転倒魔法が勇者スザクに通用するのかという疑問だ。
なぜならば僕の魔法は魔族には通用しなかった。魔法陣が破壊されレジストされてしまったのだ。
なのにその魔族以上に強い勇者に効果があるのかどうか不安視してしまう。
「なんども試してみたら?」
エリーゼはそう言った。
一度でダメならなんども重ねがけしてみたらどうかと提案してきたのだ。
僕はなるほどと思った。
それは今まで試したことがない。もしかしたら……と考えたのだ。
そして対決は始まった。
勇者スザクは動かなかった。
光る聖剣を抜かず、ただ柄に手を当てているだけで僕たちを見ている。
「来ないのか?」
勇者はそう呟いて僕たちを挑発した。
「……マキラ、行くわよ」
「ああ」
エリーゼの言葉を合図に僕たちは行動を開始した。
対峙していた距離は15メートルほどだったのだが、エリーゼの速度はそれを一瞬で縮める。そして8メートルの距離を切ると勢いのままに跳躍する。
「シッ……!」
エリーゼは勇者スザクの首を狙った。
宙で腕を引き一気に突き出したのだ。
だが、勇者はわずかに足を引いただけだった。それだけで刃先をわずかに躱した。
そしてエリーゼは空振りのまま勇者の向こうに着地した。
「ほお。確かに速いな」
勇者は振り返りニヤリと笑みを浮かべる。
……すごいな。
僕は素直に脱帽した。勇者は本当の紙一重の差で避けてみせた。
まるで最初からエリーゼの剣の軌道がわかっていたかのようだった。
そしてエリーゼは得意の戦法が通用しなかったことで、慎重に身構える。
次の一撃を考えているのだろう。
「転倒!」
そして僕は背を向けている勇者スザクに魔法を放った。
勇者の足元に魔法陣が浮かび上がる。
だが、それはパリンと音を立てて砕けた。
あのときの魔族と同じだ。魔力のレベルが違いすぎてレジストされてしまったのだ。
模擬戦が始まったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




